海賊竜バッカニア(2)
( ゜ー゜)テケテケ(更新でございます)
――やっぱり、こいつか。
顎を引き裂かれ、白目を剥いて痙攣している竜王族の姿を見下ろして、バッカニアは鼻を動かした。
バッカニアがヘドロの竜だった頃、戯れにバッカニアに襲いかかり、その四肢をもぎとった七匹の竜の一匹。
――デンツァとか言ったか。
七匹の会話に出てきたその名前を、バッカニアはよく覚えていた。
アルシードの話によれば、七匹の内四匹はスキュラに殺されたようだが、まだ三匹が生きているはずだった。
――殺すか。
結果的に生き延びはしたが、デンツァたちはバッカニアを戯れに殺そうとした。
ヘドロの竜だった頃から、殺すと決めていた。
バッカニアの殺気に気付いたのだろうか、デンツァはその目を開けた。
ヘドロの竜のことを思い出したわけでもないだろうが、命乞いをするようにうめき、もがくような様子を見せた。
「バッカニア様?」
違和感を覚えたのだろう。バッカニアの背に乗ったアルシードが不安げな声をあげた。
その声で、バッカニアは我に返った。
クリオネの背中に乗ったリィフたちが降りてくる。
「どうしたんですか?」
「……知った顔に似ていたが、見間違いだったようだ」
リィフの問いに、そう返した。
デンツァとの因縁を話すのは、やめておくことにした。
話せば、リィフは余計な葛藤を背負うことになる。
デンツァを生かすにせよ、殺すにせよ、一定の苦悩を感じずには済まなくなるだろう。
「こいつを、治すのか? おまえを喰おうとした相手だぞ」
デンツァに視線を戻し、そう問いかける。
わざわざ見たくもない相手だが、リィフの目を見て話すのも、少し気まずかった。
バッカニアは元来、海賊竜と呼ばれた悪竜だ。
敵対する者は容赦なく殺してきた。
そういう部分を見透かされそうな気がした。
「今回で懲りてくれるなら、それで構いません」
「なんとかの顔も三度ってやつか」
「三度は無理ですが、一度か、二度くらいなら」
リィフは少し困ったように微笑んだ。
「そうか」
今回で一度、ヘドロ竜の件で二度となる。
――次で殺すか。
リィフは水神ヴァルナ、闇の賢者ルルスファルドにはかり、ヘドロの竜だったバッカニアを救ってくれた。
その慈悲に免じ、バッカニアもデンツァを一度赦してやることにした。
リィフの慈悲を裏切るようなことがあれば、そこで殺せばいい。
復讐心が消えたわけではないが、無理に今殺すこともない。
竜の寿命は人より長い。
アルシードやリィフがいなくなったあとでも、別に遅くはないだろう。
namaḥ samanta-buddhānāṃ pṛthiviye svāhā
(ナマハ サマンタブッダーナーン プリティヴィイェー スヴァーハー)
リィフは地天呪を使い、デンツァを癒した。
バラバラになっていた顎に肉と骨が盛り上がり、元の形へと戻る。
治癒なのだが、どうも『破壊的』『理不尽』という言葉が脳裏に浮かぶ回復具合だった。
地天呪は、時によって心の歪みをも正してしまうらしい。
だが、治る治らないには個人差があり、特に自身の悪性の自覚度が大きく影響する。
結果からいうと、デンツァはあまり変わらなかった。
ただ「ひ、ひぃっ」と悲鳴を上げて、小便を漏らしてどこかに飛び去っていった。
――あんなものか。
どうにもならない小物ぶりだ。
バッカニアは、ふぅ、と鼻で息をした。
「バッカニア様」
頭の上のアルシードが、ふと、真剣な声になった。
「あの竜は、もしかして……」
「ああ」
デンツァとの因縁を、うっすら察したのだろう。
四肢を全部もがれた、というところまではショッキング過ぎると思い、話していないが、他の竜に足をもがれた、という話はした覚えがある。
「あいつだ」
「……良かったんですか?」
アルシードは小声で言った。
「よかねぇが、今はいい」
長い尻尾を動かして、少女の頭に軽く触れた。
「俺たちの頭目は、殺さないのが流儀だからな」
今のところは、それを尊重して行くことにした。
( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)
次回更新は明日朝の予定です。
「面白かった」「もう少し読んでもいい」と感じて頂けましたら
『ブックマーク』のところや、その下の☆☆☆☆☆の評価部分をテケテケと叩いて頂けると執筆者の情熱の焔がより高く燃え上がるかと存じます。




