表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/17

【12話】打算まみれの愛情





 私は自分自身の『手駒』を愛している。

 それは期待の表れであり、私の理想を叶えるために躍動してくれるのだという打算も混じっている。


「くっ……届けッ!」


「やらせない!」



 両者の激闘は、見ていて実に楽しい。


 私が一番最初に手に入れた手駒であるキルは、勝利のためにボロボロになりながらも立ち上がり、強者への挑戦を続けた。


 私が二番目に手にしたいと思ったユラは、実力者であるキルを己の持つ戦術によって死の淵まで追い込んだ。


『剛よりも柔が勝る』とはよく聞くが、二人の戦闘を見ていて確かにそうだと感じていた。

 力押しで勝ち切ろうとするキルをユラは最小限の動きで封殺していた。

 それは力と力のぶつかり合いを行わず、自身の操る無数の鎖を利用した頭脳戦によって勝利を得ようとすること。

 実に合理的な考え方。

 単純な力量のみで勝利を左右されない彼女の強さ。

 これこそが私の求めた最強となる一つの形。




 流石に有名校を卒業しただけあって、戦闘に関する知識が豊富だ。

 キルにはないものがユラにはある。

 戦術知識の高さだけで言えば、間違いなくキルは敵わない。

 


 ──戦闘が始まった瞬間、ユラの実力は確かにキルを超えていた。



 私も順当に行けば、ユラがキルを下して勝利を収める。

 そう読んでいた。


 しかし戦いとは、お互いの実力のみで決まるものではない。



「ぐぅ………っ! がぁぁぁぁぁぁぁ!」


「そんな。私の鎖が……!」


 ユラの操る鎖は一本、また一本と大太刀の前に千切れ始める。

 彼女の瞳には、刻一刻と迫る刃への恐怖が浮かんでいた。



『剛よりも柔が勝る』

 だが、剛が『狂』に変わった瞬間に、その理論は破綻する。


「お前の鎖なんて知るか! 俺は……この大太刀だけで全部破壊してやる。それが俺の戦い方だ!」


 今のキルは周囲の景色など一切見えていない。

 目の前にいる敵を排除する。

 その一点を遂行するために動いている。

 キルにはユラしか見えていない。

 彼のボロボロの手足が、まともに動いているのは剛という枠組みを超越したからに他ならない。


 死を悟り、己の限界を突破した。

 だからこそ、この戦況はキルを中心に回り続ける。


「……終わりだ。エリート女」


「……………ぁ」


 そして無情にも、最後の鎖が大太刀の前に屈した。

 散り散りになった鎖の破片は、月光に照らされそれは綺麗に輝いていた。

 敗北の色。

 ユラはこの瞬間に、キルとの戦いに敗れた。




 ──さて。名残惜しいが、これで楽しい余興は終わりか。


 





「死ね……!」


「────っ!」



 キルの刃がユラの首を断ち切る寸前。






「そこまでだ。愛しの手駒よ……」



 私は私の愛する『手駒』の攻撃を小指で止めた。



「────!?」


「お前の実力をしかと見せてもらった。よくやった。存分に褒めてやろう」



 キルの瞳は勝利への執念に燃えたぎっていたが、私が褒めたことによって、彼の周囲に纏わりついていた熱はスッと冷める。

 そして……


「おっと。やはり限界だったな」


 キルは魂が抜けるかのように、意識を失った。

 私はキルを支え、ゆっくりと地面に寝かす。



 ──本当に期待以上だった。見込み以上の成果を出せたのは、間違いなくお前自身が掴み取ったものだ。


「……私が、負けた?」


 ──それに加えて、キルの猛攻は、ユラの持っていた高いプライドをしっかりとへし折ってくれた。


 絶望感を滲ませるユラは地面にガクリと膝を着いた。

 そこに有り余る自信はない。

 あるのはただ、自分の鎖が全て破壊され、キルに殺されかけたという敗北の事実のみ。


 これでいい。

 キルのおかげで、ユラを落とす準備は整った。

 これでこの女は確実に──私の手駒2号となるだろう。


ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