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第2話 弟が出来た

もう少し、早く次話が出せるようになりたいなぁ。

 一先ず状況整理から初めてみよう。私はヒーラン・ヴィルランク。この国の公爵令嬢で、現在はこの国の第一皇子様のギルダント様と婚約関係にある。


 そんな私は、日本という別の国に住んでいた狡猾な殺人犯の記憶を有している。そして、先ほどその記憶の中に気になるものを見つけた。この国と似たり寄ったりした乙女ゲームの存在だ。あのゲームの中のキャラクターは良く考えると、この国の人物に似ている。いや、同一人物かもしれない。とりあえず、私と同じ名前の悪役令嬢。明るいコバルトブルーの髪に、印象的な垂れ目。そして、右眼に落ちる泣き黒子。私の特徴をこれでもかと、盛り込まれた彼女を筆頭に、婚約状態のギルダント様もいる。それに思い返すと、導入部分でフェルナンド王国と言っていた気がする。やばい、名前が被りすぎてる。他にどんな人がいただろうか?彼がやったのは一ルートのみ。けれど、主婦の彼女は攻略サイトなどを見るのは、好まず自分でやり切るタイプだったから、彼もきちんと行っていた。なので、ギルダント様のルートとしても、ルートに入りきる前に他の攻略対象もいたはず。それらもこの国にいて、ゲームのルートをもしもなぞる様な事になれば、それは私にとっては困る事だ。


 私が確認したルートは二つ。皇子様と主人公の友達エンドと2人が結ばれるハッピーエンドの二つだ。これ以外にもルートがあるのかは知らないが、私は知らない。友だちエンドでは、私は修道院に送られて修道女となる。

 そして、もう一つのハッピーエンドでは、私は幽閉エンドだ。ヒロインを虐める方法や、それを隠蔽する方法が秀逸過ぎたのか、彼女は危険視され幽閉される。人のほとんど寄り付かない山奥の塔に監禁され、ほとんど日の目を浴びる事なく消えるのだ。


 それを思い出したとき、私は思った。まるで彼だ。3人の人を殺し、捕まり牢獄に囚われ死刑の日まで、日も当たらぬ牢獄で過ごした彼だ。彼と同じなのだ。どちらを選ばれたとしても、私に自由なんてないのだ。

 私はまだ、何も起こしてはいない。人を殺してはいない。ヒロインを虐めてもいないし、虐めるほど、皇子様に心惹かれてもいない。

 けれど、もしもあのゲームの様になる可能性があるのならどうだろう?皇子様に今後惹かれ、その彼に好かれるヒロインに嫉妬し狂う事があるのなら、今のまともな私としては自業自得と言ってやって良いと思う。しかし、人を殺してもいない、まともな私がその運命を迎えるのだとしたら、それは受け入れ難いものだろう。そこで、またしても私は思った。


 まるで、彼の贖罪を私に科せられている様ではないかと。前世の悪業を今世では、悪業を働く前に償えと。その為の今世だと。今から罪に苛まれろと。そう言われている様な気がしてしまった。

 だとしたら、今のこの自由時間は何なのか?物語が始まるまで、まだ6年近くある。


 私はこの6年で何をするべきなのだろうか?何を求められているのだろうか?


 彼の罪を晴らす為に、残りの猶予で善行を積めば良いのか。それとも、何れ捕まるのだから、好き勝手に生きるべきなのだろうか?そしたら、人を殺してみるという事も試せる。

 まぁ、全て仮説の域を出ないから、結局私に出来ることなんてほとんどないのだ。


 でも、そうか。善業を積むか。私は何も無ければ王妃になる人間だ。人の為になる事をする事は、何れ私の為になる可能性は充分にあり得るし、ならなくても王妃としては必要なことだ。あとは、皇子様に好かれることだろうか。結局の所、皇子様がヒロインに靡かなければ良いのだ。好きになってもらえる努力をしよう。



 たくさん、頭を回した後、今後の方針を漠然と決めた私は、夢をもう一度見ずに眠る事が出来たらしい。





 朝私の侍女のマリネに起こされ、今日の予定を聞かされた。


『お嬢様、本日の予定ですが。』

『あら、何かあったかしら?』


 それにしても、マリネは今日も綺麗だなぁ。とか、思いつつ話を聞いた。マリネは、私の六つ上の女性で白肌が綺麗で、また切れ長な目が美人さを際立たせているためか、冷たい印象を受けやすい女性だ。しかし、笑顔が上手いので、時折見せる笑顔とのギャップで男性の受けも良い。私とは正反対だが、私の憧れの女性だ。


