海人族に会いました。
( ゜ー゜)テケテケ(更新でございます)
「あれは……なに?」
汚泥で作った粘土細工のような、恐ろしげで巨大な生き物。
リィフたちの帰りを待っていたスライムたちが寄ってきて、テケテケと声をあげた。
<海人族を見つけたので連れてきたようじゃ。あっちのデカいのはその連れとのことじゃ>
「海人族?」
視線を巡らせる。ヘドロの竜の近くに、スライムが集まったイカダのようなものが浮いていた。
その上に、緑色の革と羽毛の衣装を身につけた少女の姿があった。
あとで教わったことだが、沿岸部に棲むグリーングリフォンという魔物の皮と羽根を使った衣装らしい。
<色々訳ありのようじゃ、呼び寄せて構わぬな?>
「うん」
スライム達がイカダになっているとはいえ、海の上で待たせておくのもなんだろう。
<と、その前に翻訳魔法を使っておくか、叔父御殿、右手を>
リィフが右手を出すと、ルルスファルドは『転生賢者紋』に手を触れた。
<【励起・翻訳者】じゃ>
「れいき・ほんやくしゃ」
指示通りにそう唱えたが、なにも起こらなかった。
「なに?」
<音声言語を翻訳する魔法じゃ。スライム語は非対応じゃが、海人族とならこれで会話が出来る>
<連れて参れ>という指示を受けたスライムたちが、スライムのイカダに乗った少女を連れてやってくる。
その後方から、ヘドロの竜もついてきた。
刺激臭が鼻を突いた。
<これは、予想以上じゃな>
ルルスファルドは小さく唸る。
少女を見守るようについてきたヘドロの竜だが、上陸するつもりはないようだ。
途中で前進を止めると、首を高く伸ばしてリィフたちを見下ろした。
島へと上陸した海人族の少女は、リィフ達の姿を見上げると、両手を組み、何かの呪文を唱えた。
<浄化魔法じゃな>
ヘドロ竜と一緒に居たらしい、匂いと汚れを消したのだろう。
そのまま少女は砂浜に跪く。
「はじめまして、陸人様」
――りくじん。
翻訳魔法の作用で、「はじめまして」はきちんと理解できたが、「りくじんさま」はややわかりにくかった。
<海人族の逆じゃな、陸に棲む人だから陸人じゃ>
それでようやくしっくり来た。
「私はムーア王国の四等巫女アルシードともうします。スキュラの群に襲われていたところをこちらの皆様にお助けいただき、この地に導いていただきました」
巫女というだけあって教育があるのか、年頃のわりにきちんとした印象を受けた。
「言葉がわかるわけではないので、勝手に追いかけてきたに過ぎないのですが」
「いえ」
リィフは首を横に振る。
「導いたのでしょう。彼らには、海人の国を探すよう頼んでいましたので」
情報源として連れ帰ることにしたのだろう。
「どうかお立ちください。私は、グラード王国の僧侶リィフと申します」
リトルバード地方の領主、という肩書きは言わないことにした。
説明がややこしくなりそうだ。
「この島でスキュラを三匹退治したのですが、取りつかれていた海人の方々のご遺体の埋葬場所がわからなかったので、海人の国を探していました」
「そうでしたか……ご丁寧にありがとうございます」
立ち上がった少女の声が、震えるのがわかった。
「ですが、もう、海人の国は、ありません。スキュラに襲われて、滅ぼされてしまいました」
「滅びた?」
「はい、一月ほど前のことになります。私はどうにか生き延び、聖竜様と一緒に生き残りを探していたのですが、今のところ、生きた海人には出会えていません」
<……聖竜のう>
ヘドロの竜の姿を眺めて、ルルスファルドは呟いた。
<海賊竜のように見えるが>
――かいぞくりゅう?
<昔このへんにおった無法の竜じゃ。近くの国や船を襲っては光り物を奪っておった。で、最後は海人族の王に捕まって、魔法実験の材料にされた。自業自得といえばそれまでじゃが、その王の方もなかなかのクソ野郎での、支配した海賊竜をあちこちにけしかけては滅ぼしていった。挙げ句は儂にまで喧嘩を売ってきよったんで王宮ごと消し飛ばした。そのとき一緒に消し飛ばしたはずじゃったんだが、再生したようじゃな。肉片でも残っておったんじゃろ>
この場で一番危険なのはやはりルルスファルドらしい。
――悪い竜とまでは、思えないけれど。
見た目は恐ろしげで、匂いも強烈、凶暴そうな雰囲気も感じるが、邪悪と言った印象までは受けない。
<そのようじゃな。肉体は再生したが、かつての自我や記憶はないようじゃ。そもそも再生自体上手くいっておらん。下手な魔法でいじくられた細胞が全体におかしなことになっておる。身体が生き腐れておるのもそのせいじゃろうな。儂のことも、この島のこともおぼえておらぬ……おぼえておったらもうちょっと態度に出るはずじゃ>
――そう。
ヘドロ竜の姿を改めて見上げる。
邪悪な印象は、やはり受けない。
ただ、生き物としては、ひどくいびつで、病んでいるように見える。
――治癒、できるかな。
<やめておいた方が良かろう。生きておること自体が生命の理に反する状態じゃ。地天呪などはとどめになりかねん>
――わかった。
余計なことはしないほうが良さそうだ。
改めてアルシードに目をやった。
「アルシード様は、どこか、行くあては、おありですか?」
「いいえ」
少女は首を横に振る。
――いい?
<保護するなとは言わんが、海賊竜のほうはさすがに近くには置けんぞ。色々と汚染することになる。匿うなら近くの別の島にせよ>
――別の島なら、大丈夫?
<叔父御殿が浄化をしてやれば差し引きゼロくらいにはできるじゃろう>
その方針で行くしかなさそうだ。
( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)
次回更新は昼の予定です。
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