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106話 教室

誰もいない教室に足を踏み入れる。


生徒がいる時はあんなに騒がしい教室の中も、こうして誰もいなくなると物寂しい場所になるのだなと感じた。


歩くたびに鳴り響く足音。


私は教壇の前に立ち、深呼吸した。


そして、持っていた杖を構える。


「なんだかすごく悪い事するみたいだなぁ。って、悪い事なのか、これは」


私は今から自分のやることを思い出し、独り言を口にする。


自分でも馬鹿じゃないかと思う。


けど、こうでもしないと婚約破棄の理由を作れない。


私がアメリアを殺そうとした事実を公開するよりは、幾分かマシだろうと思った。


ただ、父にウィリアムとの婚約をなかったことにしたいと言ったところで、あの人が聞き入れるとは思わない。


きっと理由も聞いてこないだろう。


いつものように冷たい目で、バカな事をいうなと叱責されて終わるだけだ。


ならば、そうせざる負えない理由を作ってやるしかない。


こんなことは私もしたくはなかったが、誰かを危険な目に合わすよりはいい。


私がウィリアムの婚約者である以上、プログラムはきっと私を邪魔な存在と認識し、命までは取らなくても婚約破棄となりうるきっかけを作ろうとする。


犯罪者にされて処罰されるというケースも考えられなくない。


死以外にも私をこの世界から追放することは出来る。


だから、その前に私自身の手で軽い罪を犯し、二人の世界から離脱するのだ。


それが最も自分が軽傷でいられる気がした。


私は呪文を唱え、魔法を放つ。


アメリアのウサギ事件の時と同じように私も無許可で魔法を使えば停学になる。


自主練習していました程度だと、父の手であっさりもみ消されてしまうだろう。


だからこそ、パフォーマンスが必要なのだ。


私は私の持つ最大限の魔力を使って、教室内に竜巻を作った。


竜巻はありとあらゆるものを巻き込み、宙に舞い、次第にガラス窓を割った。


その音は校舎中に鳴り響く。


ここまで派手にやれば、校舎に残る講師の誰かが気づくだろうと思った。


私の魔力はつき、風は消える。


しかし、教室の中は竜巻によって多くの物が飛ばされ、一部は破壊されていた。


私の魔力も日々成長しているのが垣間見えた。


予想通り、数分後には教室の異変に気付いて、サディアスが飛び込んで来た。


「何をやっているんだ!!」


サディアスは教室に誰かいることに気が付いて、声を上げる。


しかし、まさかその生徒が私であるとは思わなかったのだろう。


唖然とした状態で私を見つめていた。


私は静かに彼の方へ振り向き、答える。


「私がやりました」


「エリザ……」


なぜという疑問がサディアスの中に浮かんだのだろう。


それはそうだ。


私は悪名高い悪役令嬢だったが、生徒としてはそこそこの優等生だったのだから。


暴れ回って教室を破壊するような生徒とは思わなかっただろう。


「むしゃくしゃしていたんです。学期末の試験の成績も思うほど伸びませんでしたし、嫌な事ばかりで、憂さ晴らしがしたかったんです」


「憂さ晴らしにしたって……」


やりすぎだとでもいいたかったのだろう。


その通りだ。


やりすぎぐらいが今の私にはちょうどいい。


「もういい。わかった。この事は学園長に相談する。お前も一緒についてこい」


サディアスは大きく息をついて、私に答えた。


私も素直に返事をして、サディアスについて行く。


まさか自分の姪がこんな事件を起こすとは思っていなかったのだろう。


本来のエリザは私よりずっと癇癪持ちで、衝動的な人だったから、こういうこともしたのかもしれない。


自分で言うのもあれだが、転生した後のエリザは従順で大人しいタイプだ。


一時の怒りで教室を破壊するような人間ではない。


ましてや、校則を破って魔法を使うなど、緊急事態でもなければありえなかっただろう。


私らしくないとは思う。


けれど、そんなことは大人たちにとってどうでもいいことなのだ。


私はサディアスについて行き、学長室の前に立った。


サディアスが扉をノックし、返事を確認すると扉を開けた。


