101話 女友達
瞼をゆっくり開くと、そこは寮の自室のベッドの上だった。
随分と長い夢を見ていた気がする。
そう言えば、私はギルバートにお腹を刺されて重症だったんじゃなかったか?
私は慌てて半身を起こし、布団を引っ張り上げて自分の腹を見る。
しかし、腹には傷ひとつなかった。
痛みもないし、あれは夢だったのではないかと考え直す。
ただ、ベッドの足元に疲れ切って眠ってしまったアメリアが覆いかぶさっているのを見つけると、やはりあれは夢ではなかったのだと実感させられた。
まさか、アメリアが私の自室にまでいるとは思わず驚いている。
きっとあんなことになって心配で起きるまで私に付き添うつもりだったのだろう。
アメリアらしいなと笑ってしまう。
私がゴソゴソしたせいか、アメリアも目を覚まし、目をかきながら顔を上げた。
そして、私を見ると大きく目を見開いた。
「エリザ様! 目が覚めたんですね!?」
彼女はその場で立ち上がり、私に顔を近づける。
その勢いについ私は身体を逸らしてしまった。
「う、うん。 もしかして、アメリアが傷を治してくれたの?」
アメリアは自分が興奮状態だったことに気が付き、落ち着かせようと再び座りなおした。
「そうみたいです。私もよく覚えていないんですが、エリザ様に死んでほしくないと願った瞬間、身体から魔力のようなものが溢れて、気が付くとエリザ様の傷が治っていました」
治ったというより、なかったことにしたという感じにも見える。
しかし、光魔法とはそんなにすごいものだったのかと改めて感心させられた。
何よりも生きていられたのは運がいいことだ。
ギルバートに刺された時は、もう終わったと思っていた。
「起きても大丈夫なんですか? 傷はなくなったとはいえ、生死をさ迷ったのは確かなんですよ」
「たぶん大丈夫。痛みもないし、寝てた所為か疲れもだいぶとれたみたい。アメリアは心配して付き添ってくれていたの?」
私の質問にアメリアは複雑そうな表情を見せる。
「ご迷惑でしたでしょうか?」
私はゆっくり首を振った。
「いや。アメリアを驚かせたのは私の方だもの。私の方こそ謝らないと」
「そんな! 私は全然気にしていません。それにあの時のエリザ様は今とは全く違って違和感がありましたから、本心から私を殺そうとしたわけではないことはわかっています。それに、あなたは私を信じて自分の短剣を渡してくれた。それが嬉しかったんです」
信頼とは違う気がしたが、そういうことにしておこうと思った。
それにあれだけ好きな事を言えば、私の中にある蟠りの何かが少しすっきりした気がした。
なにより破滅ルートが回避され、安心しているところもある。
「私ね、ウィリアムと婚約解消しようと思う」
私は徐にアメリアに話した。
その言葉を聞き、アメリアは驚いて私の顔をじっと見つめる。
「なぜですか? だってウィリアム様との婚約は王族とヴァロワ家にとって大事な契約なのでしょう?」
「そうだね。きっと誰も納得はしないと思う。けどね、今の状態でこのままウィリアム様とは結婚できないよ。ウィリアム様は命を懸けてあなたを守った。その気持ちは十分に分かったよ。私たちの婚約があなたやウィリアム様を苦しめる物なら私の方から婚約解消を申し出そうと思うの」
アメリアは声が出ない状態で何度も首を振った。
「そんなの、ダメです! そんなことをしたら、両家の関係が――」
「戦争になっちゃうかもね。でも、大丈夫。必ず私がそうならないように止めるから。どうしたらいいとかまだ具体的にはわからないんだけど、それも私の使命だと思っている。時間をかけてでも、お互いが納得する関係を作るよ」
「……エリザ様」
アメリアがまた泣きそうな顔をする。
私も案外、お人好しだなと思う。
そんな私にアメリアが抱き着いてきた。
私はあまりにも突然のことで固まってしまった。
「エリザ様、ありがとうございます。私、いつもエリザ様を怒らせてばかりだったのに、エリザ様はいつも私を気遣って、多くの事を教えて下さる。今回もエリザ様がいらっしゃらなかったら、私は何もわからないまま、ウィリアム様やギルバートに全てを押し付けて、嫌な事からは逃げていたと思います。あなたが本当の幸福とはどんなものか教えてくれたんです」
私はアメリアに抱き着かれながら、このルートは逆ハーレムルートなんてものじゃなくて、エリザルートなんじゃないかと思えてきた。
もう、男前の私にアメリアが惚れているんじゃないのか?
そんなところに誰かが扉を思い切り開けて入って来た。
そちらに顔を向けると、慌てて部屋に入って来たロゼとセレナ、それと困惑しているニアの姿が見えた。
「エリザ! どういうことなの!?」
私達の様子を見て、ロゼは真っ青な顔をする。
しかし、アメリアは気持ちが高ぶっているせいか離れてくれない。
「あなたが倒れたって言うから駆けつけて来たというのに、なぜアメリアさんがいらっしゃるの? しかも抱き合って! 意味が分かりませんわ!!」
私も同じ気持ちだよと言いたいが、聞いてもらえそうにない。
「そうだよぉ。ものすごく心配したんだからぁ」
セレナも今にも泣きそうな顔で訴えて来る。
「お二人ともエリザ様は今、目覚めたばかりなのですよ!」
今度は私を気遣ってニアが二人に叫ぶ。
もう、部屋の中はめちゃくちゃだ。
「みんな落ち着いてよ。私はもう大丈夫だから。アメリアもあんなことがあったから少し興奮しているだけ。心配させてごめんね」
その言葉を聞いてロゼもやっと落ち着いたのか、息をついて私に近づいてきた。
「いつも通りのエリザで安心しましたわ。もう、無茶は辞めてくださいね」
ロゼもセレナも本気で私を心配していたのはわかっていた。
怪我の事だけじゃない。
きっと、エマの事もその心配事の中に含まれているのだろう。
私はいい友人を持てたようだ。
「そうだね。気を付けるよ。明日からはちゃんといつも通り学園に通えると思う」
私の言葉でやっと納得したのか、ロゼは近くにある椅子を引き寄せて座った。
そして、抱き着いたままのアメリアに向かって、指をさす。
「それより、あなた! いつまでエリザにくっついておりますの!? いい加減離れて下さる?」
アメリアは私に抱き着きながら、無言で首を振った。
それを見て、ロゼは余計に腹を立てる。
「あなた図々しいですわよ。多くの殿方を誘惑した挙句、エリザまでも奪おうとは! 許しませんわ。わたくしは絶対許しません!!」
そう言ってロゼは私からアメリアを引き放そうとする。
しかし、アメリアは固く抱き着いて、拒み続けていた。
その横からなだれ込むようにしてセレナが私の足元に抱き着いてきた。
「良かったよぉ。エリザちゃんが生きてて良かったよぉ~」
さすがにこんなセレナに私を刺したのはギルバートであるなんて話せそうにないなと思った。
私が女の子たちにもみくちゃにされていると、後ろからニアが大きな声を上げて怒った。
「皆さん、エリザ様は病み上がりなんですよ! 負担をかけないでください!!」
私の周りはカオス状態だったが、案外ハーレムも悪くないと思っていた。




