話を聞きました。
( ゜ー゜)テケテケ(更新でございます)
目を丸くしたリィフ。そしてテケテケをはじめとするスライムたちを少女は建物に招き入れた。
「悪いが靴は脱いでほしい。テケテケらは……身体を流してからじゃな。イオ、ジオ、頼む」
その呼びかけに応じて足のない鎧武者のような機械人形が二体現れ、一体が玄関先へと降りた。
玄関先の短い棒のようなものとホースで身体をつなぐと、十本の指先から勢いよく水を出した。
もう一体はその場で大きな布を出す。
「水で身体を流してから、身体を拭いて来るが良い」
テケテケ!
そう声を上げ、スライム達は水を出す機械人形に群がっていく。
スライムは水を好む生き物なので、放水を嫌うものはいない。
逆に一気に群がられた機械人形のほうが身動きが取れなくなりかけた。
最初に水浴びを終えた何匹かとテケテケを連れ、建物に入る。
床は板張り、南方風というのだろうか、壁が少なく、風通しのいい建物だ。
玄関を抜けると、白い砂と蒼いものが見えた。
「海……?」
「初めてかや?」
「うん」
「然様か。とりあえず、ここに座るが良い」
微笑んで言った少女の言葉に従い、木製のテーブルにつくと、さっきとは別の機械人形がやってきて、不思議な色の飲み物を出してくれた。
「この島の果物をしぼったものじゃ」
「ありがとう」
そう応じつつ、改めて少女の顔を見る。
「ルルスファルド、だよね?」
幽霊ではなく、姿も違ってしまっているが、物言いと雰囲気はルルスファルドのそれだった。
「うむ、儂じゃ。一応は、こちらが本来の身体と姿ということになる」
続いて運ばれてきた飲み物を一口飲んで、少女は応じた。
「普段は身体と精神を切り離しておってな。叔父御殿と一緒におったのは精神体のみの姿じゃ」
「どうして、そんなことを?」
精神と肉体を切り離して、精神のみで転生をする。
随分ややこしいことをしている。
と、いうより、本来の肉体があるなら転生しているというのも違うような気もする。
憑依を繰り返しているだけと言った方が正しそうだ。
「もともと儂は、こことは別の世界の生まれでな。ここより大分文明が進んた世界だったが、異形の神と呼ばれるものに敗れて滅んだ。それで、この世界に落ち延びてきた。四千年ほど前のことじゃったが、さすがに文明の程度が低すぎての。儂が生きて行くにはちと厳しいものがあった。それで、この世界の人間に精神体として取り憑くことで文明の発展を促すことにした。それを繰り返すうちに、転生賢者だの闇の賢者だの蛇だの狐だのと呼ばれるようになったというわけじゃ」
「蛇っていうと……西方教とかでいうアレ?」
サタなんとか。
「アレじゃ」
ルルスファルドは悪戯っぽく笑った。
「こやつらも、儂がもといた文明の産物じゃ」
ルルスファルドは機械人形を指さした。
「だとすると『転生賢者紋』って、一体何?」
「他の生き物に儂の精神を誘導し、定着させるための仕掛けじゃな。人間と言う種族に細工をし、儂の精神を受けいれる適性がある者が死んだとき、浮き出るようにしてある」
「死んだとき?」
「普通に生きておる相手の体を乗っ取ってしまうのは、さすがにアレじゃからな」
「……流産、していたの?」
リィフの本来の姪は、既に死んでいたということだろうか。
「叔父御殿が駆けつけた時には、既にな」
「そう……」
どう反応していいのか、わからなかった。
「他の、紋章は?」
「それも儂じゃな。儂がばらまいた『転生賢者紋』の因子が変化し、他の紋章が生まれた。『神槍紋』などは『転生賢者紋』とほぼ同等の力があるが、力の顕れ方が異なる。『恩寵紋』『剣客紋』となると、だいぶん劣化したものとなる」
ルルスファルドは「つまり」と続けた。
「此度の騒ぎの責任は、儂にもあるというわけじゃ。儂がこの世界に紋章をもたらした。叔父御殿の人生を狂わせたのも儂といえよう」
ルルスファルドは、リィフの目を見て、ぎこちない調子で頭を下げた。
「……すまぬことをした。申し訳ない」
本当の意味で反省しているかどうかは判断がつきかねたが、少なくとも、リィフに批難や糾弾をされるのは嫌なのだろう。少なくとも、最後の「申し訳ない」には、真情があると感じられた。
「大丈夫、気にしてない」
リィフは首を横に振る。
「そもそも、『神槍紋』があったからって話でもないだろうし」
『神槍紋』があっても、ジュノーがああいう男でなければ特に困ることはなかったかも知れない。
『神槍紋』がなくても、ジュノーがああいう男である以上は、結局寺やリトルバード送りにされていたかも知れない。
ルルスファルドがリィフの運命を決めたととは言えないはずだ。
「そういってもらえると、ありがたい」
ルルスファルドは息をつく。
――なんだか。
リィフはルルスファルドの顔を見た。
「……どうした?」
「なんだか……普通だって思って」
『闇の賢者』ルルスファルド。
最初に出会ったときや、幽霊として近くを漂っているときは、恐ろしい力を持った超越者のように感じていたが、今はあたりまえの、血の通った少女として見えた。
「然様か」
ルルスファルドは微苦笑をした。
「叔父御殿の言うとおり、儂は普通の小娘じゃ、たまさか、いくらか科学が進んだ世界に生まれただけの。英雄でも、賢者でもない、何者でもない小娘じゃ」
「そう」
何者でもないというにはさすがに力を持ち過ぎていると思うが、ルルスファルド自身が、それが本当の自分だというのなら、それは否定するべきではないだろう。
「他に、聞きたいことはあるかや?」
「ううん」
首を横に振る。
「今日は、ここまでで」
何故か明るい場所に来てしまったが、本来なら深夜のはずだ。
( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)
次回は夜更新の予定です。
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