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Card is money, an entertainment, a weapon and life.

転生前が長い。第一話。

 カードゲーマーとは、嫌われがちな生き物である。昔からそう決まっている。世の中には良さが分からない人が多くいるから、カードゲーマー=めんどくさいオタクみたいなイメージが付きつつある。かくいう僕も、昔から「カードゲームが好き」というだけで変人として見られてきた一人だ。「お金もかかるでしょ?」とか聞かれることもあるが、好きなものにお金を払うのは当然だろう?


 大抵の子供たちは、カードゲームをやっていたとしても、小学生、長くても中学生のうちにやめていく。大体そいつらはスタートデッキを使ったり、準ハイランダーみたいなデッキを使っていて、勉強や部活に追われて仲間と遊ぶ機会を失ったり、あと単純にインフレについていけなくなったりしてカードゲームができなくなっていく。だから、その残りカスみたいに、好きでカードゲームを続けている僕らは、確かにオタクであり、変人なのかもしれない。


 それで、いつしかやめる機会なんて失って、僕は、今年で28歳になった。今日がその誕生日だ。今年は奮発して、自分に公式戦の優勝プロモをプレゼントしよう、と決めていた。そんなんだから安アパート暮らしから抜け出せないんだがな、と思う。分かっている。今は親にも見捨てられ、一人でひっそりと暮らしている。近所のカードショップで年に何回か開かれる、小さな大会だけが楽しみだ。

 だが、好きなものにお金を払うのは当然のことだ。僕はそれでいいと思っている。今のこの生活が続くだけでも、僕は幸せだ——。いや、幸せな、はずだったのだが。


 神様はもう一つ、僕に最悪なプレゼントを用意していた。優勝プロモを探しにフリマアプリを眺めていると、異様にカード全体の値段が下がっていることに気が付いた。それに対して、出品数は異常に多い。もしかして、もしかして、とはやる気持ちを抑え、公式サイトのURLをクリックした。

「……サ終、か。」


大好きだったカードゲームが、終わった。いや、実際は少し前から、終わりそうな予感がしていた。最近は美少女イラストのカードに頼りっぱなしだったし、関連動画の再生数も軒並み落ち込んでいた。レアカード確定パックばっかり出していた。大会開催店舗数も減っていた。インフレが止まらなくなっており、環境は魔境だった。終わっても、全く驚きはしなかった。


 良くも悪くも、カードゲームの一番の旬は最初だ。分かりやすい効果やルールの中で遊べるから、プレイ人口はそこそこいる。しかし、時間が経つと、新規プレイヤーの獲得に苦労し、対して古参プレイヤーはどんどん引退していく。最後には、それこそ「ただのオタク」だけが残って、静かにサ終する。対象年齢なんてものは意味をなさない。それは、何ら珍しいことではなかった。


 驚きこそしなかったものの、僕は強烈な虚無感に襲われた。自分が人生をかけていたものが、一瞬にして無くなったのだ。もう新しいカードを見ることはできない。それがどんなに悲しいことか、普通の人には想像もつかないだろう。優勝プロモを買う気力もなくなり、明日からの生活について思いを巡らせる。明日はバイトがある。誕生日は今日で終わる。日常が戻る。ならせめて、大好きだったこのカードゲームとの「別れ」を、今日、自分に、プレゼントしてあげよう。きっぱりとやめて、やり直そう。気持ちを切り替えて新しいカードゲームにチャレンジする機会ができただけだ。


 手始めに、段ボールいっぱいに詰まったカードたちを売り払うことにした。環境初期からやっていたから、そのままじゃ三十円でも売れそうにもないような古いカードたちも多い。それでも、新しいカードゲームを始めるための足しにはなるだろう。カードゲームとは面白いもので、絶対に使われる訳がないと思っていたカードも、その後の新カードとのコンボによって一線級で戦えるデッキになる可能性がある。だが、ここにいるカードたちはその可能性すら奪われてしまったのだ。サ終によって。まさに、時間が止まってしまったかのように。


 大抵のカードショップはもうサ終については知っているだろうから、高くは買ってくれないだろう。だが、近所の行きつけのカードショップなら。あそこは年配の男の人が一人で経営している。カードの買い取り価格も少し前の適正価格だし、取り扱っているオリジナルデッキも少し古い。何より店主がネットに疎そうな雰囲気を醸し出している。まだ、サ終について知らないんじゃないだろうか。店主をだますという点では少し気が引けたが、売れるものは売れるうちに売っといた方がいいはずだ。

 何はともあれ、まずは行ってみようと思った。


 薄暗いアパートを後にして、段ボールとともにカードショップを目指す。ここに引っ越してくる前もなんだかんだお世話になった場所だ。市内では珍しく、パックやスタートデッキが一通りそろっており、なおかつ大会(雰囲気は交流会)もたまにやっていたので、ガチな人からエンジョイな人まで色々な人が集まっていた。店主も、元々は「おもちゃ屋についでのようにカードパックを置いたところ、売れ行きが良かった」という理由でカードを取り扱い始めたため、そこまでカードゲームについて詳しいという訳でもなかった。だからこそ、周りの皆で店主を助け、一体となって盛り上げていた。古き良きカードショップ、という感じの店だった。


