第11話 お爺様に会ってないな
今日色々あって、遅くなりましたが、間に合ってよかった。
お菓子作りに関しては上手くいったと言っても良いのではないだろうか?マブル曰く、塩キャラメルクッキーが休憩の時に、テーブルに並んでいたらしい。そして、ギル様がいくつかあるお菓子の中から好んで食べていたという報告ももらった。
このことで、私に対して好意が生まれたかはわからないが、他の令嬢との差別化にはなったんじゃないだろうか?
少しは、私に対して好感を持ってくれたなら大勝利のはずだ。
好意というものは、0から10に上がるより、−10から10に上がる場合の方が、差が大きい分心に来るらしい。
貴族であるというマイナスから好みのクッキーを考えてくれた、という単純なことではあるが、好意を感じてくれたのなら、少しずつ育ませる事も可能なはずだ。
不信感から好意を持たせるのは難しいが、一度でも持たせる事が出来れば、この相手には好意を持っても良いと警戒が緩むのだろう。
一度持たす事が出来たのだ。これで、今までのギル様を立てる事やスキンシップでも少しは感じ方が変わってくれるかもしれない。
計画はやっと進み出せたのだ。他にも出来ることはないか考えてみよう。
そのできる事の一つと関連した事で気になっている事がある。
お爺様に会っていない!という事だ。
異世界の彼の記憶を持ってしまってから、気になる事や知りたい事が多く、勉強や本を読むことばかりに時間を割いていたが、そんな事お爺様は知らないので、会いに来てくれる事は多く、その時はレイピアの稽古をつけてもらっていた。
来なくなったのは、ギル様との婚約後だろう。
そこからは、私が悪役令嬢かもしれないという事に、頭を悩ましていたため、気づかなかった。
料理をさせてもらえなかった事や、ギル様の稽古を見たことで、思い出した。
稽古の時のギル様は楽しそうだった。私といる時よりも断然。そこは好意を持たれていないので、仕方ないとも思えるが、同じ時を過ごせれば、少しはその好意をわたしにも分けてくれるのでは、と思ったのだ。
稽古を見たときは、私がいろいろと口を出してしまったが、私も参加出来ればギル様もいろいろと言ってくれるだろう。この場合、恋愛的な感情に向かうかはわからないが、ギル様なら可能性はあるんじゃないかと思う。
それに試しても損はないだろう。父親が騎士や軍の令嬢なんかだと、剣を振るえる者はいる。騎士同士、強さを求める家系には需要があるが、脳筋の女性は好まないとか言う、男もいるので令嬢の教育方針は家ごとに様々だ。ギル様はそう言った部分では考えないだろう。
それよりも、そう言った女性は騎士道にも精通している分、貴族の化かし合いは好まない事が多い。ただの貴族令嬢よりは扱いやすいとか思ってそうだ。
まぁ、そう言うことなので、ギル様と稽古を出来ないかなと思っている。あの時には、リンゼン様との事や、立ち続けて足を痛めた事など、失敗が多かった。それらの払拭にもつながればとも思う。
けれど、全く動けないようでは、前回の二の舞なので、お爺様にまた少し、見てもらっておきたいなと思っている。
なので、とりあえずお母様に相談してみよう。
お母様は申し訳ないことに、私を産んでから少し病弱らしい。
まぁ、病弱と言っても私やマブルをお茶会などで、紹介する為に今でも現役で動いてくれている。
なので、私からするとあまり病弱のイメージはなかった。定期的に医師の診断を受けるようにしてることぐらいしか、私は知らない。
しかし、跡取り教育というものは、上手く行くかはわからない。素養がないと判断されるものもいるそうだ。だから、貴族は子供を数人作るのが、我が国では当たり前だ。
その点を考えたとき、私しか直系の子供が居らず、結果マブルが引き取られるという形を取られたのだ。
お母様がこれ以上、子供を作れない体であるという事は、想像がつく。
けれど、病弱な姿を見せられていないのは、私が子供だからなのか。そこまで酷くはないのかはよくわからない。
いつか話して貰えるだろうか?
