僧侶達を打ち据えました。
( ゜ー゜)テケテケ (更新でございます)
「大丈夫だ」
シンが折れた槍を降ろすと、青年僧たちはリィフに向き直る。
「貴様、副僧院長に怪我をさせるとは!」
「その腐った性根をたたき直してやる」
「活!」
一方的に糾弾の言葉を並べ立て、木槍を手にリィフを取り囲む。
――怪我?
シンの様子を見ると、顔にちょっとした擦り傷が見えた。
破裂した木槍のかけらが当たったのかも知れない。
――あれのことかな。
<単に加勢をする口実が欲しかったのじゃろうな。あのままでは副僧院長殿の面目が危うい。それを見過ごしてはこやつらのおぼえも悪くなる。もう良いのではないか? これ以上、こやつらの面子を立てても得るものはあるまい>
――うん。
できることなら円満に僧院を離れたいと思ったが、この状況では難しそうだ。
シンとその取り巻き達が望む結末は、いつものようにリィフを突き転がしてたたきのめすことだけだ。
やられたふりもよくないだろう。
この勢いだと大けがをさせられそうだ。
「やめましょう。無益な闘争はしたくありません」
もう槍の稽古ですらない。
シンとその取り巻き達の体面のための私刑に過ぎない。
戻ってきたのは、大喝だった。
「勝手に口を開くな小僧っ!」
ここまで来たら、おとなしくしていても仕方がない。
怒鳴り声をあげて槍を繰り出してきた青年僧のみぞおちに、木槍の穂先をたたき込み悶絶させた。
「き、貴様っ! 手向かうつもりかっ!」
上段から槍を振り下ろしてきた二人目の頭を一撃して沈める。
そこでようやく、身の危険に気付いたようだ。
残る三人の僧侶たちが息を呑んで動きを止めた。
例の青年僧が、甲高い声で叫んだ。
「な、なにを見ている! 乱心者だ! 全員で取り押さえろっ!」
指示の相手はマイス僧院の一般僧侶たちだ。
怒鳴りつけられた僧侶達も、木槍を構えはじめる。
<大騒ぎじゃな>
ルルスファルドは面白がるような調子で言った。
その時。
「そこまでにしておきなさい」
妖しげな声がそう告げた。
声の主は、ひとり縁側に座っていた二人目の副僧院長ベリス。
その一言で、僧侶達は凍り付いたように動きを止める。
ベリスは木槍を担いで縁側を降り、庭に足を踏み出す。
「今のリィフが相手じゃ、私以外全滅よ。あんたたちの面子どころか僧院自体が消し飛ぶことになる」
「で、ですが、リィフは先輩僧に手向かいを……!」
青年僧がそう応じた刹那。
ベリスの木槍が閃いた。
顔面への一撃。
顎骨が砕ける音とともに青年僧は吹き飛び、地面に転がった。
「『はい』か『いいえ』でしょ? それ以外の言葉を貴方に許した覚えはないわ」
ぞっとするような表情で微笑んだベリスは、タンポの先に僧侶の歯が一本くっついた木槍を小脇に抱え、ぱんぱんと手を打った。
「じゃあ、今日の稽古はここまで。朝餉の支度にかかってちょうだい。わかってると思うけど、リィフくんは残ってね」
「はい」
一番逃げたい相手が動き出してしまったが、『神槍紋』を封印して逃げられる相手ではないだろう。
おとなしくしているしかなさそうだった。
ベリスの号令を受け、僧侶達は僧堂に戻って行く。
シンとその取り巻きたちはその場に残りたそうな雰囲気だったが、「先に戻っていてちょうだい」と告げたベリスには逆らえず、引き上げていった。
マイス僧院の庭にはリィフとベリス、ルルスファルドだけが残った。
「なにがあったかわからないけれど、一皮剥けちゃったみたいね」
リィフに向き直ったベリスは、楽しげに微笑んで言った。
「はい」
『はい』と言い切ってしまうのはどうかとも思うが『いいえ』よりは近いだろう。
「普通にしゃべっていいわよ。許すわ」
「ありがとうございます」
『はい』『いいえ』だけのほうが対応しやすかった気もするが。
「なにがあったのか、教えてもらってもいい?」
「それについては侯爵様より口外を禁止されています。お許しください」
ジュノーの「口外するな」という言葉を利用した。
実際に口止めされたのはルルスファルドとその紋章についてのことだが、『神槍紋』についても話がつながるので、嘘とは言えないだろう。
「ちょっと嘘っぽい気がするけれど、まぁいいわ」
ベリスは妖しく笑って言うと、すっと木槍を構えた。
「最後に、もう一度立ち会ってもらえるかしら。全力で撃ち込んできて」
「わかりました」
リィフは小さくうなずいた。
副僧院長ベリスは、『天槍』の二つ名を持つ槍の使い手だ。
紋章は持っていないが上位の紋章持ちの戦士に匹敵する実力の持ち主として名を馳せている。
今の自分がどこまでやれるかを知るには、またとない相手だろう。
色々な意味で怖い存在ではあるが。
「じゃあ、早速はじめましょうか」
ベリスは呼吸を整える。
ただそれだけで、ずんと空気が重くなるのを感じた。
導引法。
呼吸と共に身体に魔力を行き渡らせることで、膂力や反射速度、防御力など高める。
ベリスはこの技術の天才であり、この技術だけで紋章の有無をひっくり返してみせる。
<ただの変態坊主ではないようじゃな>
――うん。
リィフが知る限りにおいて、最強の戦士だ。
ベリスの身体が、すいと動いた。
ゆったりした動き出しから、稲妻の速度へ加速し、突きを繰り出す。
雷霆、などとも言われ恐れられたその一撃を、リィフはぎりぎりのところで受けとめ、流した。
槍術の指導の時とは、速度も威力も別物。
シンや一般僧の槍さばきとは、比較にもならない。
本気で振るえば、木槍だろうと簡単に相手を殺めてしまうということで普段はかなり力を抜いているのだが、少し本気を出してきたようだ。
あくまでも、少し。
豪雨の中、橋の上に立ち往生をしている老婆を助けるため、押し寄せる土石流を木の棒の一突きで静止させたのを見たことがある。
それに比べれば、まだ加減をしているようだ。
背筋がぞっとするのを感じながら、リィフは木槍を構え直した。
ベリスと同じ、基本の中段の構え。
ベリスはたたみかけるように襲いかかって来る。
初撃が稲妻とすれば、今度は吹雪を思わせる分厚い連撃。
並の使い手では目視することも困難な猛攻を、リィフは精密な身のこなしでかわし、受け流して行った。
流麗、熾烈な神速の猛攻。
それを受け流す自分の動きも、神技の域に達しつつあることに、リィフはまだ気付いていなかった。
( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)
次回は昼更新の予定です。
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