 深い緑に染まった桜並木を抜け、最初の信号を右に曲がる。子供の声が聞こえる公園の横を通り、住宅外の外れに出る。きっと今の子供は、元気に遊んでいたんだろうな。僕は昔、公園でも友人とカードゲームをやっていた。公衆トイレの横に、コンクリートでできた、子供が二、三人は座れそうなスペースがあり、公衆トイレを風よけにしてよく対戦していたのである。少し家からは遠かったが、絶好の遊び場、集合場所だった。


 こじんまりといくつかの店が並んでいる通りに出る。米屋、文房具屋、プラモデル屋……そして、その一角に、あのカードショップがある。一際、こじんまりとしており、昔の面影はない。きっと、カードゲームが廃れていくのに合わせて、カードショップも衰退していくんだろう。

 引き戸を開けると、右側にはパックなどの商品が、左側にはショーケースが置いてある。奥にはデュエルスペースとレジがあり、いつも店主が座っている。


「こんにちは。」


と声をかけると、


「坊ちゃん、久しぶりだねえ。またどっかに引っ越しちゃったのかと思ったよ。それで、今日は何しに来たんだい?」


と言われた。中には僕以外の客ははおらず、ゆっくりと話ができるな、と思った。


「僕、このカードゲームを引退しようと思うんです。だから、今日はこれを買い取ってほしくて。」


と言うと、


「へえ、そりゃあまた、意外だねえ。何かあったのかい?坊ちゃん、大会があるときは必ず来てたし、誰よりも楽しそうにやってたから、嘸かしそのカードゲームが好きなんだろうな、と思っていたんだけどねえ……。」


と返ってきた。そうか、店主には僕は、そう見えていたのか。僕は少しうれしくなった。


「過去の自分と別れて、新しい人生を歩もうと思ったまでです。」


「へえ、面白いねえ。こっちとしては顔なじみのお客さんが一人減るのは悲しいけれど、応援してるよ、坊ちゃん。」


「大丈夫ですよ。新しいカードゲームを始めるだけなので。またこれまで通りとは言わないですけど、定期的に来ますから。」


「そうかい、ならありがたいよ。」


このおじさんは、どれだけ優しいんだろう。だましてごめんなさいな……。この店はひっそりとでもいいから、ずっと続いて欲しい、そう思った。


「ノーマルカード一括買い取りってことでいいのかい?これだけの量……何枚あるんだい?」


段ボールの中を見ながら、店主は心底驚いた顔をしていた。無理もない。


「一万六千二百一枚だと思います。」


「すごいねえ。今から確認するから、坊ちゃんはそこに座って休んでな。」


「ありがとうございます。」


デュエルスペースの椅子に座って、僕は一息ついた。白い壁には、第一弾からのパックやデッキのポスターが並んでいる。懐かしさを覚えると同時に、時が経つのは速いな、と思う。もうこのゲームを遊ぶ機会は減るだろう。それでも、これが二十年以上続いたという事実は残り続ける。そう、二十年だ。第一弾発売時に生まれた人はもう成人しているし、なんなら社会人になっているだろう。カードゲームが当たり前のように隣にある、そんな生活をしていた人も多いんじゃないだろうか。


 反対に、カードゲームとは短命なものだな、とも思う。僕がこのカードゲームを知ったのは小学生の頃、某有名漫画雑誌の影響だ。当時はコマをぶつけ合って遊ぶおもちゃや、時計にメダルをねじ込むとノリノリの音声が流れるおもちゃも人気だった。それも人気だったのは最初の方だけで、現在はコアなファンがいるにとどまっている。大抵の流行とはそういうものだ。僕も、このカードゲームに人生をかけたなんて言ってはいるが、まだまだ人生は始まったばかり、二十八歳だ。仮に人生百年だとして、その五分の一の期間くらいしかそのカードゲームと一緒にいなかった。悲しいものだ。


 いや、「世間の常識で言うと」僕の人生は始まったばかりなのかもしれないが、正直これからの僕の人生は余生みたいなものだ。あのカードゲームのない生活なんて……と頭の中で呟きかけたところで、僕はここに来た目的を思い出した。そうだ、僕はこれから新しいカードゲームを始める。新しい人生を始めに来ているのだ。なら、くよくよしている暇も、懐かしさにどっぷり浸かっている暇もある訳がない。過去のことはひとまず置いておいて——

 「おい! 強盗だ。金を出せ!」


一瞬、僕は何があったのか分からず困惑していた。レジの前に座っている店主の、その引きつった顔の一寸先で、ナイフがギラリと輝いた。
















サブタイトル必須なのか……知らなかった。急遽作った。


読んでいただき、ありがとうございます!

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何も書くことがないって人は、好きなみそ汁の具でも適当に書いていってください。

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