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8、死ぬな!

文章に少しぐだぐた感があるかもしれません。読み難かったらごめんなさい!

あぁ、もう僕は死ぬんだなぁ、と鳴海和晃はどこか他人事のように感じていた。意識が朦朧としたまま過るのは長くはない人生の思い出。小さい頃に事故死してしまった両親の顔。ここまで育ててくれたおばさん夫婦の顔。学友。そして、

(……先輩、)

優しくて時には怖かった、一番敬愛する人物…斗賀野笙汰。和晃が大学一年のときに町中で不良に絡まれていたのを助けられた縁で知り合った。同じ大学、同じ学部と知ってから自分から声をかけ、同じサークルにも入った。

楽しかった。先輩はぶっきらぼうなとこもあったけど、本当はとても優しい。年下には面倒見がよく、年上には怖じ気づくことなく対等に渡り合った。怖いもの知らずの先輩の横にいると、楽しかった。自分も強いような錯覚まで抱いたけど。

(でも、もう)

消え行く意識の中、自分の背を押したのであろう人物の姿形を思い出す。

真っ黒な短髪。白い顔に反比例して真っ赤な唇。知り合ったばかりの朔君にどこか似ていた。背は和晃より高かったように思う。にっこりと微笑み、真っ赤な唇が言葉を型どる。

(あの瞬間は何て言ってたか読み取れたはずなのに、今は思い出せなくなってる………)

すらりとして、細かった。でも頼りない印象はなく、地に根をはって生きているような印象を受けた。自分の信じる道だけを見据えて生きる強さを身に付けているような。

(僕とは、真逆、の…)

どうしよう、本格的に頭がぼんやりして来た。先輩に会いたい。会って、今まで親しくしてくれたお礼を言いたい。そして、僕を突飛ばした人の姿形を伝えなければ。

和晃はそう思った。何故かは分からない。兎に角先輩に伝えなければ、と思ったのだ。伝えてどうしたいのかは、分からないけれど。

(でも、もう、)

闇に呑まれていくのを止められない。体の感覚が消えて行く。もう楽になろうか、と思う。こんな状態じゃあ、先輩に会えても話なんてできないから。

(みんな、さようなら・・・ありが、とう、)

目を閉じ、闇に身を委ね、



『鳴海!しっかりしろ!!』



先輩の声が、聞こえた。






俺は、ガラス越しに映る後輩の無惨な姿に立ち尽くしていた。だが集中治療室・・・ICUの中にこもっている医師や看護士たちの様子が更に慌しくなってきて、思わず聞こえないと思いつつも叫んでいた。

「鳴海!しっかりしろ!!」

細い腕には様々な機器からのコードが伸び、頭は包帯でぐるぐる巻きにされ、ちらりと覗く瞳は力なく閉じられている。恐らく体も酷い傷を負っているのだろう。想像するだけで身が焼ききれそうに思える。この惨状を作り出したのが朔の兄貴だとしたら、俺はどうするのだろう。俺の家に一人居る朔は一体何を考えているのだろう。

「和晃、和晃・・・」

「雅恵、しっかりしなさい」

俺の横では、一組の中年夫妻がいて俺と同じように集中治療室の中を覗きこんでいる。鳴海のおじ夫妻で、一応面識はある。

「でも、どうして・・・・・あの子がこんな目に」

おばさん・・・雅恵さんは嗚咽を堪えていた。おじさんの章介さんは目を真っ赤にしながらも妻を支えようと泣くのを堪えている。俺がそちらに目をやると、気付いた章介さんが悲しげに微笑んでくる。俺は辞儀をするしか出来ない。

「鳴海、絶対に死ぬなよ。・・・・・・絶対に死ぬな」

俺は小さく呟き、集中治療室に目を戻した。

絶対に、死ぬなよ。






一方、一人笙汰の家に残された朔はもう一度寝ることも出来ず、上体を起こしたまま布団に入って居た。寒気は酷くなる一方で、頭まで痛くなってきた。

(・・・・っ、)

あの温かい“手”の持ち主である鳴海和晃を殺そうとしたのは、紛れもない兄である。本当に和晃が死んだら、自分はどうやって償えば良いのだろう。

兄に問い質せば、

「朔が殺したわけじゃないんだから、朔が償う必要はないよ。それに、お前を勝手に介抱したのは斗賀野笙汰って奴だろ?その件でお前が負い目に感じる必要はないさ」

と軽い口調で答えるに決まっている。

そしてもし朔がごねろうものなら、鋭い平手が飛んでくるのだ。

「お前は誰に向かって口を聞いているんだ?お前は僕の下僕なんだから、僕の言うことをホイホイ聞いてればいいんだよ」

平手された痛みを思い出し、朔は腕を抱えて俯く。

(・・・お願い、鳴海さん。死なないで)

