生きているけど死んでいる
たくさんの目がある。
たくさんの目があるのに。
その目は僕を見ているのに。
誰もの目が僕を見ているのに。
僕がその皆に視線を向けると、その目はおどろくほどそっぽを向くんだ。
決して目を、あわせてはくれない。
「もう大丈夫よ」
間に合ってなんていないよ。
大丈夫だったものなんて、ないよ。
この体に心なんてないよ。
ずっと一つの場所に閉じ込められていた時に、心をすりきらして、なくしてしまったから。
それはとっくの昔に終わった出来事だから。
心に思い浮かぶのは、薄暗い部屋。
そこから見える窓。
その向こうに青空が見えたはずだけど、もう思い出せないよ。
「もう大丈夫よ」
何も見えていないんだね。
体しか見えていないんだね。
傷がなおって、栄養がかよって、ふくよかになっていく体しか見えていないんだね。
今さら救い出してくれるなら、どうしてあの青空が見えていた頃に助けてくれなかったのさ。
どうして、間に合ってくれなかったのさ。
もう忘れてしまったよ、心なんて。
体を治されても、治らないよ。心なんて。
ベッドの上で目覚めても空っぽだよ。
カーテンの向こうに朝日がのぼってきても、そんなもの存在しないよ。
「もう大丈夫よ」
だから何が?
って、何度でも言うよ。
生きているけどもう、死んでいるんだから。