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【4話】選考落ちの理由






「それにしてもどうして俺を選んだんだか……」


「なんだ。今更怖気付いたか?」


「いや。単純に疑問に思っただけだ」



『千剣の叡智』が所有している建物から離れて、俺とロザリアは夕暮れの夜道を歩いていた。

 彼女の隣を並んでいるとやっぱり腑に落ちない。

 どうして俺を見つけてくれたのか……それがどうしても理解できない。


「あの場所には『千剣の叡智』に入れなかった選考脱落者か、一般人しか通らない。お前はどうしてあんな場所に居たんだ?」


 彼女は言っていた。

『史上最悪で最強のクランを創る』と。

 その言葉を信じるとするならば、他のクランで使えないと判断された人間を引き入れようなんてことは間違っていると感じてしまう。

 

 最強を探すのなら、誰もが喉から手が出るほど欲しい人間を引き入れるのが最適だ。

 俺のように誰かに否定された人間を、わざわざクランの出口で出待ちするメリットが分からない。


「クランに採用されない人間は、使えない雑魚ばかり……お前はそう考えているんだなぁ」


「当たり前だろ。それに『千剣の叡智』は実力主義なクラン。そこに加えて貰えなかった俺は、力不足だったということになる」



 俺がそう告げると、ロザリアは鼻で笑う。


「はっ。馬鹿かお前は」


「何がおかしい?」


「『千剣の叡智』──あんな利権ズブズブなクランのどこが実力主義だと思った? 本当に傍痛いわ」


「利権、ズブズブ……?」



 ロザリアの発言に俺は言葉を失った。

 彼女は『千剣の叡智』を実力主義ではないと嘲笑った。しかし俺からしたらその理論は意味不明だ。



「ちょっ、ちょっと待てよ! 『千剣の叡智』が実力主義のクランじゃないって……冗談だよな?」


「全く冗談ではないが?」


「いやでも! 実績もたくさん作ってるし……強いやつらも、スター的な人も多いじゃないか!」


 あのクランは長い伝統のある街一番の組織。

 魔物を狩ることも、犯罪集団への抑止力としても多大な貢献をしてきた。

 この街で生きていれば、『千剣の叡智』に誰もが感謝する。

 それくらいこの街は彼らによって守られている。


「『千剣の叡智』はこの街最強だ……!」


「ふっ。まだそんなことを抜かすのかお前は」


「は?」


「実力主義のクランなのに──誰よりも強かったお前が選考で落とされるのは、間違っている。そうは思わなかったのか?」


「それは、俺に実力がなかったからで……」



 俺にもっと力があったら、きっと『千剣の叡智』だって、俺の加入を認めてくれていた。

 そう考えていた俺のことをロザリアは冷めた目で見つめてくる。



「おい。それはつまり……私の目が節穴だと言いたいのか?」


 その瞳に込められているのは、静かな怒り。

 俺の発言を責めるような感情が、ヒシヒシと伝わってきた。



「いや。そうじゃないが……」


「ならやはり、『千剣の叡智』は実力主義のクランなどではない」


「けどさ……んむっ!」


 なんとか言い返そうと言葉を紡ぐが、ロザリアは俺の唇を指で押さえつけた。



「それ以上、私に馬鹿を晒すな。お前は騙されていたんだよ──『千剣の叡智』というエセ実力主義クランに」


 その言葉には彼女の確信が込められていた。

『千剣の叡智』が実力主義なんかではなく、どうしようもない存在であるのだと彼女は伝えてきている。


「私が何故、あのクランの前で脱落者を出待ちしていたか。お前に分かるか?」


「分かんねぇよ……」


「だろうなぁ。あの外面大好きなゴミクランの募集にホイホイと釣られるような男だもんなぁ」



 ──なんだよ、それ。俺のことを馬鹿みたいに言いやがって。



「お前はそう言うけどな。『千剣の叡智』が実力主義じゃないって証拠があるのかよ?」


「あ? そんなのいくらでもあるぞ」



 その返答は意外だった。

 ロザリアの勝手な思考によって、『千剣の叡智』を貶しているのだとずっと思っていた。

 彼女は指を二本立て、口元を歪ませた。


「あのクランが実力主義でないことは、簡単に分かる。一つ……あのクランの中核には、純粋な実力者が存在しない」


「純粋な実力者が存在しない?」


「ああそうだ。『千剣の叡智』に所属している幹部クラスのメンバーは皆、何かしらクラン内で優遇されるような経歴を持っている。例えば、名門校を卒業していたり、クランへ資金援助しているパトロンの縁者だったりだ」


「そんなわけ……」


「あるんだよ。私は全て調べた。そして知った。あのクランに、お前のような学校に通っていなかったり、バックに強力な権力者がいない成り上がりチャレンジャーは誰一人として存在しない!」



 その瞬間、頭が真っ白になった。


「無論、幹部クラスのメンバーだけではない。ポッと出の実力者は、下っ端にも存在しなかった。全てが名門校を卒業した人間で固められている」



 ──ちょっと待ってくれ。それ以上は聞きたくない。


 俺は耳を塞ぎたい気持ちで一杯だったが、ロザリアの口は止まらない。


「つまりだ──お前は最初っから、あのクランに入れる可能性がなかったんだ」


「そんな馬鹿な……!」


「そう。お前は馬鹿だったんだ。実力主義であると公言しているのはあのクランが外面を気にした方便でしかない。本当のヤツらは──実力者ではなく、優れた経歴を持った人間しか仲間に加えない」


「────っ!」


「ははっ。絶望して声も出ないか? ああ最高だ。私は他人の絶望した顔が大好きなんだ」


 

 ロザリアの声が遠く聞こえる。

 ぼんやりとした音としてしか聞こえない。

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 じゃあ俺があのクランに夢を見たことは……全部無駄なことだったのか?


 実力主義のクランだと信じていたのに……それは全部、嘘?


「ふざ、けんなよ……俺がどんな気持ちで、選考に臨んだと……!」


 顔が熱い。

 脳が熱気で溶け出すように、理性的な思考が回らなくなる。



 ──ああ。俺はどうしてこんなにも愚かなことをしていたんだ。





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