『旦那様がお呼びです。お昼前にリビングルームへ来るようにとのことです。』

『わかったわ。』


 マリネに手伝ってもらいながら、仕度を済ませて、朝食をいただく。お父様とお母様は朝から何かあったのか、1人での食事だった。それから、きちんと仕度を整えて、お父様のところに向かった。


 そこで私はもう一つ、新しく欲しくなかった記憶を手に入れる。

 お父様は嬉々として語るのだ。


『ヒーラン、本来ヴィルランク領は、お前が婿を取る形で存続する予定であった。しかしだ、お前が皇子の婚約者として召し上げられる事になっただろう?そこで跡継ぎがいなくなってな。元々、私の宰相職を引き継がせるか、もしくは支えさせる為に、分家から預かり教育していた彼を世継ぎとして迎えることにした。マブルだ、姉として面倒を見てあげてくれ。』

『マブルです。よろしくおねがいします。』


『ええ、ヒーランよ。こちらこそよろしくね。』

 と、笑顔で答えた私を褒めよう。よくやった。

 マブル・ヴィルランク。確かにいたわ、ゲームの中にも。私の8ヶ月違いの義理の弟だ。着実にゲームの世界と現状が被っていく。


 婚約の次の日に連れてきたという事は、既に決まっていただろうから、止められないし。ゲーム内では弟がいたことを忘れるくらいには、皇子様ルートでは、彼に会わない。

 彼とどう接するのが正しいのか測り知れなさすぎである。


『昼食を摂ったら、お家を案内するわね。』

 とりあえず、仲良くするのが吉?


『あぁ、そうしてもらいなさい。』

『ありがとうございます。お姉様。』


 昼食後、私とマブルは両親に断りを入れてお家探索に向かった。

 さて、どこから説明しようかしら?と、考えたが、先に一つ言って置かなければいけない事がある。


『マブル、お家案内の前に一つ良いかしら?』

『なんですか?お姉様。』

『それよ。そのお姉様っていうのやめてもらえないかしら?』

『しかし…』

『分家ということを気にしているのかしら?だとしたら、要らぬ心配だわ。』

『わかりました。』


 物分かり良く、返事をしているように見えるマブルだが、少し冷めた様な目をしているように感じた。その目に、悩んでいる時のお父様に少し似ていると感じた。

 マブルは、お父様と髪と目が同じ濃い藍色で、何も知らない人から見ると、本物の親子の様に同じ色彩を持っている。この髪色は、ヴィルランク家に多い髪色の為色被りは珍しくないが、私はお母様の銀髪とお父様の藍色が混ざったのか、輝かしい水色だった。しかし、それはどちらにも似ていないということで、少しマブルを羨ましく思った。


 さて話を戻すと、これは少しずつ慣らすしかないだろう。けど、これだけは言っておこう。


『とりあえず、お姉様だけはやめてくれないかしら。』

『……姉さん。』

『はい。』

『………』

『では、お家を案内するわね。最初はどこがいいかしら?』


 マブルの呼び掛けに、笑顔で返すと、少したじろいでいた。実際、まだまだ及第点ギリギリだ。義弟のマブルは年齢的には同い年。ぶっちゃけ、呼び捨てで良いと思っているんだが、突然家族と言われても難しいのかしら?いや、なら姉さんとも呼ばないか。分家だったからとか?この事は頭の隅に置いといて、とりあえずマブルと仲良くなる方法を探ろうかしら。




 そんな事があって数週間が過ぎた頃。

『お母様、マブルはどうかしたんですか?』

『体の調子が優れないようよ。』

『そうですか。後で、姉として様子を見ておきますね。』

『………使用人に面倒を見させているから、平気よ。移されてもまずいから、元気になってからにしなさい。』

『そうですか。わかりました。』


 食卓にマブルが顔を出さない事が何度かあった。それは決まって、お父様のいない日だ。

 まぁ、分かりやすく言うとお母様がマブルを好ましく思っていないらしい。あまり、そう言うことをする人ではないので、少し驚いた。


 2人をよーく観察した結果からすると、マブルは全面的に悪くはないんだが、だからといって、実の母親を非難することも出来ない。


 そう考えると、マブルには悪いが消えてもらうか、なんらかの理由を作って、ヴィルランク家から追い出すしかないが、それでは根本的な解決とも言えないだろうな、と思う今日この頃だ。


