闇の賢者ルルスファルド(2)
( ゜ー゜)テケテケ (更新でございます)
――長い一日じゃったな
眠りについたリィフの寝顔を眺めつつ、闇の賢者ルルスファルドは微苦笑をした。
闇の賢者ルルスファルドは、強力な精神生命体である。
転生を繰り返して時の権力者や有力者に干渉、刺激を与えることで魔法や科学を発展させ、今日に続く文明を築かせてきた。
ある種の宗教に伝わる『知恵の果実』を喰った女、あるいは『知恵の果実』を喰えと女をそそのかした蛇というのは、ルルスファルドのことである。
権力者に繁栄と破滅をもたらす大妖狐、などと呼ばれたこともある。
数千年にわたり、数十度に渡る転生を繰り返してきたルルスファルドだが、生後数時間で投げ殺されたのは最短記録である。
親に恵まれなかったと言わざるを得ないが、代わりに面白い存在に出会うことができた。
『神槍紋』を持つ少年。
長く転生を繰り返してきたルルスファルドから見ても、まれに見る力を持った神紋の持ち主であり、そして風変わりな魂の持ち主だ。
――結局、怒ったのは一度だけか。
ルルスファルドを投げ殺され、島流しも同然の土地の領主の任を押しつけられ、イキり腐った僧どもに殴られ鞭打たれ罵倒されたリィフが怒り、涙を流したのは、殺されたルルスファルドのためだけだ。
自分を打ち据えた僧侶達に対しては、まるで怒りを示さなかった。
――尋常ではないな。
リィフが怒ったのは、『神槍紋』の存在を認識する前だ。
怒りというのは選択的な感情だ。
自己の生存、あるいはプライドなどの自我を保護するために脳内物資を分泌し、攻撃性を高める。
それが不合理である場合、相手が強大な権力者や、より強大な生物である場合。怒りを示すことが危険をもたらす場合には、選択肢より除外されるのが一般的である。
だが、リィフが怒った相手は、最も危険な権力者である侯爵ジュノーだった。
その気になればまとめてたためた僧侶達や、副院長、僧院長達に対しては、静かな態度を保っていた。
大剣をふるって襲いかかってきた紋章喰らいに対しても慈悲を示した。
他者の為にしか、ルルスファルドの為にしか怒らなかった。
――いささかぐぅ聖に過ぎる気もするが。
もう少しばかり攻撃的でないと、生きていくのも大変だろう。
誰かに一方的に利用されるようなことにもなりかねない。
――まぁ、儂に言えたことでもないのじゃが。
ルルスファルドはリィフの善性によって、リィフの身体に取り憑く形で、現世にとどまっている。
一方的ではないが、利用しているともいえる。
そんなことを思いつつ、ルルスファルドはリィフの『神槍紋』を検分していく。
――ふむ。
『神槍紋』の上には、『神槍紋』を封じていた不可視の紋章の残滓のようなものが残っている。
それをつまみ、ひっぱって取り除いたルルスファルドは、そこで眉根を寄せた。
――思っていたより悪質じゃな。
ただ『神槍紋』の力を押さえるだけの封印ではないようだ。
ルルスファルドはふっと目を細め、息をつく。
腹の中で湧き上がった感情を、そっと吐き出すように。
――こんなものを仕掛けられて、良く今日まで、生き延びてくれていたものじゃ。
いい子いい子をするように、闇の賢者は少年僧の額に触れる。
親愛の情のこもった表情は、しかしすぐ、冷たいものに代わる。
麗しい。だが、見るものが見れば気を失いかねないほどの妖気と凄絶さを帯びた表情に。
リィフに預けた『転生賢者紋』を励起し、その魔力で『神槍紋』を封印していく。
以前の封印とは違い『神槍紋』の力を押さえるためだけのものだ。
作業が済んだのは、午前二時ほど。
――丑三つ時か。
土地によっては草木も眠る、などとも言われる時間帯。
リィフはよく眠っている。
――祟り時じゃな。
リィフのおかげでだいぶ収まっていた腹の虫が『神槍紋』のおかしな封印のせいでまた騒ぎ出した。
――ひと祟りするとしよう。
リィフの右手に移ったばかりの『転生賢者紋』はまだ本調子ではないが、ジュノーに軽く祟る程度ならば、充分にこなせるだろう。
そうして、ルルスファルドはリィフのもとから姿を消した。
( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)
次回は夜更新の予定です。
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