【5話】『千剣の叡智』への憎悪
「向こうからしたら、お前の気持ちなどどうでもいいことだ。実力のあったお前は、ギリギリまで生かされた。でも何の伝手もないお前を最終的に仲間に加えるつもりはなかった」
「くっ──!」
「何故ならお前みたいな強いヤツが上へとのし上がってしまえば、経歴だけ、コネだけで上に立っているヤツらは簡単に蹴落とされる。それが分かっているから、お前のような脅威を早々に排除しておいた」
聞けば聞くほどに腹立たしい。
俺のことを弄んでいたのか?
ふざけんじゃねぇ!
俺は本気で『千剣の叡智』で活躍を望んでいたのに!
「──ヤツらにとって、お前は自分たちの優位さを揺るがす存在。内輪で甘い蜜を吸っているんだから当然だな」
拳を強く握り締める。
もういい……それ以上、ロザリアの言葉は聞かなくても良くなった。
「分かったよ……もう十分だ」
俺はもう『千剣の叡智』を擁護するようなことは口にしない。
今はただ、上部だけの情報に踊らされていた自分がアホらしくて、『千剣の叡智』が憎い。
「……ふふっ。最高の顔付きだ。お前にはその憎悪に満ちた顔が良く似合う──その真っ暗な感情を強さに変えろ!」
「言われなくても。そのつもりだ」
「それで……どうする? 私たちが最強に至る過程の最初の目標は?」
ロザリアは聞いてくる。
『千剣の叡智』がどういうクランかを散々話しておいて、その上で俺の回答を求めている。
本当に性格が悪いやつだ。
でも、俺は彼女の望む回答をする気でいた。
瞳には欠片の輝きもなくなった。
ただ憎悪の炎が宿る俺は、一層低い声で吐き捨てる。
「そんなの決まってんだろ……『千剣の叡智』を潰す。分かりきっていることを一々聞くんじゃねぇ」
俺の荒れきった態度を見て、彼女は恍惚な微笑みを浮かべる。
「そうだ。それでいい。それが私の求めた百点の答えだ」
「で、今すぐ潰すんだろ? 決行日はいつだ?」
尋ねると、彼女は首を横に振る。
「焦るな愛しの手駒よ。『千剣の叡智』を潰す前に……私は手駒2号を手に入れる」
「は? 手駒2号? 俺だけじゃないのか?」
「確かにお前だけでも、『千剣の叡智』を潰すことは可能だ。しかしそれは目先の目標でしかない。私が目指すのは世界最強のクラン。お前の次に見込みのある人間を、私は仲間に加えたい」
──俺の次、か。
俺が彼女と出会ったのは、行き当たりばったりな偶然じゃなかったのは、今の発言でよく分かった。
彼女は俺を狙っていた。
そして次に仲間に引き入れたいという人物も、前々から目を付けていたのだろう。
まあ、彼女が誰を仲間に加えようと俺にとってはどうでもいいことだ。
俺にとっては、ロザリアに必要とされ、利用される関係が担保されていればそれ以外の要素は特段重要視しない。
「分かった。お前の仲間に加えたいヤツを先に迎え入れよう」
先程までの怒りを収め、俺は冷静な言葉遣いで彼女に同意の意思を示す。
「それで、その手駒にしたい人とやらは、どこにいるんだ?」
「どこって。そんなの決まっている」
「まさか……」
「ああ。そのまさかだ」
彼女の視線はとある方向へと向く。
そう、俺たちが歩いてきた道の先──『千剣の叡智』の建物がある方向にだ。
「──元々私が目を付けていた人間はその手駒2号になるヤツだ。お前はその過程で見つけた最高の逸材というだけで、思わぬ副産物に過ぎない」
「なら、お前が仲間に加えたかった本命はそいつだと?」
「そう。本命だった……お前が現れるまではな」
ロザリアは俺に笑いかける。
「安心しろ。私にとってお前が手駒1号である事実は変わらない。お前は私が探し当てた最高の手駒だ」
「俺は実際に活躍もしていない。それなのにえらい自信だな」
「私の目に狂いはないからな。どこぞの経歴主義なクランとは違う」
皮肉たっぷりな言葉を吐き、ロザリアは視線を『千剣の叡智』の拠点から離す。
そして何事もなかったかのように背を向け歩き出した。
「まあ……手駒2号の入手は一夜明けてからだ。それまでは、お前という宝物を手にできた余韻に浸るとしよう」
買い被り過ぎだ。
そんなことを思ってしまったが、彼女の嬉しそうなニヤけ面を前に、横槍を入れることはできなかった。
俺にできることは、彼女の期待に応えること。
せっかく俺のことを必要としてくれたのだ。
失望させないように、せいぜい頑張るとしますか。
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