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紋章喰らい(1)

( ゜ー゜)テケテケ(第七回でございます)

 紋章喰らいは、もとは小さなグールスライムだった。

 骸山に生まれ、虫、果物、小動物の死骸などを食べて生きてきた。

 時には人間達が持ってくる人間の死骸も溶かして食べた。

 紋章喰らいの運命を変えたのは、酒臭い男の亡骸。

 麻袋に乱暴に詰め込まれたその骸は、首筋に縄の跡があった。


『剣客紋』を持ったその男は、貧農の家に生まれた。

 剣一本で身を立てることを夢見て村を出た男の人生は、だか明るいものではなかった。

『剣客紋』の持ち主であることを評価され、マールゥト侯爵家の衛兵の職にありつき、妻を得たが、それが人生の絶頂だった。

 マールゥト侯爵邸の番兵として、毎日屋敷の周囲を歩くだけの毎日。

 手柄を挙げる機会もない、退屈な日々に厭いた男は酒に溺れ、家では妻、職場では同僚や後輩に暴力を振るうようになった。

『剣客紋』の持ち主である男の素行は明確にとがめ立てされることはなかったものの、出世には響き、紋章を持たない同期が班長に取り立てられても、男は平の衛兵のままだった。

 やさぐれた男は更に酒に溺れて行った。

 それに愛想を尽かした妻は間男を作り、酔い潰れた男を間男と共謀して絞め殺し、骸山へと捨て姿を消した。

『剣客紋』など持たないただの酔いどれ亭主であったなら、ただ捨てられるだけで済んだかも知れない。

 だが、紋章を持たぬ人間から見れば、紋章持ちの人間は化け物のようなものである。

 逃げたところで、追ってくるかも知れない。

 殺されるかもしれない。

 殺らなければ殺られる。

 そんな恐怖が、男の妻を凶行に走らせた。

 そんな来歴を持つ『剣客紋』は、それを取り込んだグールスライムを血に飢えた剣鬼へと変貌させた。


 斬らせろ。

 戦わせろ。

 馬鹿にするな

 俺は強い。

 殺してやる。

 強いんだ。

 俺は。

 俺は。

 俺は!


 くすぶったまま、自我を膨らませたまま死んだ男の妄執は『剣客紋』を通じて紋章喰らいに取り憑き、狂乱させた。

 最初のうちは、木の枝を振り回して近くに居たグールスライムに襲いかかり、ビシバシひっぱたく程度で済んでいたが、偶然に武器を持ったゴブリンに出会ったことが、事態を一気に深刻にした。

 小枝でひっぱたかれたゴブリンが落としていった錆びたナイフを拾った紋章喰らいは、骸山のゴブリン達や獣たちを次々に斬殺していった。

 ついには骸山のボスであるゴブリンロードを斬り殺し、錆びた両手剣を手に入れた。

 古びてはいるが、魔導回路が組み込まれた両手剣は切れ味鋭く、小枝や短剣では殺せなかったグールスライムたちを斬り殺せるようになった。

『剣客紋』に支配された紋章喰らいだが、屍肉食いであるというだけで、本来はさして邪悪でも凶暴でもない生物である。

 暴走と殺戮を続けながら、叫び続けていた。


 テケテケ!

 テケテケ!

 テケテケッ! テケテケッ!


 ――ヤメテ!

 ――コワイ!

 ――ヤメテ! タスケテ!


 紋章喰らいが粘液状の身体を震わせて出す『テケテケ』という音には、そんな思いが乗っていた。

 同種であるグールスライムたちの群に襲いかかり、滅茶苦茶に斬り殺して回った紋章喰らいは、逃げたグールスライムを追って骸山の中腹にある草原の近くにまで来た。

 

 キレイナバショ。

 

 いつの頃からか、清浄な気配が満ちるようになった不思議な草原。

 優しい空気に包まれた場所で、骸山の魔物や獣たちのひなたぼっこの名所となっている。

 おいしい草がたくさん生えていて、地面を掘ると人間の死体が埋まっているのだが、そこを荒らしてしまうとこの場所の居心地の良さが壊れてしまう。

 誰に説明や警告を受けた訳でもないのだが、骸山の魔物や獣たちは、何故かそう理解し、この場所を大切に扱っていた。

 骸を荒らすことも、草を食むこともしなかった。

 そこで、紋章喰らいは僧侶に出会った。


 ――キレイ。


 キレイナバショに、キレイナニンゲンがいた。

 時々見かける生きたニンゲンや死んだニンゲンと同じ種族のはずだが、違う。

 全身が、清浄な空気に包まれ、きらきらと輝いているように見えた。


 ――カミサマ?


 誰に習ったわけでもないが、そんな言葉が紋章喰らいの意識を横切る。

『剣客紋』にこびりついていたニンゲンの記憶の断片かも知れない。


 ――タスケテ。


 紋章喰らいはテケテケと鳴く。

 そんな思いとは裏腹に、『剣客紋』に操られた身体は大剣を構える。

 カミサマを斬り伏せようとしているようだ。


 ――ダメ。


 テケテケ!


 叫ぶように身を震わせたが、どうすることもできなかった。

 黒い身体が大地を蹴り、カミサマに襲いかかる。

 そうして振るわれた大剣は、一度目はかわされ、二度目は受け止められた。

 大剣の軌道が見えているらしい。

 カミサマは紋章喰らいが実際に動くより少し速く動いて、二度の斬撃をかいくぐっていた。

 三撃目。

 真上に振り上げられた大剣が、カミサマを真っ二つにしようと振り下ろされ、止められる。

 カミサマの手の中に現れた、綺麗な金色の槍に受け止められて。

( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)


この世界のスライムの鳴き声はテケテケ、でございます。

同作者の旧作『エルフもどき』からの設定ですが、テケリリ、とまでは鳴きません。


「面白そうだ」「読み続けてみよう」と感じて頂けましたら

『ブックマーク』のところや、その下の☆☆☆☆☆の評価部分をテケテケと叩いて頂けると執筆者の情熱の焔が高く燃え上がるかと存じます。


次回更新は16時となります。

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