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102話 誘い

忙しない日常から少し解放され、落ち着いた日々が続いた。


あれから何度かリオに会うために科学室を訪れたが、リオの姿は見当たらなかった。


学期末も近づいて、試験の事もあり、私はリオとまともに会話が出来ないまま、時だけが過ぎた。


「わぁ、雪だぁ」


セレナは雪が降る空を見上げながら、嬉しそうに声を上げる。


私も顔を上げ、空を仰いだ。


通りで寒いわけだ。


「もうすぐ学園で行なわれる年末の恒例行事、舞踏会がありましたわよね。誰と行くかお決めになりました?」


ロゼに聞かれて、そう言えばそんなイベントもあったなと思い出す。


こちらではクリスマスがないかわりに、お祝い事として年末にパーティーを開く習わしがあった。


パーティーには異性同伴が必須。


お陰で学期末試験が終わると生徒達はその話題で持ちきりになり、皆、意中の相手に誘いをかけるのだ。


とは言っても、私には誘える相手などいない。


ウィリアムはアメリアを誘うだろうし、ギルバートとはあんなことがあった所為か誘いづらい。


あの後、ギルバートにも会ってあの時の話をした。


彼もよく覚えていないらしく、気が付いたら自分の剣で私を貫いていたそうだ。


何度も謝られたし、償うとも言われたが私は遠慮した。


恐らくあれはギルバートの所為じゃない。


こんなところで彼に負い目を感じてほしくはなかった。


「そもそもこういうのは男性の方から誘うものじゃないの?」


私はロゼに尋ねる。


「そんなのを待っていたらいつまで経っても決まりませんわよ。それとも誘われる宛てでもありますの?」


そう言われると返す言葉もない。


以前の私ならウィリアムが誘ってくれる可能性も考えていただろうが、あの二人を認めてしまった以上、それもありえそうにない。


となると、声を掛けられるのは一人だけだ。


「あの科学室の引きこもりでも誘ってみたらいかがですの?」


ロゼにそう言われて足が止まった。


科学室の引きこもりってリオのことだよね?


「なんでロゼがそれを知っているの!?」


私はつい大声を上げてしまう。


ロゼは呆れた表情で私を見ていた。


「わたくしを見縊っていただいては困りますわ。あなたがこそこそと科学室に通っていたのは知っておりますのよ。それに、以前わたくしも科学室に行って彼と話したこともありますわ」


そんな言い方をしたら、私とリオが密かに逢引しているようではないか。


そんなムードなんて一ミリもないのに。


「その時の彼、エリザの事本気で心配しているようでしたし、ちゃんとお礼を伝えておいた方がよろしいんではなくって?」


ロゼの言葉に私は驚いていた。


リオが私を心配?


そんなこと想像もできない。


しかし、私がパーティーに誘えそうなのは彼しかいない。


「よろしくって。このパーティーを欠席しようものなら、新学期から憐みの目で見られますわよ。そんな恥をかきたくなければ、何が何でも同伴者を探すことですわね」


ロゼは厳しい口調で私に告げた。


もう、迷っている場合ではなさそうだ。






本日の講義終了後、私は改めてリオを探すために校内を歩き回っていた。


すると裏庭で一人佇むリオを見つけた。


やっと見つけたと思い、そんな彼に駆け寄る。


「リオ!」


私が呼ぶと彼はゆっくりと顔を上げた。


しかし、返事はせず、ただじっと私の顔を見るだけだ。


怒っている。


私は直感でそれを感じた。


「あのさ、リオ、私ね……」


「君、結局アメリアを殺そうとしたらしいね。君はどこまでもシナリオ通りに動く愚か者だよ」


私はその悪意に満ちた言葉にむっとした。


「あれは私がやったことじゃなくて、何かに操られたって言うか、私の意志とは関係なく動いたんだよ。殺す気なんてなかった」


「けど十中八九、プログラムの策略にはまったわけだ。シナリオ改変すると言いながら、本当に君は何をしてきたの?」


「そんなことわかってるよ! でも生きているんだからいいじゃない。これでも出来る限りの手は尽くしてきたつもりだよ?」


「そんなこと言って、君が油断したせいで起きたことでしょ? 一度命が助かったからってまた油断してたら、今度こそ殺されるかもしれないよ」


こんな言い合いをしに来たわけじゃないのに、どうしてか顔を合わすと喧嘩をしてしまう。


お陰で言いたかったことも言えなかった。


彼は顔を背けて、話始める。


「せっかくボクという協力者がいるというのに、君は全然ボクを頼ってくれないよね。何のための協力関係なのさ。君が死んだら、ボクが君にしてきた全ての事が無駄になるんだよ?」


リオの悔しそうな顔を見て、それ以上何も言えなかった。


ロゼが言っていたように、リオは本当に私を心配していたようだ。


「ごめん……」


私はここで素直に謝った。


リオと仲違いしたいわけではないのだ。


リオもそれ以上話すのは辞めて、お互いに黙り込む。


しかし、しばらく経つとリオが息をついて、再び口を開いた。


「もしかして君、ボクを年末のパーティーに誘いに来たの?」


図星であった私は驚き、固まった。


リオはじっと私の顔を見ていた。


「まぁ、その、そうだね。リオ、行かない?」


「なんで?」


「何でってそりゃぁねぇ」


ものすごく言いづらい。


このリオが素直に承諾するわけがないのだ。


「もしかして、ウィリアムの代わりに同伴者になってほしいなんていうなら、お断りだよ。そもそもボクは目立つのが好きじゃないんだ」


そんなことは百も承知だ。


それをわかった上で誘っている。


「でも、他に誘う人いないし……。仲良くもない人誘えないでしょ?」


不機嫌な顔のまま、リオは私をじっと見つめた。


そして、困った顔をしてため息をつく。


「本当に一緒に行きたいなら、誘い方があるんじゃない?」


リオの言葉に私は困惑する。


そんなことに今更拘ってどうしろというのだろう。


時々、どっちが男でどっちが女かわからなくなる。


とにかくリオは誰かの代わりというのが気に入らないらしい。


「わかった。リオ、どうか私と年末パーティーに参加していただけませんか?」


ここはもう素直にリオの言う通りに誘った。


やっと満足したのかリオの顔から笑みがこぼれる。


「仕方がないなぁ。本当は行く気なかったけど、君がそこまで言うなら行ってあげるよ」


こっちが下手に出ればこの態度、腹が立つが我慢した。


パーティーに参加できずに笑い者にされるよりはよっぽどましだ。


下流貴族ならまだ知れず、侯爵令嬢がパーティーに顔を出さないなんて、話題性抜群じゃないか。


あんな言い方はしていたが、リオはどこか嬉しそうだった。


行きたくなかったんじゃないのか?


それでもリオの機嫌が直ったのならいいことにしようと思った。


今まで散々迷惑をかけて来たのは本当の事だ。


そう言えば、リオはリオで私の破滅ルートの回避方法を考えてくれたとか言っていた気がしたが、どんな方法だったのだろう?


私の暗殺イベントが想像以上に早かったから、その方法も知ることが出来なかった。


あのイベントは終わったが、今度はウィリアムと婚約解消について話し合い、両親たちを説得しないといけない。


年末のパーティーぐらいは何もかも忘れて楽しんでも罰は当たらないだろうと思った。

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