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僧院育ちの少年は『神槍紋』『転生賢者紋』を得てぐぅ聖オバケになりました。  作者:
化けて出る転生賢者

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姪が殺されました。

( ゜ー゜)テケテケ(本日二度目でございます)

「埋めよ」


 ジュノーがそう告げると、マールゥト侯爵家の従僕達がスコップを使い、古井戸を埋め始めた。


「ま、待って!」


 なにが起きているか。

 なにがどうなっているのか。

 なにもわからない。

 だが、ひどいことが、どうしようもないほどひどいことが行われていることだけは間違いない。


「待ってください!」


 制止の声を上げたが、従僕達は反応しない。

 その代わりに、ジュノーの目がリィフの姿を見据えた。

 黙れといっているように感じた。

 リィフはおとなしい少年である。

 一瞥されただけでいろいろなものが縮み上がるが、それでも、首を横に振った。


「いけません……どうして、そんな、ひどいことを」


 ジュノーは無言だった。

 黙れと繰り返すように、リィフの姿を見据え続ける。

 リィフはジュノーから視線を外し、部屋に引っ込んだ。

 ジュノーの迫力に負けて引っ込んだように見える。

 事実としてかなり負けていたが、引き下がっていい場面ではなかった。

 転がるように部屋を出たリィフは廊下を走り抜け、裏庭へと飛び出す。

 屋敷に戻ろうとしていたジュノーと鉢合わせする格好で顔を合わせた。

 

「なんのつもりだ」


 ようやくジュノーは口を開いた。


「それは、愚僧がおうかがいしたいことです。どうして、こんな、ひどいことを」


 埋まれたばかりの赤子を、実の親が古井戸に投げ落として殺す。

 どんな事情があれ、あっていいことではないはずだ。

 ジュノーはまた、リィフを睨んだ。

 足がすくむのを感じつつ、リィフは兄の目を見返した。

 どれだけの間、そうしていただろうか、ジュノーは重い口を開いた。


「『邪黒紋』だ」

「じゃこくもん?」


 紋章の名前のようだが、初めて耳にする。


「いにしえの昔、世界を脅かした闇の賢者が持っていた紋章だそうだ。長ずれば世を脅かす者になりかない。そうなる前に、父である私自らの手で災いの芽を摘んだ。小僧の貴様ごときにとがめられる筋合いはない」


 ジュノーはリィフの目をまっすぐに見たまま言った。

 罪悪感を覚えている様子はない。

 正しいことをしているという信念が半分、所有物である子供の生命をどうしようが自由、という感覚が半分だろうか。


 ――だからと言って。


 もっと他のやりようだって考えられたはずだ。

 こんなに簡単に出していい結論ではなかったはずだ。

 

 ――だからと言って……。


 大声で叫びたくなるのを、胸の中で押し殺した。

 わめいたところで、なにも変わりはしない。

 リィフは僧侶。神々の慈悲や教えを説き、衆生しゅじょうを悪や病苦など守護するのが役目だ。

 だが、リィフが所属しているマイス僧院というのはマールゥト侯爵家の下部組織である。

 マールゥト侯爵家の当主ジュノーに道義を説くなど、神や聖者に道義を説くようなもの。

 本来なら、リィフのような小僧が当主ジュノーに許しなく口をきくことすら非礼とされているほどだ。


「差し出たことを、申し上げました」


 リィフはジュノーに頭を下げる。

 ここで事を荒立て、ジュノーを非難しても意味はない。

 ここでやるべきこと、やれることは、それとは別にある。


「ですが、生まれて間もない赤ん坊を涸れ井戸に埋め捨て置くのは不憫に思います。僭越ではありますが、愚僧に弔いのお許しをいただきたく存じます」

「……良かろう」


 ジュノーは興味なさげに言った。


「だが、マールゥト家の墓所に埋葬することはまかりならん。無縁の水子として骸山に捨てよ。此度の一件について、一切の口外を禁ずる」

「ありがとうございます。誓って口外いたしません」


 このあたりは、やむをえないところだろう。

 闇の賢者とやらがどういうものなのかはよく知らないが、生まれたばかりの赤子を投げ殺してまで葬ろうとした紋章を侯爵家の墓所に埋められるはずもない。

 合掌し、改めて頭を下げたリィフに、ジュノーは「貴様を呼びだした件だが」と言った。


「還俗し、リトルバード地方の領主をしてもらう。仔細についてはマイス寺院のほうに通達しておく。あれの骸を掘り出したら帰るがいい」


 一方的にそう言うと、ジュノーは屋敷へと戻って行った。

 涸れ井戸を埋めていた従僕達も、リィフを残して消えていく。

 涙がにじんた目元を拭ったリィフは、ひとりで古井戸の中に入った。

 帰りかけていた従僕のひとりから借り受けたスコップを使い、井戸に盛られた土を取りのぞいていく。

 埋められてしまった赤子を傷つけてしまわないように気をつけながら、けれど、少しでも早く。

 汗まみれ、泥まみれになりながら、リィフは土を取り除いていく。

 古井戸の底が近づいてきたところで、スコップを手放す。

 土の上に膝をつき、そっと土を取り除いていく。

 やがて、小さな手が見えた。

 胸が潰れそうになりながら、リィフは土を取り除き、姪になるはずだった赤子を抱き上げた。

 死んでいる。

 呼吸も、鼓動もない。

 産湯につからせた時に感じた体温も、ほとんど感じられなかった。

 最初から、弔うつもりだった。

 生きていると思っていたわけではない。

 それでも、どうしようもなく悲しくなった。

 血と泥にまみれた赤子を抱いて、リィフは声を殺し、ぼろぼろと涙を流して泣いた。

 そして、

 どこからか、声が聞こえた。


<……そう泣くでない。叔父御おじご殿>


 音ではなく、直接心に伝わるような声。

 リィフはかき抱いた赤子を見た。

( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)


「面白そうだ」「読み続けてみよう」と感じて頂けましたら

『ブックマーク』のところや、その下の☆☆☆☆☆の評価部分をテケテケと叩いて頂けると執筆者の情熱の焔が高く燃え上がるかと存じます。


本日はあと1回の更新を予定しております。

おそらくは23時前後かと。

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