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113話 テオ

リオは早足でテオの元に向かっていた。


テオのいると思われる書斎の部屋の前には、警備の兵士が二人立っている。


「テオ王子にお目通り願う。すぐに取り次いでくれ」


リオが目の前の兵士にそう告げると、不快そうな顔でリオを睨みつけた。


「なんだ、お前は。テオ様は忙しい。約束がないなら帰れ」


「緊急事態なんだ。リオネルが来たと言えばそれでいい。とにかく取り次いでくれ」


リオが必死に訴えるが、兵士たちはお互いの顔を見合わせて、バカにしたように笑った。


「そんなやつ知らねぇよ。とっとと失せな」


兵士がリオに向かって、追い払うように手を動かす。


リオは悔しそうに兵士たちを睨みつけていた。


すると騒ぎに気が付いたのか、リオの秘書官が一人、扉を開けた。


「何事か?」


彼女は兵士たちに尋ねた。


それに気が付き、兵士が敬礼をする。


「は! リオネルなどと名乗る少年がテオ様にお会いしたいと。命令であれば、すぐに追い払いますが」


「リオネル?」


秘書はその名を聞いて、考え込んだ。


そして、兵士に待つように指示を出す。


数分後、その秘書は戻ってきて、兵士に告げた。


「通せ。テオ様がお会いになるとのこと」


兵士は再び敬礼をして、リオを通した。


テオは大きな書斎机の椅子に座り、いつものように冷笑を浮かべていた。


それがリオは非常に不愉快だった。


「テオ、説明してくれ。エリザをお前の側室にするなんて話、ボクは聞いていない!」


それを聞くと、少し驚いた顔をしたが、いつもの笑い顔に戻り、側にいた秘書官たちに下がらせるように言った。


そして、部屋に二人きりになったところで話し始めた。


「言っていなかったか。それはすまない」


「すまないなんて言葉で終わらせるな! どういうつもりなんだよ、テオ」


テオはおかしそうにくすくすと笑った。


「そんなに怒るな、リオネル。これも全てシナリオ改変の為だろう? あいつは本来もう死んでいるんだ。これ以上野放しにしてもいいことはない」


「だからって、君の側室にする必要はないだろう? 彼女がそんなこと望むとは思わない」


彼女ねぇと意味ありげに、テオはリオの言葉を繰り返す。


「これが一番理に適ったやり方だろう? 俺はこんなところで貴重な戦力を失いたくない。それに俺にはヴァロワ家の力が必要だ。エリザにはまだ利用価値がある」


「利用価値って……」


リオは更に険しい表情をした。


「おいおい、お前らしくもない。そんな言葉で動揺か? あいつを学園に返したところで、またアメリアやウィリアムにとって邪魔な存在となれば消されるだけだ。それに学園にはお前の母、マルグリットが居る。あいつは俺たちの行動を阻害する存在だ。エリザを俺の側室にして、この王宮で匿った方が確実だろう」


「だからって側室にする必要なんて……」


「エリザを殺さずにウィリアムの婚約者から外し、尚且つヴァロワ家当主の機嫌を損ねないようにするにはこれが一番だろう。あいつらを説得するのも簡単じゃない。もしや、お前、感情的になってそんなことを言っているんじゃないだろうなぁ」


テオはにやりと笑ってリオを見る。


「ボクは別に……」


「言っただろう。恋愛なんて感情は眉唾物だって。人がパートナーを選択するための妥協的施策だ。そんなものに捕らわれ、盲目になっていてどうする。お前の目的はなんだ。亡き王国の再建ではなかったのか」


リオはそう言われて、口ごもる。


リオもまだ、この感情をどう表していいのかわからなかったのだ。


ただ、エリザが望んでいないのに強制的に支配するのは気に入らない。


「お前はもっと合理的な人間だと思っていたよ。一時期の気の迷いで選択を誤る人間にはなるな。それに今、お前が抱いているのは恋なんて言うロマンチックなものではない。ただの独占欲だ。保有効果が働いているだけだ。お前は学園でエリザと共に過ごしたことにより、彼女との親密な関係性を失いたくないという感情が働いたのだ。人間は一度手にいれたものを手放したくないと思う心理がある」


