第三話 説明
少しの間を置き、禍凜さんが口を開いた。
「順を追って説明させていただきますね!まず、助けを求めるまで至った経緯から」
「分かった。」
俺は、ゴクリと唾を飲む
「まず、貴方は知らなくて当然ですが、この世界には2つの側面が存在します、まず1つ目は貴方が普段暮らしている、人間界。」
「うん。」
俺は相槌を打つ
「そして2つ目、獄界と呼ばれる、主に妖怪が住む世界。」
「ちなみに、ワシもそこ出身じゃぞ」
「あれ、じゃあ蛇神さんも妖怪なんですか?」
少しの沈黙が続き、蛇神が口を開いた。
「もう今となっては古い昔のことじゃ」
そう言う蛇神の瞳は、少し悲しそうに見えた。
聞いてはまずい事だったろうか。
「続けますね、この人間界と極界と言うのは、似て非なる世界、まったくの別物なので基本交わることはあり得ません…ところが今!そのバランスが崩れかけているのです!」
「ふーん…でもそれって何か問題があるの?」
「大問題じゃ」
「大問題です。」
二人から同時に言われる、何が問題なのか考えていると、禍凜さんが続きを話してくれた。
「2つの世界のバランスが崩れてしまうと、人間界に妖怪が流れ込んできてしまい…最悪、世界は終わります。」
「めっちゃ大問題じゃん!!」
「だからそう言っておるじゃろう」
呆れたように蛇神に言われてしまった。
「それでは次に、具体的に何をやって欲しいのかをお話しさせていただきます。今現在も、2つの世界の間に小さな綻びが生じており、小さな低級妖怪などがこちらの世界に迷い込んできております…低級妖怪は放置しておくと人間の気を吸って成長します、間違いなくこの世界の脅威になるので、これらの退治をお願いしたいのです。」
「要は妖怪退治じゃな」
「…はい?」
妖怪退治をしろと言われても
運動もそこそこ出来るくらいで勇気も無く、なんなら仕事もない俺に…?
「いやいや、む…
「無理とはいわせんぞ」
断ろうとしたところ、蛇神に睨まれてしまった、軽くビビる。
「…だいたい、その話全部本当なのかよ、妖怪なんて見た事ないし」
「ワシと禍凜を見た上で言うか……まぁ、見た事なくても当然じゃ、妖怪から姿を見せようとせん限りは普通見えんからな」
「見えないってんならどうしろってんだ!」
あまりにも無茶なことを言われ、つい叫んでしまった。
「そこは心配せずとも良い、特殊な術をかけて見えるようにするのでな」
そうは言われようともまだ不安な所は残っている。俺はそっちについても聞かないと不安感が拭えない。
「退治ってのはどうしたら良いんだ、俺は運動だって出来ないし、頭もそれほど良くないぞ」
「そこも大丈夫じゃ、術式と共に武器も授ける。」
そう言うと、蛇神は禍凜さんに目で合図を送るような素振りを見せた。
すると、禍凜さんは、待ってましたと言わんばかりに少しだけ得意げな顔になり、どこかから、小さめのダガーナイフのような、青白く発光する刃物を取り出すと、俺に差し出した。
「どうぞ、こちらです。」
「ありがとう…これは?見たところ普通のナイフのようだけど…」
触ってみるも、発光してるところ以外は変わった所は特にない。
「それはな、少し特殊な素材で出来ておっての、所有者の想いをエネルギーに色々な形に変形するのじゃ」
「へぇ〜……よし、変われ!」
俺は強く念じてみるも、特に変化は起きなかった。
疑う目で白蛇を見ると
「あのな…まだ所有者ではないし、そんな中途半端な心で変化など起きるわけないじゃろう」
と、返されてしまった。
「さて、これで貴様が言う武器も用意した、もう断る理由もないな?」
「まてまてまて!…命の保証とかは?」
俺は一番気になっていたことを、恐る恐る聞いてみた。
「ない!」
キッパリと言われてしまった。
「…じゃが、禍凜がある程度サポートはしてくれるから命までは取られん…とは思う」
「せめてそこは力強く言って欲しかったかな…」
さて、俺は悩んだ。
命の保証はあまりされてないようではあるが、妖怪退治と言う非現実、世界を救うと言う、空想めいた出来事に、俺は少し心を惹かれていたのだ。
なにより、ここまでされてしまっては断りにくい。
俺は…俺は、決心した。
「…わかった、やるよ、その役、俺にやらせて欲しい」
そう言って、二人の顔を交互に見る
二人とも結構驚いた様子であったが、すぐにいつもの顔に戻った。
「そうか、やってくれるか」
「とても助かります!…ありがとうございます」
ここまで感謝されたからには、いよいよ後には引き返せない。
「ああ、やる、だからとりあえず術式と、あとその武器、渡して欲しい」
「うむ、良いぞ、目を瞑ってそこに立て」
言われた通りにする。
すると突然、頭の中をいじられてるような、むず痒いような感じがする、少し苦しくて、息が漏れた。
「…よし、おしまいじゃ」
「もう終わったのか?」
「あぁ、戦闘になったら発動すると思うぞ」
子供の時に捨てたワクワクが、少し帰ってきたような気分になってテンションが上がってしまう。
「まだ朝早くじゃから低級妖怪共も身を隠しておるじゃろう、1度家に帰って休憩してくるが良い、また夜にここに来てくれ」
「お待ちしております!」
禍凜さんがペコり、と頭を下げる。
「ああ、分かった、それじゃあまた夜に」
それだけ言って、俺は公園の出口に向かった。
公園の出口で1度振り向いたら、もう蛇神も禍凜さんも見えず、ただ祠があるだけだった。
「しっかし、妖怪退治なんて未だに信じれないな…」
帰り道を歩きながら今日の出来事を思い返す。
何度思い返しても夢のような出来事だ、試しにほっぺをつねってみるも普通に痛みを感じた。
「ま、やれるだけやってみるか!」
なるべく前向きに考える事にした
こうして、27歳にして大きな転換点を迎えた俺のヘンテコな人生は動き出した。
更新ペースが少し遅れます。