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第6話 騎士団長の息子

結局、1週間たった。モチベむずい

 さて、今日も今日とてギル様と一緒に勉強をしていた。頑張っているが、ギル様が振り向く気配がない。

 もっと、策を模索しないとな。


『ギル様少しいいですか?』

『?、なんだ?』


 読んでいた本から目線を上げて、こちらに向き合ってくれる。輝かしい金色の髪が、揺れ動き、覗いた碧眼が私を捉えていた。

 その目に、心が乗っていないのは、よく分かる。


『ギル様は、こうして一緒に勉強しない時は、剣の稽古をしているとお聞きしましたが、今度ご一緒してもよろしいでしょうか?』

『ん?剣を振りたいのか?だとしたら、ヒールのお爺さん、ルッペン侯爵に頼んだ方が安全なんじゃないか?』


 私のお母様のお父様である、ルッペン侯爵。数十年前の戦でも、功績を残し、騎士の中でも憧れる人は多いと聞く。今でも、ルッペン家の直属の騎士なんかには、稽古を付けていると聞くので、確かに、剣を振るのなら、そっちの方が効率的だろう。けれど、私がしたいのは、そういうことではない。


『いえ、ギル様が剣を振るっている姿を見てみたいのです。普段、勉学に励むお姿も素敵ですが、汗を流しながら、真剣に打ち込むお姿も、また、違った魅力があると耳にしたので。』

『そういうことか。』

『お邪魔で無ければ、ご一緒したいのですが、駄目でしょうか?』


 ギル様は、私が見にくる事、自体にはあまり興味がなさそうだが、思案はしてくれているようだ。


『事前に伝えておけば、大丈夫じゃないか?見学がいけない決まりはなかったはずだ。私からアルガスト伯爵に掛け合っておこう。』

『本当ですか?ありがとうございます。』


 私は、満面の笑みで御礼を返した。それを見てギル様は、少したじろいだように見えたが、すぐにいつもの顔に戻った。不意を突くというか、私もあまり意識していなかった時に、こういった反応を見せてくれる時が偶にあるのだが、私に心を許してくれている雰囲気も無く、まして好かれているようには、やはりあまり見えない。

 好かれる為の作戦を立てる為に、別のギル様を見る事で探っていこうと思っていた。

 けれど、特に好いてもいないはずの私の我儘を、嫌がりも断る素振りもせず、わざわざ近衛隊長のアルガスト伯爵に掛け合ってくれるというあたり、優しい人なんだろうなと思うと、私の中の好感度が上がった。

 ギル様の中の私の好感度を上げたいというのに、皇子様らしいところを魅せつけられてしまった。

 ギル様が私をもっと好意的に見てくれているとわかれば、私ももっと歩み寄っても良い人かなと思えるんだが、私には悪役令嬢の疑惑がある。いずれ本物のヒロインに奪われる可能性があるのなら、私だけが一方的に近づくのは、怖さを感じる部分がある。

 現状周りからは、私たちは仲睦まじく見られているのだ。その間に、本当に仲睦まじくなれる方法を考えよう。







 そして、ギル様はきちんと話を通してくれて、数日後には、剣の稽古見学の許可が出たと教えてくれて、次の稽古の時に見学させてもらうことになった。


『本日は許可をいただきありがとうございます、アルガスト伯爵。』

『いや、人に見られているというだけで、集中を切らすようでは駄目だ。偶にはこういった環境も悪くはないだろう。だから、気にすることはない。』

『うふふ、お心遣いありがとうございます。』


 そんな会話の先では、ギル様や騎士団長の息子のリンゼン様、今日はマブルも混ざりギル様付きの近衛騎士に剣術を習っていた。

 しばらく、3人に注視して観察を続けるとわかったことがある。

 リンゼン様は騎士団長の息子というだけあって、素振りなど剣の振りは完璧のようだ。リンゼン様もギル様と年齢が同じであり、見た限り剣の腕も高い。将来的には、お父様を継いで騎士団長になる可能性は充分にあるとするなら、ここでギル様と一緒に稽古しているのは、地盤作りの為なんだろう。普段は、軍の練習などにも参加しているのだろう。

