表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/17

【6話】2番手は経歴実力共に最高峰





 翌日。

 俺はロザリアと共に、昨日と同じ場所に赴いていた。


 そう昨日ロザリアがやっていたことと同じ。

 クラン建物の出口前での出待ちだ。


 昨日のうちにロザリアと話し合いを行った。

 そして今日。

 彼女の求める人物は必ずクランの建物から出てくるという。

 しかし俺としてはまだ半信半疑だ。


「本当に出てくんのか?」


「焦るな焦るな。アイツは絶対──『千剣の叡智』には入れてもらえない。お前と同じで、そこの出口から出てくるはずだ」


「それは経歴がないからか?」


「いや。お前と違って経歴は凄まじい。『千剣の叡智』が大好きな、名門の養成学校を卒業しているエリートだからな」


 そういう話を聞いてしまうと、益々疑問が浮かんでくる。

『千剣の叡智』は経歴至上主義者の集まり。

 ロザリアの話ではそういう組織だと聞いていた。

 俺がクランに入れてもらえなかったのも、俺に経歴がなかったからだとも言われた。


 けれども、ロザリアの待ち人には、名門校を卒業したという立派な経歴がある。


「なぁ、話が矛盾してるぞ……そこまで凄い経歴を持っているなら、『千剣の叡智』はその人を即採用するはずだろ?」


「確かにな。ここまでの情報だけだったなら……間違いなく、『千剣の叡智』に囲い込まれていただろうな」


「ここまでの情報だけ? 何が言いたいんだ?」


「ふふっ。お前に追加要素を教えてやろう」




 ロザリアは邪悪そうに目を細め、不気味な笑みを零す。






「私が狙っている手駒2号は────女だ」








「女……」


「ああ。『千剣の叡智』にとって経歴は最も重要ではあるが、それ以外にも性別や実力にも多少は目を向ける」


 俺とは違う基準で、加入段階まで至れないってことか。

 経歴もあって、ロザリアが目を付けているのなら、実力もあるのだろう。

 それなのに女性というだけでクランへの加入を許されない。


「……改めてとんでもないクランだな」


「まあ。性別が女というだけなら、弾かれることもなかったはずだったがな」


「実力も足りてないと?」


「逆だ。実力が高過ぎてだ」



 ──実力が高いのなら、求められるはずでは?



 色々とこんがらがってきた。

 俺には『千剣の叡智』が設けている選考基準がよく分からない。

 

 疑問の色を含んだ視線を向けると、ロザリアはため息を吐く。


「お前は昨日話したことを、もう忘れたのか?」


「昨日話したことって、俺がクランに入れなかった理由のことか?」


「そうだ。ヤツらは自分が保有する利権を守ろうとする。便利な下っ端だけを増やそうと考えているんだ」


「ということは……女で実力者を加入させると都合が悪いってことか!」


「当たりだ。経歴があり、実力があり、普通なら文句なしの合格ライン──ただそいつは女。お前は女に負けて、自分が女の指示で動かされる立場になったらどう思う?」


 ……いや。それは今の俺の立場だ。

 ロザリアの手駒になった俺にとっては、その部分に特別な感情はない。

 

「どうでもいいな。現に俺はお前の下に付いている」


「そうだった……お前は私に屈したのだったな」


「その通りだ。だから俺からしたら、女の下に付くことになっても不満は持たない」


 ロザリアは艶やかな黒髪を指で巻きながら、軽く息を溢す。


「まあお前は特別だ。普通の人間は、女に指図されて動くのを嫌う……それが『千剣の叡智』へ加入できないという結果に繋がる」


「……やっぱり分かんねぇな」


「分からなくてもいい。こんな考えを持つのは、プライドだけが肥大化した役立たずの雑魚ばかりだ」


 ロザリアとの雑談を続けていると、建物の扉が開いた。


「やっと終わったか……想定より長い面接だったな」



 ロザリアのぼやきを軽く聞きながら、俺は扉を注視する。

 彼女が認めた人物。

 どんな強者なのかと、目を凝らす。

 





「…………あれが、お前の認めたヤツか」


「そうだ。私が手駒2号にしたい女──ユラだ」


 扉から出てくる姿に俺は釘付けにされた。

 女性にしては背が高く、絶世の美女と言っても相違ないくらいに容姿が整っていた。

 真っ青な前髪は眉までかかり、遠目から見ても非常に落ち着いた雰囲気を纏っている。

 クランへの加入が叶わなかったとは思わないくらいに静かで、表情には全く変化が見られない。



 ──俺とは正反対だな。



 あからさまに落胆していた自分と比べると、彼女の堂々とした歩みに、精神力の差を感じる。

 彼女は自分自身に揺るぎない自信を持っている。

 クランの建物を振り返ることもなく、ただしっかりと前へと歩き続ける。


「おい。あれは普通に最終選考も通ったんじゃ……」


 あまりに気落ちした様子が見られないため、俺はロザリアにそう耳打ちする。

 しかしロザリアの赤い瞳は真っ直ぐ彼女に注がれ、俺の言葉を軽い嘲笑で否定した。



「いや。あの女が『千剣の叡智』に入ることは確定であり得ない……アレは間違いなく最終選考で落ちている」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