114話 疑問
私は荷物をまとめ、王宮に向かっていた。
馬車の中には機嫌の悪そうな父と複雑な表情のニアが一緒に乗っていた。
折角親子で一緒にいるのに、父は私と何も話そうとはしない。
当然、ニアも空気を呼んだのか、黙って俯くばかりだ。
そんな重い空気の中で私たちは王宮に着く。
荷物は事前に部屋に運び込まれるらしい。
ここに来るのはウィリアムにお茶会の招待状を送られてきた時以来だ。
懐かしいのに、気持ちが落ち込んでいるせいか、全てが薄暗く感じてしまう。
出迎えの者が父と私を謁見室まで案内した。
ニアは馬車の前で見送っている。
私たちが謁見室に着くと、指示された場所で待つように言われた。
膝をつき、頭を下げていると王とテオが現れた。
「面を上げよ」
その指示で私たちは顔を上げた。
テオは相変わらず憎たらしい顔で笑っている。
「よく参ってくれた、エリザ。我々は君を歓迎しよう」
私にそう告げると、今度は父の方を見て答えた。
「ヴァロワ卿、よい判断をしてくれた。これからも侯爵家とは深い関係を築いていきたい」
「勿体ないお言葉です」
父はそう言って、もう一度頭を下げる。
このやり取りは何なのだろうと思う。
父は娘を家の為に安売りしたのではないだろうか。
数分間、話を聞いた後に私たちは謁見室を後にした。
そして、扉の前で父はやっと私に声を掛けて来る。
「お前はテオ様に尽くしなさい。そして、常に頭にはヴァロワ家の事を第一に考えることだ。王宮に入る娘のやることはわかっているな」
「はい。父上」
そう、私たちはこの国の従順な臣下じゃない。
私の仕事は二つ。
一つは王子の世継ぎを設けること。
もう一つは、ヴァロワ家にとって有力な情報を入手して、密かに情報を流すこと。
私はこの城の人質であり、ヴァロワ家の密偵でもある。
当然、父たちヴァロワ家が王国を裏切れば、私は切り捨てられる。
それが、王子の子を産んだとしてもだ。
父にとって娘とはそう言った利用価値しかない存在なのだろう。
娘の敬う言葉なんて一つもなかった。
私はそのまま自室に案内された。
しかし、そこにニアはいなかった。
「ねぇ、ニアは? 私の屋敷から使用人を一人連れて来たでしょう?」
するとお付きのメイドが頭を下げて、淡々と答える。
「申し訳ございません。王子の命令でヴァロワ家からの使用人は屋敷に入れない決まりになっています」
「そんな!!」
私はつい声を上げてしまった。
しかし、それ以上の私の要望など聞く気はなさそうだった。
そのメイドは丁寧に頭を下げて、部屋を後にする。
私はニアとも離れ離れになるのか?