テオはあくまで冷静にリオの心情を説明し始めた。


リオだってわかっている。


こんな感情は一時的なものでしかない。


「エリザを側室にしてどうするの? 君が人助けなんて言わないよね?」


それを聞くと、テオは大きな口で笑った。


「当たり前だろう。俺を誰だと思っている。俺が着目しているのは、土壇場でエリザが自分の運命を覆したことだ。見事にアメリアの感情を操り、自分の死を自らの責任と不幸に結び付け、罪悪感を抱かせることに成功した。最初はただの能無しかと思っていたが、俄然興味が湧いた」


テオは机に肘をつき、顔を乗せ、リオをじっと見た。


「転生者はこの世界の人間と思考が少し異なる。このばかげた運命を変えるためには他の転生者の意見が必要だ。ウィリアムにはエリザに対する負い目もあるしな。使わない手はないだろう」


「なら、相談者として匿うということ? 彼女には自由はあるの?」


「自由?」


テオはリオの言葉を聞いて鼻で笑った。


「そんなものあの女に必要か? 俺があいつを飼ってやろうというのだから、従順に従ってもらわなければ困る。それに、俺は正室の女、パルスティナとの間に子供を設けるつもりはない。隣国の王女など鬱陶しいだけだ。子を成したところで、あいつらの国が喜ぶだけだろう。だから俺は、エリザに子を産ませる。それがヴァロワ家の願いでもあるしな。一石二鳥だろう?」


それを聞いて、リオは目を見開いた。


そんな理由でエリザはテオに弄ばれると言うのか。


「ふざけるな! 君、エリザにはなんの感情もないんだろう? 君は今までだって何もなせなかった彼女をバカにしてきたじゃないか。なのに、ここに来て子供を作るだなんて……」


「なんだよ。やっぱり乙女ゲーの王子様は考えが生ぬるくていけないな。どこの歴史だって当たり前のことだろう? それが政略結婚ってやつだ。エリザは何のために俺の側室になる? 世継ぎを生むためだろう。男はなぁ、別に好きじゃなくてもそう言うこと出来るんだよ。あいつが前世でどんな容姿だったかは知らないが、実際に相手にするのはエリザという美人になった年頃の女だろう? 俺だってここでの容姿は悪くない。訳の分からないおっさん貴族に抱かれるより、俺に相手をされた方が幾分かましだろう。しかも、その世継ぎは次の王座に上り詰める。女としてこれ以上ない本望じゃないか」


テオは相変わらずにやにやした顔で答えた。


リオは今にも殴り掛かりたい気持ちだったが抑えた。


ここでもめ事を起こせば、それこそ王宮を追い出されかねない。


「リオネル、勘違いはするなよ。俺たちは互いの利害関係が一致したから協力し合っているんだ。お友達ごっこをするつもりはない。お前には学園でのエリザの監視を頼んだが、特別な関係になって良いなんて一言も言ったつもりはない。ただ、お前がどうしてもと望むなら、世継ぎとなる俺の子を産んだ後にお前にくれてやってもいい。お下がりが気に入らないなんて言うなよ? あいつはこれからますますいい女になるぜ」


リオは感情が抑えられなくなり、殺気に満ちた目で睨みつけた。


テオは両手を上げて、宥めるふりをする。


「辞めとけ、リオネル。ちょっとからかっただけでこれか。だから、感情的になるなといったんだ。感情は人の思考能力を低下させる。誤った選択をさせる。感情を殺せ。さもなければ御家再建など夢のまた夢だぞ」


リオは怒りが静まらなかったのか、何も告げないまま書斎を出て行った。


そんなリオを見て、テオは呟く。


「思春期の餓鬼を揶揄うのは面白い。ただ、いい加減あいつにも下らぬ幻想を抱くのを辞めてもらわなければな。リオネルは俺が最初に見つけた駒だ。俺は絶対にこの世界の摂理に屈しない。必ず生きて、この王国を俺のものにする。でなければ、こんな世界に転生してきた意味がないのだ」


彼はそう言って、椅子から立ち上がり、窓の側まで寄って空を見上げた。

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