【1話】怪物令嬢との出会い
「はい。これにて最終選考は終了となります。この場で選考の結果を発表します……残念ですが、君は不採用です」
──はぁ、またか。
この文言を受け取るのはこれで何度目か。
数えきれないほどに言われ慣れた言葉を噛み締め、俺は立ち上がる。
「ありがとうございました……」
「はい、ありがとうございました。そちらの扉からお帰りください。お足元には気をつけて」
女性の事務的な対応に苛立ちすら湧かず、俺はゆっくりと重い足を動かした。
魔物や武装集団の脅威から街の安全守る組織──それが『クラン』だ。
そのクランの中でこの街最大の規模を誇る『千剣の叡智』
俺はその加入選考の最終段階で、落とされてしまった。
──くそ……!
最終段階に至るまでは順調だった。
実力も申し分ないと判断され、俺はクランへの加入を目前にし、かなり自信があった。
ここが俺のことを見つけてくれる。
募集要項に『実力主義・経歴不問』とあったのを見た時は、ここしかないと感じた。
腕っぷしは誰にも負けない。
剣の扱いも我流ながら、かなり洗練したものに仕上がっていて、実力を評価してくれるこのクランでなら、俺は輝ける……そう本気で考えていた。
──しかし結果はこのザマだ。
俺は最後の最後で認められなかった。
このクランに必要のない人間であると、落第者としての烙印を押された。
クランの本部がある建物から出ると、腹立たしいくらいに快晴だった。
「…………はぁ。また振り出しに戻るのか」
眩しい日の光を手のひらで遮りながら、俺は建物の階段を下る。
一段一段を下りる足は鉛のように重く、これから先の構想も浮かんでこない。
もうどこにも行く気力はない。
実力主義だと言われたクランに認められなかった俺は、きっと弱いから蹴落とされたのだ。
「……俺には、もう何も」
才能もない。
経歴もない。
学もない。
愛想もなければ、将来性もない。
そして俺自身の実力さえも否定された。
剣の腕前を磨き続けた俺が、その努力を否定された……そんな俺に何が残るというのだろうか。
ダメだ。
完全に詰んでるじゃねぇか。
実力主義を謳うクランは少ない。
多くのクランは有名剣術校の卒業生や、魔術学校の卒業生などを優遇している。
かたや俺は、学校に通うことのできなかった貧乏人。
経歴は真っ白で、この瞬間から這いあがろうと全力を投じて試験に挑んだ。
拳を強く握る。
己の無力さがもどかしい。
俺にもっと実力があれば……あるいは人並みの経歴があれば。
結果はきっと違っていたはずなのに……!
後悔ばかりが頭に思い浮かぶ。
こんな時間をいつまで続けるんだろうか。
ど底辺で這いずり回る人生で俺は終わるのだろうか。
底辺は一生下で生きる。
這い上がって、成り上がるなんて夢物語なのかもしれない。
俺の望んでいた世界なんてものはなくて、どこまでも俺にとって厳しい世界が待ち受けている。
「このままずっと……変われないのか」
ボソリと呟いた言葉は、現実味を帯びた気持ち悪いもの。
耳障りで、どこまでも虫唾が走る。
俺は俺のことを認めてくれる人に出会いたかった……!
いつだって俺は一人だった。
なんとか生きて、死にそうな場面も幾度となく乗り越えてきた。
無駄に苦しい環境で育ったがため、誰かと馴れ合う経験もできなかった。
力を追い求めた俺を……!
誰でもいい。
──本当の俺を見つけてくれよ!
──認めてくれよ!
こんなに頑張ってきた俺の人生が無駄じゃないって、言ってくれ!
そうじゃないと。
俺は生きている意味を失ってしまう。
自分を支えてきたのは背中に背負った大太刀一本。これでどこまでも行けると信じてきたんだ。
コイツと共に俺は生きていきたい。
俺自身の価値を世界に証明したい。
──それで俺は、俺を認めなかったヤツらを全員見返してやりたい!
「…………そこのクランの試験に落ちたのか?」
「────っ!」
溢れ出るドス黒い衝動を肌身で感じている時、俺を一つの声が現世に引き戻した。
女の声だ。
透き通るようで、耳に残る声。
──それでいて、どこか俺の心臓を握り潰すような重い色をしている。
声のした方に視線を向ける。
そこには漆黒のドレスを纏った若干幼めの女性が俺のことをジッと見つめていた。
長く黒い髪揺らし、真っ赤な瞳には惨めな顔をした俺が映り込んでいた。
「…………試験に落ちたから何だ? お前には関係ないだろ」
心の荒れようから、言葉が刺々しくなった。
年下の小娘に向ける言葉としては不適切なもの。
しかし今の俺に、そんな配慮はできなかった。
「お前に構っている暇はない。じゃあな」
一睨みし、俺はそのまま足を前に踏み出そうとした。
だが次の一歩が出ることはなかった。
俺は完全に立ち止まった形になり、滝のように冷や汗が流れる。
──俺の身体は、女を睨んだ直後に硬直したのだ。
「──は?」
「誰が、勝手に去っていいと言った? 私が許可を出す前に、勝手な行動が許されるわけがなかろう」
その瞬間に感じた。
身動きが取れなくなったのは、確実に黒髪の女が関係しているのだと。
「てめぇ、何をした……!?」
「私の話を聞け」
「そんなことして俺に何のメリットが……ッ!」
怒鳴り散らそうとするも、女の真っ赤な瞳に魅入らていると理解した途端に、喉が潰れるような痛みに襲われた。
「…………アガゥ!」
──痛ッ! 何が!?
「口答えをするな。お前のメリットなど私は知らん」
女の足音が近付いてくる。
軽い音とは裏腹に、自分よりも強大な存在が迫っている感じがした。
「私は私のためにお前を呼び止めた」
踵の高い靴を履いているのが分かるくらいに、コツコツとヒールの音が周囲に鳴り響く。
空気が重くなる。
「……お前は私にとって価値がある」
距離が縮まる度に感じる。
この女は普通ではない。
これまで出会ってきた人間とは、明確に違うのだと。
「運が良かったな。私がお前を最大限利用してやる──!」
──そして彼女には、俺の人生を簡単に捻じ曲げるだけの力があるのだと、彼女に見つめられた恐怖によって理解した。
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