聖槍を向けられました。
( ゜ー゜)テケテケ(サブタイトルの付け方を変更しました。主人公パートの場合のみ「僧侶リィフ」をなくしてタイトルを付けています。その他のキャラクターの場合は引き続き名前のみです)
僧兵たちを引き連れた副僧院長シンは複雑な模様が浮かび上がった、華麗な十字槍を携えていた。
聖槍、飛鳥。
儀礼の場などで、リィフも遠目に見たことがあった。
マイス僧院の創始者である聖者エーデインが振るったという名槍だ。
その穂先を突き出し、シンは怒鳴り声をあげた。
「その場に跪け!」
<良い加減にして欲しいんじゃが、このイキリ面は>
ルルスファルドは疲れたようにため息をつく。
テケテケの時のような緊張感は皆無である。
「一体、何の御用でしょうか」
「勝手に口を開くな!」
シンの取り巻きの僧侶が吼える。
リィフは静かな調子でそれに応じた。
「私はリトルバード地方の領主を任を拝命し、マイス僧院の僧籍を解かれています。マイス僧院のしきたりに従う謂われはありません。任地に向かう道中とはいえ、一地方の領主に指図できる立場の方が、この場にいらっしゃるのですか?」
意識して毅然とした態度を取った。
内心ではだいぶ緊張しているが、領主になるのなら、これくらいのことは言えなければどうしようもない。
大喝した結果、逆に非礼をとがめられた僧侶は、「だ、黙れっ!」と言って抜き身の槍を構えた。
<テケテケを出せ。抜き身を出したんじゃ、首をはねても良かろう>
――少し待って。
そこまで血なまぐさいことはさせたくない。
唸っている僧侶には構わず、リィフは再度シンに目を向ける。
「何の御用でしょうか。ご存じの通り、私は兄ジュノーよりリトルバード地方の領主に任命され、任地に向かうところです。その道中を阻もうというのですか?」
まぁ、仮にジュノーに訴えても、マイス僧院がとがめられることはないと思うが、それでも「一体何をやっているんだ」という話になるのは間違いないだろう。
「己の胸に聞くがいい」
シンは手にした聖槍に魔力を込めた。
十字の穂先が光を放ち、大剣のような光刃と、二本の副光刃を備えた光の槍となる。
「ベリスに勝ったそうだな。一体、何をした」
「立ち会いをしただけです。全力で」
「ほざくな!」
聖槍を構え、シンは大喝した。
「貴様ごときの全力が、ベリスに及ぶものか! おまえは魔性の者と取引をした、魔道の力を用いたのだ! そうしてベリスを倒し、侯爵様を呪詛した!」
<微妙に正解しておる>
『闇の賢者』ルルスファルドはくふふと笑う。
――そうだね。
とはいえ、シンがイメージしている魔性の者というのは、ルルスファルドとはまた別のものだろう。
悪魔、魔王、あるいは魔羅とか言われる、もっと宗教的な悪のことだろう。
実際にその魔性の者ルルスファルドがリィフの側に浮かんでいるのに気付いている様子はなかった。
「この聖槍で化けの皮を剥がれたくなければ、跪いて罪を告白しろ」
<魔女狩りめいて来たのう>
ルルスファルドはため息をつく
<きっと聖槍で突いて死んだら魔道をやっておったせい、死ななかったら魔道の力とか言う奴じゃ。儂は詳しいんじゃ>
ひどい横暴な話だが、実際、それくらいの了見だろう。
素直に認めたら、おそらく私刑を受ける。
認めなければ、暴力で「魔道をやっていた」と告白させるつもりだろう。
リィフは印を組み、地天呪を唱えた。
namaḥ samanta-buddhānāṃ pṛthiviye svāhā(ナマハ サマンタブッダーナーン プリティヴィイェー スヴァーハー)
清冽な気配が生じ、シンたちをまとめて飲み込む。
ズミノ一味のように落ち着いてくれればと思ったのだが、
「なにをした!」
「魔道だ!」
「正体を現したぞ!」
――だめみたい。
十人ほどは我に返ったように槍を降ろしてくれたが、大半は殺気だったままだ。
<己を顧みる心がない連中にはあんなものじゃ。多少なりとも効いたものがおるだけましじゃ>
ズミノ一味より善性の芽がないものが多いようだ。
マイス僧院の正義に支配されている、というのもあるかも知れないが、複雑な気分になった。
そんな中。
聖槍を構えていたシンが、ゆっくりと穂先を降ろしはじめるのが見えた。
( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)
次回は昼更新の予定です。
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