【14話】敗北を経た私は…
ぐんぐんと近付いてくる大太刀の脅威。
もうどこを狙っても、彼を止められないと思ってしまった。
そしてその瞬間、私の心はポッキリ折れた。
これまで味わったことのない恐怖に、私は屈したのだ。
『死ね……!』
冷たい夜風を浴び心が冷えていくのが分かった。
迫る大太刀を目前に死を覚悟した。
私は最強なんかじゃなかった。
理論では抑えきれないような怪物。
身体中の骨が折れても、勢いを失うことなく猛攻を仕掛けてくる。
そういう存在がいるのだと、初めて知った。
これまでの価値観は脆く崩れ去った。
──ああ。私はここで死ぬんだ。
圧倒的な絶望を感じていると、目の前には午前中に話しかけてきた黒髪の令嬢がいた。
私に恐怖を植え付けた男の攻撃を小指で封じ込め、涼しい顔で私を見つめてくる。
──きっと私は。
「それでユラ……どうだ? 私の手駒に負けた気分は?」
──この不気味に微笑む令嬢の手のひらの上で転がされていたんだ。
「…………っ」
この黒髪令嬢からは何も感じられない。
強者の風格はおろか……弱者なりに多少は存在するオーラも。
本当に何もない。
虚無なのだ。
普通はあり得ない。
最初に出会った時に気付くべきだった。
──何も感じないのは、生きていないのと同じだと。
もちろん、目の前にいる令嬢はちゃんと動いている。
死んでいるなんてことはない。
それは暗に、この女は私が風格を感知することのできない存在。であることを指し示していた。
この女は、私を遥かに凌ぐ実力の持ち主。
──怪物令嬢だ。
「さて……改めて言う。ユラ……お前は私の手駒になれ!」
「────っ!」
「最強を目指すお前は、私の手駒に敗北した。ならば私の創るクランが最強になると認めよ……そして私は敗北者であるお前にも利用価値があると思っている」
愚かだった。
私は傲慢だった。
この女の提案を断ることなんて──最初からできなかったし、許されていなかった。
「さぁ……答えを聞かせてみせよ。敗北者」
唇が小刻みに震える。
涙が溢れてくる。
己の情緒がどうなっているのか、もう分からない。
ただ一つ分かることは、目の前にいる令嬢に逆らってはならないということだけ。
私に選択肢はない。
彼女の言葉に、私はただ素直に頷く。
「…………分かりました。私は貴女の手駒となります」
「ふふっ。そうか……それは良かった。素直な子は好きだぞ」
満足気な笑み。
無邪気で幼い笑顔に見えるはず……なのに私は手足の震えが止まらなかった。
誰かに屈服したのは、初めてだった。
屈辱の感情で埋め尽くされるはずなのに……どうしてだろうか。
──この微かに芽生えた高揚感は?
あり得ない。
負けたのに喜んでいる?
それは私の探し求めた最強に至れるクランに入れたからだろうか。
それとも私の可能性をまだ伸ばせる土壌に足を踏み入れることができたからだろうか。
「さぁ。立て……私の手駒よ。お前は既に私のものだ」
差し出された手を今度はしっかりと握る。
小さく冷たい手。
だけど私にとっては果てしなく大きいもののように思えた。
きっと今の私には、この高揚感の正体は掴めない。
だから知りたい。
私がどうして、彼女を選び……それに喜びを覚えたのかを。