 逆にギル様は、私と勉強をしたり多彩な分。まだ、粗を感じる。自然に動いているようにも見えるが、剣を振り下ろした後、戻す時に変に手首を回し勢いを付けているように見える。そのほうが楽なのかもしれないが、動作としては、少し遅れてしまっているようにも見える。

 まぁ、素人の目から見て感じただけなので、正しいかはわからないが。


 見学しながら、そんなことを考察していると、一段落ついたのか、ギル様達がこちらにやってきた。


『お疲れ様でした。今日はこれで終了ですか?』

『いや、休憩をしながら反省会をして、それに合わせて練習を積んだら終了だ。』

『わかりました。引き続き頑張ってください。』

 ギル様と、簡単な会話を交えていると、リンゼン様も声をかけてくれた。リンゼン様は、ショートの黒髪に黒目が特徴的で、少し鋭い目が凛々しくカッコいいという雰囲気を持つ少年だ。


『話し中ですまないが、ヒーラン殿はずっと立ちっぱなしで大丈夫か?疲れたろう。椅子を用意させる。』

『え?あー、そうなんですが、ギル様達が稽古に励まれているのに、私だけ悠々と座っているのは、なんだか申し訳無く思ったので。』


 まぁ、私が勝手に来て見てるだけなのに、ここに椅子がないからって、王宮に用意させて、座って見学とか、ギル様からの見栄えは悪いかなってか、こうやって見てた方が健気に見えるかなとか、打算で動いた部分はあった。

 けど、でもな

『ギル様の勉強している時の姿も良いですが、真剣に剣を振って汗をかいてる姿も新鮮でしたわ。それに、皆さんそれぞれに癖があって見てて面白かったです。なので、見入ってしまいましたわ。』


 ここが本音だ。ギル様の勉強の時と異なり、真剣にやっていても、少し生き生きとした雰囲気を感じ、楽しげな表情はあまり見ていなかった気がした。仲良くなりたいのなら、時間を共有するだけで無く、どう過ごして共有するかも、大事なのかもしれない。チャンスがあればもっと時間を増やせるようにしようと思った。


『そうか。だとしても、疲れてるんじゃないか?』

 新たに気持ちを整理していると、リンゼン様は心配そうに更に声をかけてくれていた。

 私の足は少し笑い始めている。普段立ち続けることも、少ないので限界が来ているようだ。


『たしかに、意識してみると限界見たいですね。御心配おかけしてすいません。』


 これは、少し情けない姿を見せてしまったようだ。失敗したな。

『近くにテーブルと椅子が備え付けられている場所があった。そちらまで、案内しよう。休憩の間だけでも足を休めた方が良い。』

『ありがとうございます。リンゼン様。』


 リンゼン様は私の手を取ると、ひょいと、私を持ち上げた。背と足を軸に持ち上げられ、そのまま歩き始めてしまう、リンゼン様。

『え、あ、まだ、自分で歩くくらいは出来ますよう。』

『だとしても、女性が無理をするもんじゃない。そう遠くない距離だ。気にするな。』


 流石、騎士団長の息子といったところだろうか? 騎士らしい、紳士的な配慮に、私が立ち尽くしていたことに気づく観察眼。騎士として、将来有望といっても過言ではないだろう。ただ、だからといって、無遠慮に女性を持ち上げるのは、良いものなのか。悩ましいところだ。



 私は、庭園に備え付けられた椅子に腰掛けた。まぁ、あんな運ばれ方をしてしまったので、ギル様やマブルも付いてきていた。4人でテーブルを囲うように席に着いた。


『すまないな、ギル。君の婚約者という事を忘れていた。あのままにしておくのは良くないと思ってな。無意識に動いてしまった。』

『いや、気づかなかった僕が悪かったよ。ヒールもごめんね。』

『いえ、私の方こそすいません。体調管理を怠ったのは、私のミスです。』


 リンゼン様に要らぬ面倒をかけてしまった上に、婚約者であるギル様の前であんな事をさせてしまったのは、ギル様に対しても良くなかった。私としては、結構な失敗をしてしまったものだ。