それはあんまりではないか。
私は泣きそうになりながらも、必死でこらえた。
暫くの間、部屋で佇んでいると誰かが扉をノックした。
私が返事をすると使いの者が私に伝言をした。
「テオ王子が、準備が出来次第テラスに来てほしいとのこと。お茶会を開くとのことです」
「お茶会?」
私は聞き返したが、はやり従者はそれ以上答えなかった。
なんて扱いだ。
それなりに敬意を払われているが、まるで私を人とも思わない態度だ。
ひどくよそよそしさを感じた。
私はこれら含め、全ての疑問をテオにぶつけてやろうと思った。
お茶会に行く準備ができると、私は指定されたテラスに向かった。
相変わらず人形のような無表情のメイドたちがついて来る。
ここまで来たら、不気味に感じるほどだ。
私がテラスに着くと、既にテオが席に座り、お茶を嗜んでいる。
私はテオを睨みつけ、足早に彼の前に立った。
「どういうつもりなんですか!? あなたの目的は何!?」
「君と言い、テオと言い、来て早々怒鳴り上げるのは辞めてくれないか。俺はそういう感情的に話しかけてくるのが一番嫌いなんだよ」
お前の好き嫌いなんてどうでもいい。
今すぐにでも事情を話してほしかった。
テオは近くにいた従者たちを全て下がらせて、ひとまず席に着くように促した。
「そんな感情的になるな。これは救済処置だ」
「救済処置? 自分の側室にすることが? ふざけないでよ。あんた、変態なの?」
私が大声を上げて訴えると、テオは大きくため息をついてから答えた。
「男とは少なからず変態だ。乙女ゲーの世界だからって幻想を抱くな」
「それでもあんたは最低だよ。人の気も知らないで、勝手な事をしてくれて」
そう言うと、テオは横目でちらりと私を見た。
相変わらず冷たい目をしている。
「勝手な事をして何が悪い。俺は王子だ。それにこれは全てお前の父親が判断したことだろう。俺に怒りをぶつけるのはお門違いなんじゃないのか?」
ああいえばこういう男だ。
私はこういう口先ばかりたつ男が大っ嫌いなのだ。
「言っただろう、これは救済処置だと。お前のアメリアの世界で仕事は終わったんだ。お前がこのまま生き延びるためには、あの女から離れるのが一番いい」
「だからって自分の側室ってか、妾にしなくてもいいじゃない。まさか、世継ぎを設けるだなんて冗談に決まっているよね?」
するとテオはぽかんとした顔で私を見ていた。
「何が冗談なんだ? それが側室であるお前の仕事だろう」
「仕事って――。ふざけないでよ! なんで私があんたみたいな男と!!」
テオは私の叫び声を聞いて、鬱陶しそうな顔をした。
「二回も同じ言葉を使うな、鬱陶しい。これは交渉だ。俺がお前を全ての権力を使って守る。だから、お前も俺の望むことをやってもらう。俺は隣国の女の子どもなど作る気は毛頭ないのだ。お前の願いはその命を奪われないことだろう? このままあんな場所にいたら、お前、マルグリットに殺されるぞ」
「なんで、マルグリット?」
突然彼女の名前が出て私は驚いた。
「わからないのか? あいつは俺たちのしようとしているシナリオ改変の邪魔をして、本来のストーリーに戻そうとしている。目的はわからないが、おそらくあいつは俺ではなく、ウィリアムを王座に就かせるつもりだろう」
「ウィリアムを何で?」
「お前、質問ばかりだな。少しは自分の頭で考えろ。ウィリアムが王になった方が都合がいいからだろう。俺を操るよりもあいつの方がよっぽど扱いやすい」
確かにとなぜか納得する自分がいた。
それでもやはり納得しないことの方が多い。
「だからって私をこんなところに閉じ込めないでよ。やっとお役目を終えたのよ。全てが片付いたら一人旅でもしようかと思ってたのに……」
その話を聞いて、テオはあからさまに呆れた表情をした。
「ふざけんなよ。何勝手に離脱してんだよ。まだゲームは終わってないだろう?」
「知らないわよ。殺されるぐらいなら、逃げた方がまし。私はやるべきことをやって来たんだし、もういいじゃない。ってか、あんたこそなんでこの乙女ゲーのシナリオを知ってんのよ。前世が女だったの?」
「ち、ちげぇよ。女のわけがないだろう。バカか、お前は! 俺だってこんな乙女ゲーの内容なんて知りたくなかったよ!」
段々口調が王子らしくなく、私の知る現代の男の子らしい口調になっていた。
やはり彼は本当に転生者のようだ。
「そう言えば、あんた、あっちの世界ではオタクだったんでしょ? リオの会話聞いたらわかっちゃったよ。アニメの話とかしているし、言ってることマニアックだもん。もしかして、前世では引きこもりで、伊達メガネとかかけて、猫背の典型的な陰キャだったんじゃない? 頭でっかちだし、友達とか少なそうじゃん」
私は半分冗談のつもりで言った。
あまりに腹が立ったので仕返しのつもりだったが、がっつりと彼の逆鱗に触れてしまったようだ。
「だから俺は女が嫌いなんだよ!!」
完全に地雷を踏んでしまったようだ。




