【6話】2番手は経歴実力共に最高峰
翌日。
俺はロザリアと共に、昨日と同じ場所に赴いていた。
そう昨日ロザリアがやっていたことと同じ。
クラン建物の出口前での出待ちだ。
昨日のうちにロザリアと話し合いを行った。
そして今日。
彼女の求める人物は必ずクランの建物から出てくるという。
しかし俺としてはまだ半信半疑だ。
「本当に出てくんのか?」
「焦るな焦るな。アイツは絶対──『千剣の叡智』には入れてもらえない。お前と同じで、そこの出口から出てくるはずだ」
「それは経歴がないからか?」
「いや。お前と違って経歴は凄まじい。『千剣の叡智』が大好きな、名門の養成学校を卒業しているエリートだからな」
そういう話を聞いてしまうと、益々疑問が浮かんでくる。
『千剣の叡智』は経歴至上主義者の集まり。
ロザリアの話ではそういう組織だと聞いていた。
俺がクランに入れてもらえなかったのも、俺に経歴がなかったからだとも言われた。
けれども、ロザリアの待ち人には、名門校を卒業したという立派な経歴がある。
「なぁ、話が矛盾してるぞ……そこまで凄い経歴を持っているなら、『千剣の叡智』はその人を即採用するはずだろ?」
「確かにな。ここまでの情報だけだったなら……間違いなく、『千剣の叡智』に囲い込まれていただろうな」
「ここまでの情報だけ? 何が言いたいんだ?」
「ふふっ。お前に追加要素を教えてやろう」
ロザリアは邪悪そうに目を細め、不気味な笑みを零す。
「私が狙っている手駒2号は────女だ」
「女……」
「ああ。『千剣の叡智』にとって経歴は最も重要ではあるが、それ以外にも性別や実力にも多少は目を向ける」
俺とは違う基準で、加入段階まで至れないってことか。
経歴もあって、ロザリアが目を付けているのなら、実力もあるのだろう。
それなのに女性というだけでクランへの加入を許されない。
「……改めてとんでもないクランだな」
「まあ。性別が女というだけなら、弾かれることもなかったはずだったがな」
「実力も足りてないと?」
「逆だ。実力が高過ぎてだ」
──実力が高いのなら、求められるはずでは?
色々とこんがらがってきた。
俺には『千剣の叡智』が設けている選考基準がよく分からない。
疑問の色を含んだ視線を向けると、ロザリアはため息を吐く。
「お前は昨日話したことを、もう忘れたのか?」
「昨日話したことって、俺がクランに入れなかった理由のことか?」
「そうだ。ヤツらは自分が保有する利権を守ろうとする。便利な下っ端だけを増やそうと考えているんだ」
「ということは……女で実力者を加入させると都合が悪いってことか!」
「当たりだ。経歴があり、実力があり、普通なら文句なしの合格ライン──ただそいつは女。お前は女に負けて、自分が女の指示で動かされる立場になったらどう思う?」
……いや。それは今の俺の立場だ。
ロザリアの手駒になった俺にとっては、その部分に特別な感情はない。
「どうでもいいな。現に俺はお前の下に付いている」
「そうだった……お前は私に屈したのだったな」
「その通りだ。だから俺からしたら、女の下に付くことになっても不満は持たない」
ロザリアは艶やかな黒髪を指で巻きながら、軽く息を溢す。
「まあお前は特別だ。普通の人間は、女に指図されて動くのを嫌う……それが『千剣の叡智』へ加入できないという結果に繋がる」
「……やっぱり分かんねぇな」
「分からなくてもいい。こんな考えを持つのは、プライドだけが肥大化した役立たずの雑魚ばかりだ」
ロザリアとの雑談を続けていると、建物の扉が開いた。
「やっと終わったか……想定より長い面接だったな」
ロザリアのぼやきを軽く聞きながら、俺は扉を注視する。
彼女が認めた人物。
どんな強者なのかと、目を凝らす。
「…………あれが、お前の認めたヤツか」
「そうだ。私が手駒2号にしたい女──ユラだ」
扉から出てくる姿に俺は釘付けにされた。
女性にしては背が高く、絶世の美女と言っても相違ないくらいに容姿が整っていた。
真っ青な前髪は眉までかかり、遠目から見ても非常に落ち着いた雰囲気を纏っている。
クランへの加入が叶わなかったとは思わないくらいに静かで、表情には全く変化が見られない。
──俺とは正反対だな。
あからさまに落胆していた自分と比べると、彼女の堂々とした歩みに、精神力の差を感じる。
彼女は自分自身に揺るぎない自信を持っている。
クランの建物を振り返ることもなく、ただしっかりと前へと歩き続ける。
「おい。あれは普通に最終選考も通ったんじゃ……」
あまりに気落ちした様子が見られないため、俺はロザリアにそう耳打ちする。
しかしロザリアの赤い瞳は真っ直ぐ彼女に注がれ、俺の言葉を軽い嘲笑で否定した。
「いや。あの女が『千剣の叡智』に入ることは確定であり得ない……アレは間違いなく最終選考で落ちている」




