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異世界転移って災害だろ  作者: 近衛いさみ
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〜日本編〜 1話(はじまり)

 今日は月曜日。多くの学生にとって、憂鬱な曜日だ。明田総士あきたそうしも例に漏れず憂鬱な気分で学校へと向かい、歩いていた。


 総士の通う高校は住んでいる街にあるので、徒歩で通学ができる。その点、通学のハードルが低い総士は、他の学生よりは憂鬱な気分が少ないはずだ。それでも憂鬱なことには代わりはないのだ。



「……昨日の転移者情報です。ついに日本の転移者の1日の人数が100人を超えました」


 商店街を抜けるときに街の電気屋のテレビから音声が漏れてくる。朝のニュースキャスターが淡々と原稿を読み上げていた。

 嫌なニュースだ。


 この世に転移者なる存在が出てきてのはいつだったろうか? 初めて公になったのは1990年代に発表されたとある書籍の中だった。異世界転移。この話は瞬く間に世界に広がった。今ではさも当たり前のように異世界転移のことがさまざまなメディアで取り上げられている。

 憂鬱な気分に憂鬱ニュース。総士は気持ちを切り替えるために大きく息を吐き出した。そんなことで晴れるような憂鬱ではないのだが。


「よっ」


 後ろから肩を叩かれて振り向いた。顔を見なくても誰だかわかる。総士に声をかけてくる存在はそんなには多くない。同じ学校に通う新城直澄あらきなおすみだ。直澄とは家が近所で子供の頃からよく遊びに出かけていた。


「直澄。こんな時間に……」


 その先の言葉を思わず飲み込んだ。野球部で活躍していた彼は、高校に入ってから毎日朝練習があり、総士と同じ時間に登校することはまずなかった。しかし、ハードな練習に身体を壊し、部活を引退したのはこの夏のことだった。


「そんな気ー使わなくていいよ。まぁ、野球ができなくなったのはショックだけどよ。別に死ぬわけではないしな」


 直澄は少し伸びた毬栗頭をぽりぽりと掻いた。


「なら、よかった」


 直澄は総士と違って明るい。友達も多い。野球がなくてもこの先、輝かしい未来が待ってるんだろうなと総士は思っていた。


「それよりさ? この間の中間試験どうだった? 親も教師も試験結果で志望校選べってうるさくてよー」


 直澄は先日結果が帰ってきた学校の試験のことを話題に出した。


「んー平均が80点ちょいかな。数学がよかったんだけど英語でケアレスミスが目立った。目指す大学も少し絞れてきたよ」


 総士は自分がもらった試験結果の一覧を思い返しながら答えた。


「す、すげー。総士は昔から頭よかったからなー。俺なんて平均30くらい。野球ばっかで勉強なんかしてこなかったからまずいよ。大学も野球推薦でーなんて考えてたから」


 直澄は総士の結果に少し動揺しているように言った。


「まだ2年だから、僕たち。大丈夫じゃないかな?」


 そんな直澄をなだめるように総士は言った。


「はぁぁ。嫌になるなー。いっそのこと異世界転移したいわー」


 直澄は天を仰ぎながら言った。野球での道が立たれてしまったこと。直澄にとっては大きなことだったのだ。


「そんなこと言うなよ。異世界転移なんてろくなもんじゃないだろ」


 先程のニュースが総士の頭をよぎる。そんな言葉、親友の直澄からは聞きたくなかった。少しイラついた気持ちを返事にぶつけてしまう。


「だってよ。アニメとかみたいに異世界ではチヤホヤされっかもよ? 美人なエルフに囲まれて、ハーレムとかになっかも」


「そんなんアニメや小説の話だろ? 転移者が出始めて30年。ほとんど戻ってきてないんだよ?」


 政府がまとめた見解によると転移者の生還率は5%割るくらいだ。そんな中、増え続ける転移者の処置をどうするか悩んだ政府は『転移者法』を制定した。その中で転移者は死亡したものと同等の扱いになるのだ。


「でもよ? 異世界で楽しく暮らしてるだけかもよ? ネットでもすげー沢山の情報が出回ってるぞ」


 知ってる。総士は心の中で毒ずく。そんな身も蓋もない情報、くだらないと総士は思っていた。実際転移者なんて死んだものと変わらない。交通事故のようなものだ。今や年間30000人ほど転移者が出ている。このまま増え続ければ日本人の死因の上位に入ってくるのではと総士は思っていた。

 そんな苛立った総士の気持ちを汲み取るかのように学校の校門を抜けた。クラスの違う二人は下駄箱で別れた。下駄箱で直澄のクラスメイトと出会ったからだ。総士はモヤモヤした気持ちを抱えながら教室へと向かった。



 翌朝、いつものように制服に着替えた総士はリビングに降りてきた。夜勤明けの母親はまだ寝ているようだ。自分で朝食のパンを焼きながらテレビをつけた。またあのニュースだ。


「昨日の転移者情報です。昨日確認された転移者は106人です。二日連続の100人超えで……」


 総士はチャンネルを変えようとした手を止めた。画面に表示されている転移者が出た地域に自分の住んでいる地区の名前があったのだ。この近くで転移者が出た。総士は背筋が寒くなるのを感じた。今までどこか他人事のように思っていたことが、一気に現実と近づいたのだ。


 すぐさまスマートフォンを開き、ネットの地域コミュニティーにアクセスした。やはりさまざまな書き込みが既にある。しかし、転移者を羨ましがる書き込みの多さにうんざりした総士はすぐに画面を消し、焼き上がったトーストを齧った。



 学校も騒然としていた。この地区から転移者が出たのだ。当然だろう。しかし、友人の少ない総士が情報を得るには時間がかかった。転移者がこの学校の人間、しかも直澄だと言うことを知るには。


「な、直澄が!?」


 昼休みにクラスメートが席の近くで雑談をしているのを聞いた総士は初めてそれを知った。


「そうか。お前、2組の新城と親しかったな。知らなかったのか? 学校中この話で持ちきりだぞ?」


「ほんとに直澄が? なんで?」


「俺も聞いた話だけど放課後に部活の顧問と野球部の部室で話をしている時だって。急に意識がなくなったと思ったら消えたらしい。野球部の中にも見たってやつが何人かいるよ」


 クラスメイトの話を総士は呆然と聞いていた。昨日あんな話をしたからか? 頭の中でありもしない憶測がぐるぐると回った。

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