『恩寵紋』を使いました。
( ゜ー゜)テケテケ(更新でございます)
ルルスファルドが案内してくれた寝室に入り、リィフは眠りについた。
僧院では板の間の僧堂にせんべい布団一枚で雑魚寝、こちらは立派なベッドで独り寝である。
かえって落ち着かないような気もしたが、昨日今日と激変続きで、さすがに疲れていたらしい。
結局あっさり熟睡していた。
寝室を出ると島は夕刻。グールスライムたちが例の機械人形たちが切り分けた椰子の実や果実などを食べているところだった。
ルルスファルドの姿もあった。
「ルルス」
「叔父御殿」
テケテケ!
テケテケとグールスライム達も、挨拶をするように飛び跳ねて、切り分けた果実を運んできた。
「ありがとう」
一切れだけ受け取って、口に運んだ。
テケテケとグールスライム達は仲良く、時にテケテケテケー! と声を上げて果物を引っ張り合ったりしながら、にぎやかに食事をしていく。
その様子を眺めながら、ルルスファルドが言った。
「叔父御殿に、相談があるのじゃが」
「なに?」
「親父殿からひっぺがした『恩寵紋』を、『転生賢者紋』にしまってある」
「え」
いつの間に、大変なものを突っ込まれていた。
「腐らせてしまうのもなんじゃから使ってしまおうと思うのじゃが。どう使おうかと思っての。槍でも作って組み込んでしまうか、グールスライムにくれてやるか」
「スライムにも移せるの?」
「うむ、四七号に適性があるようじゃ。『恩寵齎すスライム』となろう」
「槍にもできる」
「うむ」
「どちらかだったら、槍かな」
あまり悩まずにそう答えた。
「何故そちらを選ぶ?」
「槍だったら、侯爵様に返せる。侯爵様がルルスのことを反省したらの話だけれど」
ダメでもともとくらいの感覚ではあるが、地天呪の作用で改悛の情が芽生えるかも知れない。
そう考えるとグールスライムに渡してしまうのはまずいだろう。
グールスライムごと返すわけにもいかないし、移したあと剥がすというわけにも行かないだろう。
槍にして返すのもそれはそれで変な話になりそうだが、あとで扱いに悩む可能性を考えると、無生物に組み込んだほうが間違いなさそうだ。
「なるほど、まぁそれで良いじゃろう」
「ところで、紋章って、槍に入れられるようなものなの?」
生ものではないのだろうか。
「そのへんの素人には無理じゃが、儂の手に掛かれば造作もない。多少特殊な資材が必要になるが、槍一本分程度であればここの蓄えで足りる」
そう告げたルルスファルドはリィフ、イオとジオの二体の機械人形を伴い、砂浜にある箱形の建物へと足を運んだ。
部屋の中は真っ白で、銀色の金属でできたテーブル以外なにもない。
リィフの『転生賢者紋』から鋼と『恩寵紋』を出させ、イオとジオに何種類かの金属や薬液などを用意させたルルスファルドは、偽一文字を作ったときと同じようにして鋼を粒子化、さらにいくつかの金属の粒子と混ぜ合わせ、『恩寵紋』の上に盛り付けるようにして槍の穂を作っていく。
できあがったのは、シンが持ち出した聖槍、飛鳥に似た作りの十字槍。
さらにマイス僧院の木槍を参考に、イオとジオの機械人形が赤樫を削って三メートルほどの柄を作り、取り付けてくれた。
「こんなところじゃな。あとは使ってバランスを見つつ調整するとしよう」
「ありがとう」
早速具合を確かめてみることにした。
一通りの素振りをし、事故防止用にカバーをつけた上で、偽一文字とは別に用意した模造刀を構えたテケテケと打ち合ってみる。
――いい出来、だけど……。
槍としては、完璧な出来だろう。
『剣客紋』を持つテケテケと真正面から打ち合っても、全く不安のない強さとしなやかさを備えている。
テケテケを本気で突いたり斬ったりするわけにはいかないので、刃物としての出来は未知数だが、テケテケが持っている偽一文字と同等であれば充分以上のはずだ。
ただ『恩寵紋』の効き目のほうはよくわからない。
持ち主に豪運をもたらす紋章のはずだが、あまり存在感を感じなかった。
「ありがとう。これくらいでいいよ」
そう告げると、テケテケは模造刀の切っ先を降ろしてテケ! と一鳴きした。
――あとは、こうかな。
『恩寵紋』の槍の穂先を上に向け、槍全体に魔力を通してみる。
『恩寵紋』を仕込まれた十字の穂が緑色の光を放ち、長さにして五メートルほどの光刃と、一メートルほどの副刃を二本形成した。
金剛呪で出した光槍よりは規模が小さいが、こちらのほうが魔力の消耗が小さいようだ。密度と切れ味も、この槍のほうが上だろう。
テケテケ!
テケテケ!
見物しているグールスライム達が喜ぶように鳴き、飛び跳ねる。
――スライム受けがいい?
そんなことを思ったとき、足下に、おかしなものが見えた。
――なにこれ。
砂浜だったはずの地面に、草花が生い茂り、色とりどりの穂や果実をつけていた。
近くにあった椰子の木から、重い音を立てて実が落ちた。
海では何十匹もの魚がはね、波打ち際にきらきらしたものが流れ着いてきた。
テケテケ?
テケテケ!
不思議そうな声をあげて波打ち際に寄っていったグールスライムたちが取り上げたのは、真珠、珊瑚など。
それと、どこかから流れてきたらしい宝箱。
「……どういうこと?」
なにか、おかしなことになっている気がする。
「あー」
ルルスファルドが小さく唸った。
「そっち系に行ってしもうたか」
「そっち系?」
「武具ではなく、祭器としての性質が強く出てしまったんじゃろう。槍というか、鉾の類いは、武器であると同時に五穀豊穣や大漁、戦勝などを願う祭祀、政の道具でもあった。『恩寵紋』は豪運や成功、繁栄をもたらす紋章じゃからの。そっちのほうの側面が強く出たんじゃろう……それを含めても恩寵具合がデタラメじゃが。聖性オバケじゃな」
「ルルスが作ったんだよ」
「叔父御殿が持たねばこうまで阿呆なことにはならん」
責任を押しつけ合う叔父と姪。
そこに、
テケ!
テケテケ!
テケテケとグールスライム達が、警戒の声をあげた。
( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)
次回は朝更新の予定です。
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