「お忙しいところ申し訳ありません。学園長に早急にご報告することがありまして」


サディアスは学園長の顔を見ると申し訳なさそうに話しかけた。


私も室内に入り、学園長に顔を見せる。


学園長は私の姿を見ると、なるほどと頷いて見せた。


「何か問題が起きたようですね。先ほど、校舎の方からガラスの割れる大きな音が聞こえました。エリザ・A・ヴァロワ。大胆な事をしましたね」


学園長はサディアスから事情を聞かなくてもおおよその事が理解しているようだった。


この瞬間、私の目の前にいる男はとんでもない人物ではないかと思う。


「学園長、それは――」


「ウォンヴァス教官、あなたはヴァロワ卿にご報告を。また、校舎に残る他の講師の先生たちに連絡し、校舎の片づけを手伝ってもらうように頼んでもらえますか?」


学園長は優しい口調でサディアスにそう告げた。


彼はそれ以上口を挟むのは辞めて、学園長の指示に従い、部屋を出た。


「エリザ。あなたはこちらへ」


学園長は私を呼び寄せ、長椅子に座るように言った。


私は黙って言う通りにする。


学園長もゆっくり私の前の席に座り、私を見つめた。


「あなたの事です。何か考えがあったのでしょう? あなたは誰よりも魔法の怖さを知っている。アメリアの時もあなたはそれがどれほど罪深いことと知っていて行動していたはずです。ならば、あなたに下される処分はわかっていますね?」


私はゆっくりと頷いた。


「はい。校則に遵守して、私を停学処分にして下さい」


学園長は目を瞑り、小さく肩を落とした。


「停学処分の意味をお分かりですよね。侯爵家の令嬢と雖も、それなりに厳しい処分となります。あなたの今後の扱いも変わるでしょう」


「わかっています」


私は学長をまっすぐに見つめ答える。


「そうですか。ならば、私からは何も言うことはありません。覚悟した上でしたことなのでしょうから。後は、あなたの父上、ヴァロワ卿と話し合ってください。明日からは長期休暇となります。処分の内容は、おってこちらから連絡しましょう」


学園長の言葉にわかりましたと答え、私はそのまま学長室でサディアスの報告を待った。


今、父がどこにいるのか、私は知らない。


今から連絡を入れても直ぐには来られないだろう。


サディアスが再び、学長室に戻って来ると父は明日の昼にはこちらに着くと連絡があったようだった。


それまでの間、私には学園の寮で待つようにと指示があったようだ。


学園長は私に、また明日の昼前にこちらに来なさいと命じた。


私は学園長に一礼して、部屋を出る。


その時、すれ違ったサディアスに見られたが話しかけることは何もなかった。


自分が何をしたかはわかっている。


そして、これを聞いた父がどんなことを思っているかもだ。


その日の夜、私はヴァロワ邸に戻る準備をニアに頼んで、そのまま床についた。






翌日、学園長に言われた通り、荷物をまとめ学長室に訪れていた。


父は思いのほか早く学園に着いたようだった。


急ぎ足で来たおかげで息を切らして、部屋に入って来る。


「学園長、愚娘がこのような無礼を働き、大変申し訳ない。教室の修繕費は当然、こちらに請求していただいて構わない。ただ、陛下への報告はもうしばらく待ってはいただけないだろうか? 私の方から直々に申し上げたい」


学園長は父のその要望を承諾した。


学園長の返事を聞くと、父はこちらに顔を向け、恐ろしい形相で睨みつけて近づいて来た。


私はそんな父をじっと見つめた。


父は私に何も告げず、そのまま頬を思い切り叩いた。


部屋中に音が鳴り響き、私は床に倒れる。


「バカ者! お前は何をやっているのだ!!」


そんな父の行動に学園長が止めに入る。


しかし、こうなることはわかっていた。


私は父に叩かれ、腫れた頬に手を当てながら聞いていた。


「王子の婚約者ともあろう者が停学処分などあっていいはずはない! とんでもないことをしてくれたな。お前は屋敷に戻って部屋から一歩も出るな。お前に今後自由などないと思え」


父はそう吐き捨てて、再び部屋を出て行った。


私は言い返すこともなく、父の言うことに従った。

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