【11話】死域に踏み込んだ覚醒
俺は誰かに初めて必要とされた。
ロザリアという黒髪の令嬢。
彼女は俺のことを『手駒』であると言う。
ふざけた話だ。
人をなんだと思っているのだと、説教をしてやりたくなる。
でも俺は彼女の言葉を……意思を受け入れた。
『手駒』でも構わないと思ったのだ。
それで自分のことを必要としてくれるのなら、なんだっていいと。
「終わらない……こんなところで……俺はッ!」
「貴方、なんで……動けて……!」
だから俺にとってはロザリアに見捨てられることが最も怖い。
そう、死よりも恐ろしいことだ。
「絶対に勝つ……!」
──今の俺は、勝利への執念だけで動いている。
身体がボロボロでも立ち上がれるのは、追い求めるものがそこにあるからだろう。
きっと俺の背骨は粉々に折れている。
両腕、両足にも肉が抉れるくらいの怪我がある。
口から血は吐くし、体調はすこぶる悪い。
もう視野はかなり狭い。
真っすぐ正面にいるユラを認識できるだけで、その周囲の景色は一切目に入らない。
次に身体のどこかに決定的な攻撃を受け、足を止めてしまったら、俺は動けなくなってしまう。
そうなれば俺は負ける。
──でも、そんなのは絶対に嫌だ!
「ここでお前に負けるくらいなら……死んだ方がマシだ」
息をするように出たのは、俺の嘘偽りない本心からの言葉。
ロザリアに見捨てられるのは、俺にとって死んだと同義。
むしろこのままロザリアの手駒である内に死んだ方が、彼女のために戦っていたのだと思える分、俺にとっては幸せである。
「……はぁ……行くぞ。エリート」
大太刀を構え、絞り出した声でユラにそう告げる。
「そこまで傷だらけなのに、まだ私と戦うのね……本当に死ぬわよ?」
「お前に勝てれば、後のことはどうでもいいんだよ。死んでも構わない」
「あっそ。いいわ……受けて立つ」
ユラは鎖で自分の周囲を囲み、俺を迎え撃つ構えを見せる。
周囲の静けさを感じつつ、俺はゆっくりと足を前に踏み出す。
そこから鎖による攻撃をかわしながら、ユラとの距離を詰める。
「……いい動きね。でも……!」
「あがっ……!」
「鎖は一本、二本だけじゃないのよ」
──ユラの操る鎖が、膝に命中。足に力が入らないどころか、骨が砕けるようなバキバキという嫌な音が鳴った。
「おしまいね……」
踏み込めない。
足の骨が完全に折れていた。
地面に足を付けているだけで、無限に痛みが襲ってくる。
このまま前方に倒れてしまえば、きっともう立ち上がれない。
──ダメだ。それじゃあ俺は存在価値を失って終わる!
「終わ、らねぇ……よ! 俺はお前を倒すんだ……!」
足の一本や二本くらい壊れてもいい。
「なっ……普通は今ので動けなくなるはずなのに!」
「倒す……絶対に!」
痛みは確実に精神を蝕んでいる。
夜更の暗さ以上に目の前が見えなくなっているのがその証拠。
ユラの姿もはっきり見えないくらいボヤけ始めた。
「これで止まらないのなら……動けなくなるまで徹底的に壊してあげる!」
ユラの鎖は容赦なく俺の四肢に深い傷を刻み込んでくる。
とんでもなく痛いが……足の骨が折れた時点で、苦痛の最大値は経験済み。
これ以上の怪我が増えたところで、苦しさの値は変わらない。
「俺は……必ず……お前を倒す……!」
「なんでよ……痛覚がないの?」
自分の手足がどうなっているかはもう分からない。
感覚すらなくなったから。
ただユラを打倒する。
その意識だけが俺を執拗に駆り立てていた。
周囲の音も聞こえない。
甲高い耳鳴りが響いているだけで、ユラの声すら聞き分けられない。
それくらい追い詰められて、俺は初めて気付いた。
──ああ。これが『死ぬ覚悟』をするってことなんだ。
ロザリアは言っていた。
『私のために死をも厭わない覚悟』……それをしろと。
生半可な気持ちであの時は頷いていたが、ユラに追い詰められた俺は、その意味をようやく理解できた。
──なるほどな。ロザリアが言いたかったのは、死ぬギリギリまで勝利に執着しろってことか。
勝つことを求め続ける。
それこそが満身創痍な自分を奮い立たせる最大の原動力。
勝つためであれば、痛みによる動きの鈍化すら超越する。
勝利の快感を得るためであれば──何も恐れることはない!
これこそが、この地上で最も効果があるドーピング。
「…………あと数歩で、俺の大太刀がお前に届く射程範囲だ」
「…………止まりなさいよ。もう!」
ユラの顔には薄らと恐怖の色が浮かんでいる。
有利な戦況で余裕そうな表情を浮かべていた彼女が、俺の接近から敗北を感じている。
ああ。なんて最高なんだ。
強者の顔を歪ませる……それはこんなにも気持ちいいのか。
「あと……一歩!」
「────ぃっ!」
ユラの額を冷や汗が伝い流れる。
俺にはもう彼女の周囲に漂う鎖なんて見えてなかった。
見る必要がなかったからだ。
防御は完全に捨て、彼女を倒す攻撃だけに注力した。
「──これで射程内だ!」
強引に間合いを詰めることで、俺はユラへの対抗策とした。
自身のことを犠牲にした諸刃の剣。
しかしそれは、何よりも勝利に近付く最も効果的な手段。
大太刀は普段よりも軽く感じた。
握っている感覚があまりないからだろうか。
大太刀を振り抜く際、目の前には無数の鎖が現れる。
「まだ! 私は負けてない……!」
ユラの行う最後の抵抗。
俺の大太刀が自身に届かなければ、彼女は俺に勝てるはず。
でも俺だって、ここまで来て引けるわけがない。
鎖に弾かれるのは許されない。
このまま鎖ごと──ユラを薙ぎ払う!
「くっ……届けッ!」
「やらせない!」
お互いの全力をぶつけ合い、俺たちは真剣な表情で視線を交差させる。
ユラは強いが、絶対に負けない!
これは俺の存在価値の証明であるのだ。
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