山に登りました。
( ゜ー゜)テケテケ(第四回でございます)
<して、親父殿の言っておった骸山というのはどっちじゃ?>
マールゥト侯爵邸を出たリィフの肩に手を置き、ふよふよ浮いたルルスファルドは、のんきな調子で言った。
母の腕に抱かれることもなく、実の父の手で投げ殺された悲運の子、にしては声音も表情も陽気すぎる。
リィフは微苦笑しながら、街の北方に見える山地を指さした。
幽霊ルルスファルドの姿は『とりつかれ状態』にあるリィフ本人以外には見えていないらしい。
幽霊騒ぎが起こる懸念がないのはいいが、今度は『一人でしゃべってる状態』に見られてしまう危険がある。小さな声で「あっち」と告げた。
<声は出さずとも良い。念じたことはだいたいわかるでな。あの山か>
――うん、どうしようか悩んでるんだけれどね。
骸山は、マールゥト領都カマルの平民の埋葬地である。
管理が行き届いた墓地を使うには、マールゥト侯爵領の冠婚葬祭を取り仕切るマイス僧院への一定の寄進が必要だが、金を払えない平民達が遺体を葬る場所。
魔物や野の獣も多く、死体荒らしはもちろん埋葬に向かった人間が襲われ喰われることも珍しくない、名前通りの死の山だ。
――死体を食べる魔物がいる。できるだけ安全な場所に埋めるつもりではあるけど……。
骸山とは別のところに埋めた方がいい気がする。
普通の骸ならともかく、幽霊がついている屍だ。
自分の屍が魔物に掘り返されて喰われる様を見せつけられるようなことになったら大変だ。
<どこでも構わぬ。親父殿の言いつけに背くこともあるまい。焼いてしまえば済むことじゃ>
「焼いていいの?」
つい声が出た。
現在のコトノハ教では、埋葬の基本は土葬である。
<叔父御殿さえよければじゃが。儂は叔父御殿と違って信心も宗教もないのでな>
――わかった。
ルルスファルド本人が望んでくれるなら、火葬にするのが一番安全だろう。
コトノハ教でも昔は火葬をしていたが、火葬に使う薪が勿体ないということで土葬が奨励され、その後、火葬をすれば魂が壊れてしまい天国に行けなくなるという理論付けが行われ、火葬が忌避されるようになった。
リィフの場合、そのあたりの歴史的経緯を教わっているので、火葬に対する忌避感は薄かった。
道中でマイス僧院の分院である尼僧院に立ち寄り、墓掘り用のスコップを借り、薪を分けてもらってからカマル市街地の門に向かった。
門番に外出の用向きを聞かれたが、「赤子の埋葬に骸山に」と告げると、すぐに門を通された。
マイス僧院の僧衣がものをいった形である。
カマルの市街地から、骸山への距離は約三十分。
すでに夕刻である、夕焼け空の下を歩いて、骸山の麓へとたどり着く。
<暗くなってしまいそうじゃな、帰りは大丈夫かや?>
「なんとかなると思う。簡単な魔物よけくらいはできるから」
リィフは僧侶だ、魔物よけの呪くらいは心得ている。
そのまま山道に入る。
野犬や狼、ゴブリン、スライムなども出る場所だ。周囲に目配りをしながら、慎重に足を進めていく。
山の中腹に開けた草原で、リィフは足を止めた。
「ここでどうかな」
<清浄じゃな>
「たまに来て浄化をしてるんだ」
そのせいかどうか、このあたりに埋められた遺体や草花などは魔物や獣に荒らされることがなかった。
ここ一年ほどはないというだけなので、絶対にないというわけではないだろうが
「本当は、浄化はしちゃダメなんだけどね」
浄化や葬礼は、マイス僧院の収入源である。貧乏人の墓所である骸山で無償で浄化活動をしては商売あがったり、もしくは寄進をしてくれる貴族層、富裕層の人間に申し訳が立たぬということで禁止されていた。
一年ほど前までは、リィフの最初の師にあたるタリアという名の尼僧が「寄進しないと浄化しないってのはそもそもおかしい」「骸山の浄化をしないおかげで、治安と衛生が悪化してる」とマイス僧院の院長ノインとやり合い、タリアの無償奉仕を飲ませたのだが、タリアの死をきっかけに再び全面禁止となっていた。
マイス僧院の古老であったタリアとは違い、小僧であるリィフに影響力はない。
今の指導僧に「なんとか浄化を続けさせて欲しい」と訴えたことはあるものの、「生意気なことをぬかすな」と罵倒され、殴り倒されただけだった。
そのあたりを読んでいたタリアは自分を骸山に埋葬するよう言い残し、「すきを見て、墓参りのついでにこっそり浄化を続けておくれ」とリィフに言い残して行った。
それに従ったリィフは、折に触れてここを訪れ、祈りと浄化を続けていた。
( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)
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次回の更新は10/11 7時を予定しておりますがかなり短くなります。
10時には第六回の更新を入れますので、あえて早起きをすることもないかと存じます。
それでは。