 リンゼン様も紳士的で真っ当なんだろうが、そういった部分ではまだまだ配慮が足りていないようだ。まぁ、口には出さないが。

 さて、この空気をどうしようかと思っていると、マブルが口を開いてくれた。


『そういや、姉さん。話は変わるんだけどさ、さっきみんなを見てて面白かったっていってたけど、何が面白かったの?』


 良くやったマブル。話題を綺麗に変えてくれた。これなら、私が答えれば良いだけだ。


『ええ、同じことをしていても、3人ともそれぞれ違った特徴があって面白かったわ。リンゼン様は流石ですわ。昔から剣の稽古は行なっているのでしょうか?』

『ああ、そうだな。素振りや型は、小さい頃から父上に聞いて教わっていたな。』

『その成果が出ていて、一つ一つの動作が洗練されていて、無駄がありませんでした。』

『そうか、ありがとう。』

『ギル様は、そういった観点でみると、剣を振って戻す時、手首をひねる癖がありましたわ。あれは、怪我にもつながりそうだし、動作も少し遅れるので、直した方が良いのではないかと思ったんですが。』

『良く見てるね。度々、注意されてはいるんだけど、意識していないと、忘れることがあって困ってるんだ。』

『そうだったんですね。それでしたら、素振りの間だけは、手首を何かしらで固定するなど、無意識に捻ろうとした時に気づける工夫をしておくと良いのではないでしょうか?』

『なるほどね。試してみるよ。』

『素人言葉でも、聞き入れていただきありがとうございます。あ、でも、模擬戦はかっこよかったです。相手の動きをよく見て把握して動いていて、剣さばきは流石でした。その部分をみると、リンゼン様は型や基本に忠実すぎて、反応に遅れがあるように感じましたね。自分に合った動きもあると思うので、基本を参考にしつつ、自分らしい動き方も考えてもいいのではないでしょうか?』

『そうか、参考にさせてもらおう。』


 結構、好き勝手言ってしまったが良かったのだろうか?流れ的に何か言わないとと思ってそのまま話してしまったが、実際に剣を振ってもいない私が、見た感想から軽々しく言葉にしてしまうのは、結構余計なお世話だったんじゃないだろうか?

 2人とも、好意的に受け止めた反応をしてくれたが、良くなかったかもしれない。

 今日は少し失敗続きな気がする。慣れない事をしたせいかもしれないが、次期王妃がこんなことではダメだ。将来どうかはわからないが現状はそうなのだ。慣れないことでも、そつなくこなせるよう、努力しよう。


『姉さん。僕にも何かある?』

『聞きたいの?』

『え?なにそれ??』


 2人への意見しか話さなかったからか、マブルが自分にもとか言い出した。まじか、あれで聞きたいのか。ふむ。


『マブルは、聞いていた通り運動は苦手なのね。体の動かす動作の一つ一つが独立してるみたいで、バラバラなのよね。無駄な動作が多い分、素振りとかも2人に比べて遅いし、模擬戦は考えに体がついて言ってない感じかな?まぁ、貴方の長所は頭だからね。戦略や戦い方を考えるために、習ってるって思えば及第点じゃないかしら?』

『辛辣過ぎない。僕のだけ?』

『みんな、思った事を素直に言っただけよ。』

『尚更、ひどいよ!』


 聞いたから、正直に答えただけなのに、文句を言うとは、そちらこそ酷い話だ。まぁ、確かに弟だから、配慮は足らなくてもいいかぐらいには思ったが、許せる範囲ではあるはずだ。


『てかさ、姉さんだって勉強ばっかでしょ?運動はどうなの?』

『貴方ほどじゃないわよ。最近は、勉強したり本を読んでいることが多いから持久力がないけれど、昔はお爺様に教わっていたから、レイピアくらいなら振れるわよ。』

『そ、そうだったんだ。』


 あら、これは言い過ぎたかしら?マブル的には、同じ頭が良いが売りの私は、運動できない仲間と思っていたのかしら?マブルが少し沈んでいるように見える。また、一つ失敗かしらね。



 今日は、色々と収穫はあったものの、大分失敗してしまったなと感じる部分も多かった。そんな一日だった。

他の人の心情とか、考えも入れたいけど、せっかくの一人称だから、入れ過ぎも良くないよね。どーするのがいいのかな、むずいなぁ。

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