【13話】初の挫折
──私が、負けた。
これまで敗北なんてしてこなかった。
圧勝不敗。
国内から強者が多く集まると言われていた学校内で何度手合わせしても、私は一度も負けたことがなかった。
そんな私はいつしかこう呼ばれていた。
『無双姫』
悪くない気分だった。
自分に屈した者たちが、私のことを恐れて、そんな呼び名を付けたのだ。
快感だった。
私がこの世界で一番であると思えた。
──私は確かに最強だった。
だから『千剣の叡智』が私の加入を拒んだ時も、特段ショックは受けなかった。
『申し訳ありませんが、ユラさんを最終選考に通すことが出来かねると判断させていただきました』
『ああ。そうですか』
『この度は誠に……』
『ねぇ?』
『……え?』
『もう帰っても? 私はこんな目が節穴のクランに用はないのですが』
『千剣の叡智』は私の実力を見ても、自分たちのクランに相応しいと答えなかった。
その割に、私よりも弱い同校の生徒を加入させている始末。
このクランは実力主義ではないと思い知った。
『おいちょっと待てよ!』
『……何か?』
声を荒げたのは、『千剣の叡智』の幹部メンバー。
私は睨んでくる彼を睨み返した。
『ちょっと、ナルガさん! 抑えてください!』
『いや。こんなこと言われて黙ってられるか。お前……俺らの目が節穴だと? 撤回しろ!』
『撤回はしません……だって私は正しいことしか言ってませんから』
『このクソアマァ……ぶっ殺す!』
そこからは、その男と即興での戦いが始まった。
そして再度……私は失望した。
──何この人。こんなに弱いの?
この街で頭ひとつ抜けて強いとされている『千剣の叡智』
しかし蓋を開けてみれば、バレバレで単調な攻撃とお粗末な立ち回り。
力任せに剣を振り回すだけで、他には何もない。
──この男は剣士失格ね。
私は鎖を操り、男を完膚なきまでに叩きのめした。
それはもう、再起不能になるギリギリまで。
『わ……悪かっ、た……お前を……認める。だから、許して……』
『認めてもらわなくて構いません』
『い、いや……最終選考に……』
『必要ありません。このクランに未来がないことは、今確認できましたので……失礼します』
──ああ。無駄な時間を過ごした。
私は実力のあるクランに入りたい。
忖度の入るようなふざけたクランに入りたいわけじゃない。
私は私の実力を正しく認めてくれて、なおかつ私を超越するような強い存在がいるクランに入りたい。
最強だと思われるのは心地よいが、退屈でもある。
私は超えるべき壁が欲しかった。
私と肩を並べて戦えるほどの強者。
そんな存在が、この世界のどこかにいるはずだと、私は信じていた。
──でもそれが全くの無名剣士だとは、予想していなかった。
「こんな……こんなのに……私は……!」
ここまで積んできた経歴も。
倒してきた者たちの数も。
彼に負けた瞬間、全部無駄なことだったんじゃないかと思えてしまった。
明らかに私よりも戦闘経験は少なかった。
剣術も見たことのないもので、恐らくは我流。
それこそ、私が打倒した『千剣の叡智』にいた男よりも酷いものだった。
でもこの男は私にないものを持っていた。
『死を恐れない心』
私は的確に彼の急所を攻撃していた。
背骨から始まり、手足の関節、頭部。
普通なら痛みに悶えて動けなくなる。
でも彼は違った。
──私の攻撃に臆することなく、前へ前へと進んできたのだ。




