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7、異能者を排除せし者

朔が漸く落ち着いたのは、二時を回っていた。口元についた血を拭ってやると、朔はありがとう、と掠れた声で礼を言ってきた。萎れているのがよく分かる。俺は血のついたタオルを台所の流しで洗う。

「・・・訊かないの?」

「あ?」

「僕が、どういう生活をしてたのか、その、血を吐いたことで、」

「俺、好奇心も薄いから」

俺はそれだけ言って、その話題はもう良いと背中に滲ませる。

朔は俺の言葉の意味を汲み取ったのだろう、

「そう・・・」

と小さく呟いただけだった。

そのとき、俺の携帯電話が鳴った。

「もしもし、鳴海?」

『こんにちは、異能者を匿いしモノ』

電話の相手は鳴海ではない。だがかかってきたのは鳴海の携帯の番号だった。それは何を意味するのか、俺は一瞬理解出来なかった。そして話し掛けてきた声。妙に機械的で温度のない口調。

「あんた、誰?」

『朔、いるだろう?』

いきなり出てきた知った名前に、俺はその名の持ち主に目を遣った。だが朔は俺を見てはおらず、膝を抱えて俯いている。俺は朔から目を離した。

「質問してるのはこっちだ。俺の質問に答えろ」

『ひひ、冷たいねぇ。大事な後輩が死んでもそんな冷静にいれるかな?』

その言葉に、俺は鳴海と電話で話したときに見た“光景”を思い出す。

「・・・お前、鳴海に何をした、」

『おやっ、声に少し怒りと焦りがこもったね。キヒヒ、そんなに鳴海和晃君が大切かな?』

「・・・・・・・・・」

『僕は少し彼の背中を押しただけ。それで勝手に道路に出てっちゃったんだ。で、ドカン』

「お前、」

『今生死の境にいるんじゃないかな。精々死なないように願ってなよ』

「鳴海は、」

『救急車、っていうのかな。それで運ばれたよ。僕、傍にいたけど、泣きながら先輩先輩って呟いてたから、君に連絡しないといけないなぁと思ってさ。・・・わざわざ連絡してあげたんだ、感謝してよね?』

「お前、鳴海を殺そうとしたのか、」

何だ、ここ最近感じていなかった“何か”が胸の奥底から湧き上がってくるのを感じる。

目の奥が熱い。肌がぞわりと粟立つ。

「・・・・・・・どうし、たの?」

俺の異変に勘付いたらしい朔が台所で硬直したままの俺に声をかけてくる。

『おや、今のは朔の声かぁ。ちょっと代わってよ』

「お前、朔とはどういう関係だ」

『嫌だな、その言い方。まるで恋人の浮気相手に言うような台詞じゃん』

けたけたけたと他人を嘲笑うのが楽しくて仕方ないといったような笑い声が耳に障る。

『代わって。何、集中治療室に入ってる鳴海和晃君を殺せって僕に言ってるの?』

これは脅しでも何でもないと俺は感じる。それに恐怖は抱かないが、正直会ったばかりの朔よりも付き合いの長い鳴海のほうが大事なのは当然だ。俺は朔に携帯を突き出し、出るように目で合図する。朔は戸惑いながらも受け取り、耳にそれをあて、途端に体を強張らせた。




「ど、う・・・・してっ、」

『こんにちは、朔。よくあそこから逃げ出したね・・・僕を困らせてどうする気?』

「ごめ、ごめんなさ・・・・ごめんなさいっ、」

『謝るくらいなら最初から消えないでよね。全く、折角楽しかったのに大変になっちゃったんだから。上には怒られるは現場は混乱するし。・・・鳴海和晃君って子も死にそうになっちゃてるしぃ、』

「か、彼に何をしたのっ・・・!?」

『ちょっと背中を押しただけだよ。そしたら勝手に道路に入ってどーん!みたいな?』

朔がギュッと携帯を強く握り締める。

「な、鳴海さんは関係ないのに、どうして・・・そんな」

『ふむ、関係ない・・・か。でもあれ、パッと見だけで異能者って分かったけど?』

朔を挑発するかのように上がる語尾。

「あ、」

『異能者は処分する・・・これ僕の大事な、誰にも譲れない信条だからさ・・・あ、朔は別だよ。だってたった一人の肉親だもんねぇ』

イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、と不気味な笑みが朔の耳に木霊する。

「にいさ、」

『ま、いいや。そのうち朔のこと迎えに行くから待っててね・・・あ、そうそう君を拾ってくれた人に伝えておいてくれる?鳴海和晃君は、辻条医大付属病院に搬送されたって。じゃ、また近いうちに会おうね?』

「ま、待って、兄さんっ・・・!!」

だが電話は切れ、朔は哀しげに項垂れる。

(兄さん・・・どうして、そこまで、)





通話は終わったらしい。俺は朔の力の抜けた手から携帯を抜き取る。着信履歴を見れば、やはり鳴海の携帯からかかってきた事になっている。俺は携帯を机に置くと、立ったままで朔を見下ろす。

「今の、誰・・・つうか鳴海は何処に運ばれたか言ってたか?」

「つ、辻条医大付属病院っていうところに搬送された、って、」

朔が途切れ途切れに返事を寄越す。こいつ、電話の相手に向かって兄さんと言っていたな。

つまり鳴海の背中を押して殺そうとしたのは朔の兄貴ってことか?

「・・・・・そう」

「あ、あの、」

「鳴海は大事な後輩だ・・・・・ちょっと様子見てくる」

「ぼ、僕も」

「そんな死にそうな顔で、ふらついて表を歩く気か?」

強く言ったつもりはなく、純然たる疑問を呈しただけなのだが、朔は怯えて俺から目を逸らした。実感は湧かないが、俺はかなり怒っているのかも知れなかった。

「鍵はして行く。絶対に家から出るなよ」

朔は声もなく頷く。

「・・・・・・・」

俺は携帯と財布だけ持って家を出た。鳴海が今どういう状態にあるのかは、考えないようにしながら。








朔の兄らしき人物が声だけ登場。朔との関係は。そして鳴海はどうなるのか〜!?・・・どうしましょ?

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