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115話 協力

テオは椅子から立ち上がり、顔を真っ赤にして、息を切らしている。


これは流石に口走ってはいけないことを発言してしまったらしい。


今まですかした態度だったテオがこんなに感情露わにするとは思わなかった。


「なんか、その……すいません……」


私はひとまず謝罪を入れた。


テオも自分が興奮していたことに気が付き、咳払いをして席に座り直した。


「俺の前世については詮索するな。お前だって、昔のことは聞かれたくないだろう?」


彼が横目で私に視線を向けて話した。


私以上に彼はなかなかの闇をお持ちのようだ。


さっきはバカにしてしまったけれど、私は特にオタクというものに偏見はない。


何よりも自分が彼ら寄りの人間だったと自覚をしているし、ノーマルな人間のような思考は持ち合わせていなかった。


ただ、引きこもりとか陰キャなどは言い過ぎた。


しかも、伊達メガネに猫背は完全に私の先入観である。


それががっつりはまってしまったことは、災難としか言いようがない。


「わかった。今は聞かない。けど、条件がある。あんたが知っているこの世界の情報を全て私に開示して。それが、私とあんたが協力関係になる条件よ。命を守られることを理由にあんたの一方的な要求をのむ気なんてないから。あんたの目的は、自分の命を守るために闇魔法の暴走を止め、尚且つ跡目争いに勝ち、この国の王になることなんでしょう?」


彼は肯定もしなかったが、否定もしないということは目的に関しては間違っていないのだろう。


「私だってこのまま黙ってあんたの妾になってやるつもりはない。あんたはいいかもしれないけど、私はこの人生、まだ諦めてないんだから。こんな場所に閉じ込められて、飼い猫のように飼われるのは我慢できない」


「ならどうするつもりだ。俺との関係も破談にして、戦争でもおっぱじめるつもりか?」


私は力いっぱい首を横に振った。


「それはダメ! そんなことをすれば多くの人が死んでしまうし、この国にとっても良くない。何よりも、アメリアの幸せという目的を阻害しかねない事件を起こせば、それこそ私たちは強制的に排除されるかもしれない。私たちは転生しただけで、タイムリープできるわけじゃないの。失敗したらそこで終わりだよ」


その言葉にテオは一瞬たじろいだ。


そして、咳払いをして答える。


「なら、猶予をやる。お前が正式に俺の側室に上がる前に、新たな対策を考えろ。それが納得のいく提案なら、俺ものんでやる。そして、俺が持っているこの世界の情報もお前に開示してやろう。ただ、何も浮かばないようだったら、このまま俺の指示に従ってもらう。俺だってお前みたいな面倒な女を迎え入れたくはないのだ。それでも俺は今の自分の事情を理解できる協力者が一人でも必要なんだ」


一人で物事を達成するには限界がある。


それはきっとテオも気づいている。


だから、私やリオを巻き込んで対策をしてきたのだろう。


しかし、想定以上の出来事、マルグリットの出現には彼もかなり警戒しているようだった。


私だって彼女は怖い。


ここは一人でも多くの味方をこちらにつけて、悲劇を回避するしかない。


ただ、テオの言い方がどこまでも偉そうなのが気に入らないけど。


「実際に時間はどれぐらいあるの?」


私はテオに直接、聞いてみる。


「側室と言ってもこちらの独断だけでお前を迎い入れるわけにもいかない。早くても数週間、約1か月は見ておいてほしい」


1か月かと私は頭の中で考えた。


それなら、何とか絞り出せるかもしれない。


「なら、定期的に連絡を取りあわないとね。私は審議が決まるまで別邸からは出られないんでしょ? 誰かを呼び寄せることは出来るの?」


「いや、周りから警戒されないためにも、お前の身内、つまりヴァロワ卿ぐらいしか屋敷には入れられない」


「それってニアも?」


私は連れてきたはずのニアが屋敷にいないことを思い出し、テオに尋ねた。


「そういう決まりだ。不満はあるとは思うが、我慢してくれ」


私は益々憂鬱になった。


つまり、今以上のいい対策を考えないと、私は二度と仲のいい人たちと会えないかもしれないのだ。


「お前が屋敷から出られない以上、俺が出向こう。そこで今まで集めた情報と新たに入って来た情報を照らし合わせる。マルグリットの今後の動きも気になるしな。俺は乙女ゲーの大まかな情報を知っていても、ゲーム自体はやったことがないんだ。だから、細かいところはお前の方が詳しいだろう」


「やったことがない?」


私はつい、聞き返してしまった。


前世も男の子だったんだから、乙女ゲーをしていたという方が稀なのかもしれないが、ならどうして情報を持っていたのだろう。


過去について検索しないとは言ったが、そこはどうしても気になった。


「悪いけど、一つだけ聞いて言い? あんたはどうやって『あの恋』の内容を知ったの?」


その質問に予想通りテオは気まずそうな顔をした。


「……妹が、好きだったんだよ。俺の家はそんなに大きくなかったし、壁も薄かったから妹の部屋の音が丸聞こえで、ゲームの音も始終漏れて来てたんだ」


「けど、それだけじゃ全貌はよくわからないでしょ?」


私はイメージしながら、頭に浮かんだ質問をした。


「妹が定期的に同じ趣味の友達を部屋に呼んで、ゲームの内容についてああだこうだと騒ぎ立てていたんだよ。でかい声で騒ぐから、嫌でも内容がわかるようになった。こっちに転生して記憶が戻った時、すぐにあのゲームの世界と同じような世界だと思ったんだ。そして、最悪を想定しつつ対策を立てながら、リオを引き込んでお前の監視に当てた。ゲームの内容通り、世界が動くかどうかを見るためにな。ついでに学園が始まる前から使いの者を出して、街にアメリアという女が暮らしていないかも事前に調べておいた。怖いぐらい、ゲームそのものだったぜ」


なるほど、テオはそこまでしていたのかと感心してしまった。


私と言えば、学園に行ってから確かめればいいと安易に考えていたから、大した対策をしないままここまで来たというのに。


きっとテオは、私の婚約破棄になることも考えて、私を自分に引き込むところまで想定していたのだろう。


しかも、この世界の住人であるリオまで説得出来たことには今も驚いている。


私なんて、彼に会うまで攻略対象の一人という認識しかなく、彼を説得して味方にしようなど考えもしていなかった。


今考えれば、リオが抱えている問題や彼の性格、知能の高さを考えれば、攻略対象の中で一番話が通じる相手だということは想定できたはずだ。


しかも、その後の監視の中で私が物語通りのエリザでないことを見抜き、自分と同じ転生者だと予測し、リオに探りを入れさせ、仲間に引き入れた。


このテオという転生者、バカでもないようだ。


私も自分があの恋の悪役令嬢のエリザだと知って、なんていう世界に来てしまったのだと愕然としていたけれど、きっとテオも同じだったのだと思う。


彼がどんな形で死んで、どんな形で生まれ変わったのかわからないが、二度も不幸な死など迎えたくはないだろう。


口は悪い男だが、協力して損はないようだ。


なによりリオが認めた男。


少しは信用してみようと思った。


「とにかく、明日からよろしくね」


私は彼に向かって手を差し伸べた。


握手で契約成立だ。


最初は躊躇っていたテオだったが、一息ついて冷静になるとその手を取って答えた。


「期待している」


私たちはこの時、正式な協力関係となった。

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