【17話】同類
朝食を食べ終えた俺とユラは、ロザリアに言われた通りの場所へと赴いていた。
街の中央広場。
多くの人が行き交う中、一際目立つ黒いドレスを身に纏った彼女の姿はあっさりと視認できた。
「いたな……」
「そうね」
広場に設置された公共の長椅子に座り、目を瞑って待つロザリア。
俺たちが歩み近付くと彼女はゆっくりと目を見開き、不敵に笑う。
「……やっと来たか。手駒たちよ」
相変わらずの『手駒』呼ばわり。
ユラはまだ慣れていないのか、若干眉がピクついている。
そんなことを気に留めることなく、ロザリアは椅子から立ち上がった。
「さて。役者が揃ったところで早速始めようか」
主語が抜けているため、何を始めるのかを認識しているのはロザリアのみだ。
「何を始めるんだ?」
「そんなの決まっているだろう。エセ実力主義クランを潰す──お前が望んでいたことじゃないか」
ロザリアからそれを聞いた瞬間、心臓が大きく高鳴った。
『千剣の叡智』
実力主義を謳っておきながら、本当は実力を無視した経歴採用をする嘘吐きクラン。
俺は少なからず、彼らに私怨を抱いていた。
誰かを恨むことは虚しいこと。
それが分かっていながらも、抑え切れない感情はどうしようもない。
「……エセ実力主義クラン? それってどこのことよ?」
「お前も選考を受けただろ。『千剣の叡智』だ」
「……ああ。そういうこと」
ユラも納得したように頷く。
俺とユラが何をするかを認識したところで、ロザリアは軽く咳払いを挟んで両手を広げる。
「さぁ。愛しの手駒たちよ……私たちの最強伝説はここから始まるぞ!」
その第一歩が、『千剣の叡智』潰しってか。
確かにこの街一番と言われるクランを潰したとなれば、俺たちは有名になることだろう。
良い意味ではなく、悪い意味でだが。
「……なあロザリア。そうは言ったものの、クラン同士の争いは原則禁止だぞ。それで『千剣の叡智』をどうやって潰すんだ?」
「良い質問だ1号」
「なぁ……その1号は止めないか? 俺にはキルって名前があるんだが」
「細かいことを気にするな。どんな呼び方だろうと、私はお前たち手駒のことをこの世の何よりも愛している。それで十分だろう?」
感性は完全に終わっている。
だが、諸々の反論は意味を成さないと短い間で理解した。
「……分かったよ」
「うん。素直な子は好きだぞ……それで、どうやって潰すかということだが、何も『千剣の叡智』を皆殺しにするなんて物騒なことをしでかすわけじゃない」
「意外だな。お前なら全員排斥してやれとか言い出すかと思っていたが」
「私はこれでも理性的な生き物だ。不必要な波風は立てない……必要であれば、波風も虐殺も厭わないがな」
ロザリアは得意げに語る。
それから手に持っていた真っ黒な日傘を広げ、可愛らしく微笑む。
「……ところで、私は常々居住する場所が欲しいと思っていた。宿を転々とするのもいい加減うんざりしていたところだ」
──話が飛び過ぎだろ。
ロザリアのことだ。
今の会話もクラン潰しに関係しているんだろうが、俺には何故その話を持ち出したのかが分からない。
ロザリアが居住地を欲しているという話と『千剣の叡智』を打倒すること……この二つの共通点は……?
俺が頭に疑問を浮かべている中、ユラは鋭い視線をロザリアに向けていた。
「つまり……『千剣の叡智』が所有している建物が欲しいということ?」
────なるほど!
「勘が鋭いな。2号。その通り……あの立派な建物。私が寝泊まりするのに丁度良い」
「そんなことのために『千剣の叡智』に喧嘩を売るのね」
「簡単に勝てそうで、なおかつ美味しい資源を持っている。これ以上ない獲物だろう?」
獲物とは大きく出たな。
常人なら『千剣の叡智』を前にしたら必ず怯む。
しかしロザリアは一貫して彼らのことを下に見ている。
己が真の実力主義者であるからだろうか。
──自信に満ち溢れ過ぎだろ。
しかし自信に満ち溢れているのはロザリアだけではなく、
「貴女の言う通り……『千剣の叡智』は上物のカモね」
「そうだろう。お前とは気が合いそうだ」
──ユラもそっち側かよ。
復讐に燃えていた俺だったが、それ以上にやる気満々な二人を前に、若干の冷静さを取り戻した。




