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【3話】ロザリアの手駒として





『千剣の叡智』への加入が叶わなかった俺。

 選考で落とされ、絶望の淵に立たされていたにも関わらず、俺は『千剣の叡智』に入らなくて良かったと思ってしまった。


 それは目の前にいる彼女の手を取ったからだろう。


「俺の名はキル……お前のこと、信じていいんだよな?」


「信じる? はっ……何を言っているんだか」


「え?」


「私みたいな邪悪な存在を信じるなんて……本当に何も分かっていない。いいか? 私はお前を利用したいから手を差し伸べた。お前は私に利用されることに魅力を感じた。それだけのことでしかない」



 黒髪の彼女はどこまでも冷たい。

 自分本位なことばかりを喋るが、そのくせ忖度しない態度に俺は好感を抱いた。

 上部だけの偽りの優しさを持たない。

 彼女は平等に厳しい言葉を浴びせるヤツであると、こちらを見下ろす残酷そうな赤い瞳に、俺は軽く身震いをした。


「お前は私に何を望む? 私と組むことでお前にどんな利益がある? お前がすべきことは、私を信じて忠誠を誓うことじゃない」


 

 高圧的な言葉の中に、彼女なりの意思が明確な形で表れている。



「お前は私の手駒となって、自分の利益のためにその手腕を振るえ! お前を利用するためならば、私はお前の望みを叶えてやるつもりだ」



 嘘は一片もない。

 本心と本心で語り合う関係がここに生じている。


 

「お前の望みを言え……!」



 吸い込まれるように綺麗な顔立ちに、俺は息を飲んだ。

 唇がやけに渇くが、それを無視して俺は口を開く。



「俺は……俺は……」




 ──俺の望むこと。それはたった一つだけ。







 彼女の瞳から目を逸らさず、俺は長く息を吸ってから告げる。




「俺の望みは──誰かに必要とされ続けることだ。俺のことを利用したいなら好きにすればいい。俺はお前が、俺のことを捨てられなくなるくらいの活躍をしてみせる!」




 これが俺の望みであり、我儘だ。

 誰かを助けるため、だとか他人を笑顔にしてやりたい……なんて薄っぺらい偽善の上に成り立つ答えじゃない。

 俺を欲する人間が、俺は欲しかった。

 俺のことを認めてくれて、俺の実力を信じて背中を預けてくれるような相手をずっと求めていた。



 一人でいたくない。

 俺のことを理解してくれる存在を探し続けていた。

 だから俺は、彼女に『利用してやる』『手駒にしてやる』と言われた時、不覚にも嬉しいと感じてしまった。


「手駒と言われても構わない。俺の手腕を買ってくれたお前のために、俺は全力でその期待に答えてやるつもりだ!」


「そうか……なるほど」



 彼女は黒髪を指で弄りながら、俺に背を向ける。



「お前の望みは理解した。私はお前が使える人間である限り、手放すことはないと約束──いや、契約しよう」


「……ああ」


「だからお前も契約しろ」


 彼女はゆっくりと歩き出し、俺も彼女の三歩後ろを同じペースで歩く。

 

「俺に何の契約をしろと?」


「ふっ。簡単な契約だ……お前は三つの覚悟をして、その上で私に付き従い続けると誓え」



 ──三つの覚悟?


 


 彼女の言わんとしていることは半分理解できたが、もう半分は分からなかった。

 彼女は自身が自由に動かせる手駒を欲している。

 俺の実力を見込んで、『俺のことを利用したい』と言ったのは、俺が持つ剣技を必要としたからだ。

 彼女の望みは武力を使って叶えるもの。

 俺が彼女のために戦えば、彼女の望むものを掴ませてやれるだろう。


 


 ──分からないのは、三つの覚悟という点。



「その三つの覚悟とは何だ?」


「なぁに単純なことさ。一つは私と共に最強になる覚悟。二つ目は私と共に世界から嫌悪される覚悟。そして三つ目は──」








「私のために死をも厭わない覚悟だ……な? 単純だろう?」



 

 なるほど。

 この女らしい発言だ。

 俺はあくまでも手駒。

 自分に忠実であり、自分のために死ぬことも恐れない。そんなやつを求めていると。



 普通ならビビって逃げ出す場面だ。

 人は誰しも死にたくない。

 どうにかして、小賢しく生き残りたいと願う者がほとんどだろう。




 ──でも、俺は!



「分かった。その三つを肝に銘じておく。最強になり、嫌われ、もしもの時は、お前のために死んでやる」


「即答か。ふふっ! それでこそ私の選んだ手駒だ。その勇姿を誇っていいぞ──私が骨の髄まで利用し尽くしてやる」


「ああ、この俺を使いこなしてみろよ!」



 死ぬことなんて怖くない。

 俺が怖いのは、誰からも必要とされなくなった時だ。

 俺の存在が無価値になった瞬間が、俺にとっての死。

 だから、最期の最期まで利用された上で死ぬのなら、俺はそれを喜んで受け入れられる。



 それに、俺は彼女と最強を目指すのだ。

 死ぬ覚悟をしているが、死ぬ気はさらさらない。


「よろしく頼むぞ。我が愛しの手駒よ。私の名はロザリア=レイヴン。お前を使って、この世界の反英雄たちを集って史上最悪で最強のクランを創る──ある種の悪魔だ」


 俺は引き返せないと分かっていながら、彼女と共に歩むことを決めた。

 真っ黒に染まった歪な邪道を──!





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