自分本位な勝手な願いを、一体誰が聞いてくれるのだろうかと朔は思いながらも、願うことを止められなかった。





「また酷いことをしたものだな、陸」

来栖陸は、上から掛けられた声に不遜な笑みで応えた。

「何が?」

「惚けるなよ。分かってるんだろ?」

「ならさぁ、あっさり殺せば良かったの?中途半端に生かしてるから、怒ってるの?」

無邪気な笑顔に、瀬尾春樹はため息をつく。

「・・・俺が言いたいのはそういうことじゃない」

「じゃあどういうこと?僕馬鹿だからさぁ、はっきり言われなきゃ分かんないの」

「あまり余計な殺生はするな、と言っている。異能者だからって誰彼構わず傷つけるのもダメだ」

陸がむう、と口を尖らせて春樹をねめつける。

「春樹たちがそんな手緩いこと言ってるから馬鹿どもが蔓延るんだよ?それを僕がどれだけ嫌な想いをして見てるか」

春樹はそれは悪かったな、と気難しげな顔をして陸の漆黒の髪を撫でる。陸は気持ちよさげに目を細めて彼に身を任せる。

「・・・そういえば、朔の行方だが」

「それはちゃんと掴んでる。今何処に誰といるのかも・・・ね」

ふふっ、と微笑む陸を、春樹はなんとも言えない表情で見る。

「春樹どうしたの、変な顔して?」

「いや、何でもない」

春樹は思う。少し生死に対する価値観が他者とは違うこの少年から朔という弟の存在を奪い取ったとき、この子は一体どうするのだろう、と。

(・・・・俺は、どっちにつくべきなんだろうな)






「出来ることはしました。・・・今晩がヤマになると思います。ご本人の意思の持ち方次第です」

集中治療室から出てきた三十代後半くらいの男性医師はおじ夫妻と俺とを等分に見ながらそう言った。

「ありがとう、ございます」

声も出せないくらい泣いている雅恵さんに代わって、章介さんが医師に頭を下げている。俺も頭を下げる。

「雅恵、しっかりしなさい。和晃のほうが痛くて苦しいのに、頑張ってるんだから」

「・・・・はい」

「斗賀野君もありがとう。様子を見に来てくれて」

俺は無言で首を左右に振る。お礼を言われるようなことなんて何もしてない。俺が好きで来ただけだ。頭を下げられるようなことは、してない。

「・・・・俺、帰ります。鳴海が目を覚ましたら、」

「ああ、連絡する。本当にありがとう」

目を真っ赤にした雅恵さんまで頭を下げてくれる。俺も下げ返し、身を翻した。本当なら鳴海が起きるまで、目覚めるまでここにいたかったが、正直俺が此処にいることで鳴海の生存確率が上がるとも思えないからだ。

勿論家族である章介さんたちに対してそんなことは思っていない。対象はあくまで、俺だけだ。

それに、俺にはすることがある。

俺は病院を出て、自宅に向かう。家に帰って、朔を問い質すためだ。

朔の出自ではなく、鳴海を殺そうとしたのは本当に朔の兄貴なのかを訊くためだ。

「もし、そうだったら、」

もし本当にそうだったらどうするのだろう。何度も俺の中を巡る問いがまた首を(もた)げる。

“異常”に対する警戒心が薄く、“死”に対する恐怖心が欠落していると言われる俺

そんな俺でも、知り合いを殺されたら怒れるのだろうか。

誰かが死ぬことがあっても、平気な顔のままでいるのだろうか。

「鳴海、絶対に死ぬなよ」

仇を討とうとか、鳴海と同じように痛い目にあわせてやる、と意気込んでいるわけではない。ただ、兎に角知りたかった。後輩を傷つけたのは本当に朔の兄貴なのか。本当にそうなら、何故なのかを。鳴海のように良い奴を殺そうとするのは、一体どういう理由からなのか、知りたかった。

だから俺は家路を急ぐ。

自宅のドアを空けた途端に広がる光景を、予想することなく。









さて、自宅に帰った“俺”の目に映るのはどんな光景なのでしょうか?

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