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山の魔物に襲われました。

( ゜ー゜)テケテケ(第六回でございます)

「埋めるのは、このあたりでいい?」


 尼僧タリアの墓所に手を合わせた僧侶リィフは、肩の上に浮いていたルルスファルドに声をかけた。


<構わぬが、お師匠からは少し距離を取ってくれるかや? あまり近いと気詰まりになりそうじゃ>


「わかった」


 草原の一番上のあたりまで出て、かついできた薪とスコップを降ろす。

 火葬の前に、墓穴を掘っておいた方がいいだろう。

 穴掘りを始めようとしたところで、草原を取り巻く木々の向こうから、妙な声が聞こえてきた。


 テケテケ!

 テケテケ! テケテケ!

 テケテケテケテケテケテケッ!


「……スライム?」


 スライムの鳴き声。

 スライムは基本的に半球状の粘液塊のような姿の生き物である。

 鳥獣のような発声器官は持っていないのだが、身体の一部を震わせることでテケテケと鳴き声を上げる。

 この骸山には、グールスライムと呼ばれる土中の死体にとりついて食べるスライムが多く生息していた。

 声の具合から見て、結構な数がいるようだ。

 やがて木々の向こうから、黒いスライムの群が押し寄せてきた。


 テケテケ!

 テケテケッ!


 数十匹のスライム達が、ボール状になり、はねころがりながらやってくる。

 やはりグールスライムだが、リィフのことやルルスファルドの骸を狙っているわけではないようだ。

 草原に飛び込んできたグールスライムたちは、リィフ達には構わず、草原を突っ切って転がっていこうとする。


<追われているようじゃ>


 ルルスファルドがそう呟いたとき、グールスライム達の後方から、おかしなものが現れた。

 直径一メートルを超す、黒いスライム。

 グールスライムの大型個体のようだが、他のグールスライムたちとは違うもののようだ。

 粘液状の身体から、さび付いた大剣が突き出している。

 柄の部分をつかんで、斜めに構えるような角度だ。

 大きな身体の核の部分には十字を象ったような、銀色の紋章が浮かび上がっていた。


 テケテケ!


 他のグールスライムと同じように鳴いた大剣のスライムは、熟練の剣士の踏み込みを思わせるスピードで、逃げるグールスライムたちに迫る。

 錆びた大剣が閃き、グールスライムたちの命を断ち切った。

 一見切った張ったは通じなさそうに見えるスライムたちだが、身体の中にはコアと呼ばれる中枢器官がある。

 そこをまとめて断ち切られたグールスライムたちは、粘性と弾性を失って崩れ落ちていく。

 リィフたちに気付いたようだ。

 大型スライムは、リィフに向けて構えるように大剣の切っ先を上げた。


<紋章喰らい。『剣客紋』か>


 ルルスファルドが呟いた。


「紋章喰らい?」


<紋章を喰って、それに適合した魔物のことじゃ、この山の骸の中に『剣客紋』持ちがおったんじゃろう。それがグールスライムに適合してしまったようじゃな。今は『剣客紋』に振り回されておるようじゃ>


「おかしくなってる?」

 

<『剣客紋』に闘争心を煽られ、血に狂っておるのじゃろう。しかし、厄介なことになった。あれは、今の儂の手には負えぬ>


 ルルスファルドの言葉と同時に、紋章喰らいが動いた。


<いかぬ!>


 ルルスファルドが高い声をあげる。

 それより少し速く、リィフはしゅを唱えていた。


 oṃ vajrāyudha svāhā(オン・ヴァジュラーユダ・スヴァーハー)


 リィフが所属するコトノハ教の一二神の力を顕現する、一二天呪じゅうにてんしゅと呼ばれる呪文の一つ、金剛呪こんごうしゅ

 一二神の長である帝釈天インドラの力を持つ武器、金剛杵ヴァジュラを顕現する呪である。

 手の中に、金色の光が生じる。

 本当はもう少しちゃんとした武器のようなものを出せる呪なのだが、リィフは不器用である。

 長さ三〇センチほどの、不格好な棒のようなものを作るのが精一杯だった。

 目の前に突っ込んできた紋章喰らいが、大剣を振り下ろす。

 天地を裂くような勢いの豪剣を、リィフはぎりぎりのところでかわした。

 ルルスファルドは目を丸くする。

 常人はもちろん、手練れの者であっても、そうそうはかわせない。いや、斬られたと認識することすら困難な一撃を、リィフは見切り、かわしていた。

 この時のリィフには、それを自覚する余裕はなかったが。

 紋章喰らいは大剣を切り返す。

 今度は逆袈裟の角度で、やはり神速の一剣を繰り出す。

 かわせない角度と速度、リィフは不格好な金剛杵ヴァジュラをかざして、これを受け止めようとした。

 だが、パワーの差がありすぎた。

 金剛杵ヴァジュラごとたたき切られることはなかったものの、小柄なリィフは身体ごと、片腕にルルスファルドの遺体を抱えたまま吹っ飛ばされ、地面に転がった。

 追い打ちをかけられたら今度こそ命がない体勢だったが、二度の斬撃で二度し損じたことで警戒したのか、紋章喰らいは動かなかった。

 リィフは地面に手を突き、立ち上がる。


「ごめん、大丈夫?」


 ルルスファルドの遺体を、何度か地面にぶつけてしまった。

 

<死体のことを気にしている場合ではない。よくあれを凌げたものじゃな>


「僧院には、もっと速い人もいるから」


 スライムの大剣の剣速は凄まじかったが、マイス僧院には『天槍』『天下無双』などと呼ばれる使い手がいる。

 そのレベルには、一歩届かない。

 そのおかげか、どうにか目で追うことができた。

 目で追えるだけで、身体はおいついていないので、二撃しのいだだけでいっぱいっぱいだが。

 三撃目は凌げる気がしない。

 こちらから仕掛けても、倒せる相手ではないだろう。


<斬られるな、このままでは>

「わかってる」


 リィフにどうにかできる生物ではないだろう。


<こうなればやむをえん。儂の紋章を使ってみるか>


「使えるの?」


<儂には無理じゃが、生きている人間、叔父御殿であれば、いくらかの力は引き出せよう。儂の右腕に触れよ、叔父御殿に儂の『転生賢者紋』を預ける>


「わかった」


 なにか大変なことが起こりそうな気がするが、ためらう時間は残っていない。

 紋章喰らいが大剣を構え直す。

 ミシリ。

 錆び腐った大剣が、きしんだ音を立てた。


<急ぐのじゃ!>


 ルルスファルドにせかされるまま、リィフは『転生賢者紋』に触れた。

( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)


主人公の呪文はサンスクリット語の真言となっておりますが、色々ちゃんぽん宗派になっております。

こまけぇことはいいんだよ、精神にてご覧下さい。


「面白そうだ」「読み続けてみよう」と感じて頂けましたら

『ブックマーク』のところや、その下の☆☆☆☆☆の評価部分をテケテケと叩いて頂けると執筆者の情熱の焔が高く燃え上がるかと存じます。


次回更新は13時となります。

11日は16、19、22と三時間おきに更新し、以降は0時、12時の一日二更新にて進行する予定です。

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2025/02/28からリメイク版はじめました
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