 お母様が、マブルの扱いに困っているのは、マブルの髪質や眼の色がお父様と凄く近い為だ。まぁ簡単に言うなら、マブルをお父様が外で作ってきた子供ではないかと疑っているらしい。


 しかし、お母様としてはそんなこと声を大にしてお父様に聞くことなんて出来ないし、だからといってお父様に当たることも出来ない。結果、そのしわ寄せがマブルに向かっている。

 なので、私はマブルに話しかけに行った。


『お母様がごめんなさいね。少し、悩んでいるようだけど、本当は良いお母様なの。私がなんとかするから、今は耐えてもらえるかしら?』

『いえ、姉さんのお手を煩わせる必要はありません。私もわかっていますから。お母様が非難されるのは、仕方がありません。』

『それは、分家だからって話かしら?お母様は分家の人たちを蔑ろにしたりなんてしていないわ。礼節はわきまえますが、だからといって見下しているとかではありません。』

『そうですか。だとしたら、尚更のことでしょう。』

『どういうことよ?』

『姉さんは知らないのなら、気にしないでください。姉さんが気にする事ではありません。』


 って、どういうことよ?家族がすれ違っているのだから、気にして当たり前でしょう。気にするなという方が無理に決まってるのに。

 とりあえず、マブルが何を勘違いしているのかわからないが、双方に歩み寄る意思がないのは不味い。


 お母様には、お父様に自分から想いを打ち明けて欲しいので、お母様の事を話す訳にはいかないが、マブルについては良いだろう。

 お父様に軽く相談してみよう。


『マブルがよそよそしい?』

『はい。最初は不慣れな環境に緊張しているだけかと思っていたんですが、そういう事では無いような気がしてきて。呼び方も、同い年なのだからヒーランで良いと言っているのに、姉さんと呼びますし。』

『ふむ。それはそうか。マブルには酷な事をしたかもしれないな。』

『酷な事ですか?』

『ああ、私のミスもあるかもしれん。私から軽く話してみるよ。』


 私はその内容を教えてくれないのかと、お父様の目をじっと見つめた。

『これに関しては、私がなんとかするから、ヒーランは気にしないでくれ。すまんな、心配かけて。』


 それを聞いて私は考えた。マブルについてだ。マブルは確か、宰相の仕事を支えさせる為に、育てていたと言ったが、家に来てからの彼を見た感じ、まだまだお父様の所で宰相についての仕事を学んでいるような雰囲気では無い。

 家庭教師を雇って、勉強を学ばせているという感じだ。普通の10歳の貴族がやる勉強よりは、先の事を学んでいるようなので、優秀な事は確かなようだ。私も勝手にいろいろ勉強したりしていたので、マブルの優秀さも良くわかる。


 しかしだ、私のお母様は、教養が無いわけでは無いが、そちら方面を強い方でも無い。そう言った部分はお父様が一任されているとも言える。


 そうなると、お母様からは、マブルは優秀なのか、優秀になるように今から育てようとしているのか、わからないのでは?


『……お父様。一つ質問を良いですか。』

『ん?なんだい?』

『お母様がマブルと会ったのはいつ頃ですか?』

『リーラとマブルか?日付けでいうなら、ヒーランと同じ日さ。リーラには、引き取る際について来てもらったから、時間としては少し早かったかな。』

『では、マブルについてまだまだお母様とお話が足りていないんではありませんか?』

『あ、あぁ。そうだな。マブルを連れてくるのもまだ、先の予定だったし、ここの所は、ヒーランと皇子様の婚約発表の為に、慌ただしかったからな。』


 これは、前言撤回せざるを得ない。お母様からではなく、お父様からお母様にお話していただこう。

『では、お母様とお話ください。』

『リーラに何かあったか?』

『それを理解する為にも、お母様とお話ください。これ以上は、娘の私の出る幕ではありませんので。』

『あ、ああ、すまんな。』


 お父様もきちんと人の子だったのね。仕事の鬼で、なんでも優秀にこなす完璧な宰相の様に、ここ何度か出向いた、王宮で耳にしていたけど、ダメな所もきちんとあるようで……娘としてはあまり知りたくなかったかもしれないわね。