とりあえず、私から催促していい話かはわからないので、現在保留中だ。
下手に、
私以外に子供がいないのってなんで?
なんて聞いて、もっと他の理由があったら、それはそれで困る。
それに、いきなり倒れるなんてことは、ないだろう。
まぁ、そう言うことなので、お母様は良く健康の為に庭を散歩する。
私も本を読んでばかりでは、体が痛いのでたまに散歩していた。
マブルは稽古を定期的にするので、その必要はないがお母様に連れられて散歩していることが良くあるらしい。
最初はどうなるかと思っていたが、仲良くしてくれているようで良かった。
そんな私も今日は時間を合わせられたので、お母様とのお散歩だ。
ここで、お爺様についてそれとなく聞いてみよう。
庭師によって綺麗に彩られた庭園を眺めながら、咲き誇る花に見惚れつつ、お母様に花言葉を教わった。
お父様からいただいた花やその意味についても聞かされた。あれはほぼ惚気に等しい。
まぁ、お母様の愛らしい姿が見れたので、別にいいのだが。
今でも夜会に咲くと、見惚れる殿方が多いと聞くお母様。
長くストレートの銀髪に、切れ長だが垂れた目尻と相まって気高く咲き誇る姿は、女性でも見惚れるほどだろう。
その娘なのに、私はぱっちりと開いた目と垂れた目で、美しさはなく可愛らしさしか感じない。
両方を兼ね備えながら、どちらも上手く合わさったお母様は憧れだ。
庭をある程度回って、東屋で休憩する。ここで、お爺様について聞いておこう。
そう思いつつ、目の前で優雅に紅茶を飲むお母様に目を奪われる。
お母様はその身一つで花束だ。贈る相手はお父様。
花束は贈られて意味を持ち、飾られ朽ちるまで、その時の状況を留めてくれる。
その間、色褪せ形が変わりながら、その時の時間との別離を教え続けてくれる。
お母様とお父様は寄り添い生きていくと決めているが、私が花束に作り変えたなら、最後のひと時をお父様はどう過ごすだろうか?
ねぇ、お母様。お母様を花束として飾るなら、あなたは一輪で咲き誇れることだろう。下手な装飾なんていらない。
あなたが命を飛ばした真紅のリボンとともに、身一つでお父様に届けましょう。
お母様をラッピングする時の顔や想いや気持ちは表情にどうなって現れるか気になるし、受け取った時の、お父様の顔や気持ちも見てみたい。
何を考え何を想い何を語ってくれるのか?
私の渾身の作品は、誰にも伝わらず誰も知らずに完成もしないで終わる。
考えたって可能ではないと知っているから。私の為に、して良い事ではないのだ。
そんなことを考えている間に、お母様の言葉は終わっていた。
お爺様が来ない理由やレイピアを触れない理由。
簡単に言えば、お爺様としては今でも私にレイピアを教えたいらしい。いざという時に、自分で自分を守れるように。
けれど、お母様としては、自身で動くよりも、守ってくれる方達の指揮を執り、守る価値があることを指し示せる王妃に育って欲しいらしい。
その上で、体のどこからも女性らしい手触りしかしない、女性としても皇子様に気に入って貰いたいということだった。
そうなるとお爺様の教育方針は困るとのこと。
でも、それは言い換えればギル様次第とも言える気がする。
王妃となった時、他国と交流すると思うが、体に触れることはないだろう。友好の印として、握手などをするとしても、それはギル様のすることだろう。わざわざ王妃どうしではしない筈だ。
そう考えるなら、ギル様と少し会話をしたいなと思った。
ギル様の好みは、あのゲームの主人公のような人なのかもしれないが、そのことをギル様はまだ知らないはず。
現状で、ギル様の好みに近づくには、ギル様に聞くしかない。
こういったことは、直接聞くようなことではないかもしれないけど、どうやって本音を割らせるか。
どうしようかな。
なんとなく、会話なしで書いたけど書くべきだったかなぁ?