 さて、私の結論が何故こうなったかのネタバラシをするのなら、私は現在10歳で、10〜13歳は、私たちの国の貴族では、婚約者が決まる頃だ。となると、私もその対象なわけで、お父様とお母様はその事で、頭を悩ませていたのだろう。有難いことだ。ヴィルランク家は公爵家で、私の容姿も悪く無いので、相手は引く手数多だが、お父様のお眼鏡に適う人が中々見つからなかったのだろう。私は一人っ子のため、ヴィルランク家は私が継ぎ、婿を貰う事になる。宰相は国の仕事のため、男性が多いので私が継ぐことはできないが、跡継ぎがいない場合は、娘が継いで婿を取る事はさして、珍しくは無い。


 よって、婿候補として、次男や三男のいる家から、いろいろと考えて選ぶわけだが、お父様としては、納得がいかなかったのだろう。そんな時に、お父様はマブルを見つけた。お父様のお眼鏡に適い、宰相にもなれたら、他の家との繋がりを考えて相手を選ばずとも、優秀である私と宰相のマブルで結ばれるのもありではないかと考えたのだろう。


 まぁ、そんなものはまだまだ計画の初期段階だったのに、私が皇子様の婚約者に選ばれた為に、計画は頓挫した。


 そして、優秀という事はわかっていたマブルは、跡取りとして、引き取られた。

 しかしお母様から見たら、突然湧いて出たマブルは、お父様に似た色を持つマブルを不貞の子供と疑っても、仕方ない事だ。

 そして、マブルから見たら、私は未来の夫婦だったのかもしれないという事だ。

 姉さんと呼びたいのは、気持ちに見切りをつけるためかしら?


『ふふっ』

『どうかしましたか?お嬢様』

『いいえ、なんでも無いわ。』


 マリネに変な目で見られてしまったわ。恥ずかしい。

 まだまだあったばかりだというのに、あの子は。気持ちには答えられないぶん、姉としての役割は果たしてあげようじゃないか。





 そんな事を私が心の中で決めた後、お父様とお母様のわだかまりもなくなり、お母様はマブルにも優しい立派なお母様になってくれた。

 そして、私とマブルは一緒に勉強する様になった。


『姉さんこれどう思う?』

『これはもっと領内にも学び舎の様なものを作って、雇用と領民の底上げが出来たら良いんじゃないかと思うのよね。予算については、色々考えてみないといけないけれど。』

『へー、なるほどね。』



『姉さんこれはどう思う?』

『犠牲者が出てしまう事に対する考え方ね。私としては、犠牲が出ない事の方があり得ないと思っているわ。その数をどこまで減らせるかが、権力者の腕の見せ所ね。』

『……』



『姉さんってさ。見た目の割にしっかりしてるよね。』

『なによ、それ?』

 突然言われたその言葉は、見た目を馬鹿にしているのか、それとも褒められているのか。


『姉さんを始めて見たとき、守りたいなって思ったんだよね。あんな人を守りたいって。』

『ふぅん。それで?』

『今は、きちんと人を見てから見極める事にしようって決めたんだ。』

『まるで、私は守る価値が無いかのようね。』

『別にそんなこと言ってないよ。ましてや、守る必要が無いとも思ってはいないさ。』

『じゃあ、なんなの?』

『姉さんは姉さんで居てねって話。』

『なによ、それ?』

『なーんでもなーいよ』


 ニコニコと笑う彼は、気持ちが落ち着いて、今のこの家族を受け入れて、楽しい日々を過ごしているんだろう。


 しかしだ、しかしだマブルよ。私は貴方の少し前の気持ちを知っている。確認はしていないので、たぶんだが、間違ってはいないはずだ。だから、彼も今濁しながら姉だと言ったのだろう。私を守れるような人間になりたいと思ったが、私と一緒にいたら、守られるような人間じゃない事に気付いた。そんな女性はタイプじゃないと。そう言いたいのか、マブルよ。姉ぐらいがちょうどいいと、そう言いたいのか。


 私が目指した形のはずなのに、あっけなく宣言されたその言葉に、多少の不満を抱いた。

 まるで、私に容姿以外に魅力が無いみたいではないか。


 こんなすぐに好き認定を返還されるとは。私が願った事としても、受け入れ難い。なんてったって、私の今後の目標は、ヒロインに皇子様を取られないように、皇子様をメロメロにする事だ。既に計画の見直しを考えさせられた。

 変える気はないけど。

前回ほどの、サイコパスさは、なかったかなと思ったんですが、毎話そうなる必要は無いのかなとか、悩んでます

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