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5、第二の邂逅

「鳴海、どうし、」

俺は言葉の途中でドアを閉めようとした。だがガッと鳴海のものではない手が隙間に入ってきてそれを阻みやがった。

「何で閉めるんだよ」

何処か怒ったような口調。だが俺は怒られるようなことはしていない。此処は賃貸とはいえ俺の部屋なのだがら、いつドアを閉めようと俺の勝手のはずだ。他人に口出しされるようなことじゃない。

「俺の勝手だろ」

だからつい本音が出た。

「鳴海も何の用だ」

「あ、あの、僕は、」

俺の口調が何時もよりきつかったせいか、鳴海の声がぶれる。恐がらせちまったか?そう懸念したせいか、閉めようとするドアから力を抜いてしまい、

「よう」

宝生の胸糞の悪い笑顔と対面する羽目になった。






「・・・・・・・・」

鳴海が硬直しているのが分かる。宝生は興味深そうにじろじろと朔を見ている。

「で、こいつ誰?」

「言ったろ。俺の知り合い」

「どんな」

「・・・・・・・それを一々お前に説明する理由、ねぇだろ?」

俺と宝生の間に横たわる険悪な空気に、鳴海がどうにかしないと、と思っているのが傍目からでも分かる。

朔は、と言えば居心地悪そうに俯いて指を弄っている。

「俺不審者の話したけど、何かこいつが関係してんじゃねえの?」

朔がビクッと肩を震わせ、俺は内心で馬鹿か、と思う。宝生に余計な誤解を与える一方だろうが。

朔の動揺に気付いた宝生が、ズイッとその顔を近づけて覗き込むようにする。朔は宝生の視線から逃れようとするかのように、顔を少しだけ逸らす。

「この眼帯だってさぁ、」

こいつ酔っ払ってるのか?

宝生が朔の眼帯に手を伸ばそうとする。俺はそれを止めようとするが、先に制止の声をあげたのは意外なことに鳴海だった。

宝生の手を掴み、

「お、怯えてるから止めてあげてくださいっ、」

と訴える。

「・・・・・鳴海、」

「先輩が知り合いだって言ってるんだから、信じましょうよ。先輩だったら、僕たちに嘘をついたりしないと思います」

相変わらず鳴海は純真だな、と思う。どうしてそんなに簡単に人を信じられるのだろうか。

現に俺は今嘘をついているのに。

「どうだか」

宝生は鼻で笑ったが、鳴海から制止されたのが意外だったのか、朔の眼帯に触れることは止めたようだ。こいつ、何をしに来たんだ?

「名前は?」

「来栖朔」

俺が簡潔に答える。

「ふうん」

「宝生、お前何しに来た訳?鳴海まで巻き込んで」

「さっき会ったときに不審者の話したらお前の様子がいつもと違ったから、気になっただけ」

「その不審者とやらを俺が部屋に匿ってるとでも思ったのか?」

「あぁ」

鳴海とは性質の違う素直さに、俺は鼻を鳴らす。

「残念だったな。家捜ししてもらっても良いが、この部屋にシルクハットはないぞ」

精一杯の皮肉だった。捨てたんだろ、と言われたらそれまでだが。

だがそれに最も反応したのは朔だった。宝生に見つめられ体を硬直させていた朔が顔を跳ね上げて俺を見たのだ。

「朔、どうした?」

朔の唇は真っ青で、俺は怪訝に思う。寒いのだろうか。

「シルクハット?」

朔の声は酷く掠れていて。

「ああ、不審者が最近近辺で目撃されててな。何でもシルクハットをかぶったスーツの男が夜な夜な徘徊してるんだとよ」

「そう、なんだ」

宝生の細い目がいやらしい光を放つ。

「何、お前の知り合い?」

朔が力なく首を振るが、信憑性は余り無かった。

「知ってる、って感じだな」

「し、知らない。そんな人、僕は知らない、」

「あ、あの、大丈夫?」

朔の様子がおかしいことに気付いたのか、鳴海がおずおずと声を掛ける。

「鳴海、朔には触るなよ。そいつ、他人に触れられるの凄く嫌がるから」

「あ、す、すみません・・・・・・」

伸ばしかけていた手を、鳴海はパッと引っ込める。だが朔が何かに気付いたかのように顔を上げて鳴海を見たから、鳴海も俺も一体どうしたのだろうかと怪訝に思った。

「手、」

「え?」

「・・・・・あなたの手、見せて」

意外な言葉に鳴海が戸惑って俺を見るので、俺は頷いてやる。

「・・・・・・」

鳴海が出した手を、朔が握る。その瞬間、ほんの刹那朔の目が金色に光ったように見えた。

「あの、」

「・・・・・不思議な、手ですね」

「え?」

「・・・・・・・あなたの手は、不思議だ。“手”のことで、思い当たる節、ないですか?」

「!?」

鳴海がビクッと手を引っ込め、俺を見た。どうして、この人が知ってるの?先輩、話したんですか?とその目が語っているが、俺は潔癖だ。親しい後輩の“秘密”をわざわざ暴露する理由も必要性もない。鳴海の“秘密”を知らない宝生が不思議そうな顔で俺たちを見ている。

「どうして、」

「あなたの手は、とても暖かい気と生命に溢れているのが分かるんです。・・・不思議ですね」

朔は透明に微笑み、また俯いた。話し疲れたのか、微かに息が荒い。

「朔?大丈夫か?」

「・・・・・うん」

鳴海は手を握り締めて朔を見つめている。もしかしたら朔に何かを感じ取っているのかも知れない。

「悪いけど、今日は帰ってくれ。こいつ、疲れてるみたいだから」

宝生はまだ朔に疑いの眼差しを向けていたが、朔の体調があまりよくないのは分かるのだろう、渋々とではあるが腰を上げる。

「隠し事は止せよ、笙汰」

「分かったから」

「本当に分かってるのかよ。・・・・・・鳴海、行こう。付き合せて悪かったな」

「あ、いえ」

鳴海も立ち上がり、俺に不安そうな視線を寄越す。後で電話するから、とジェスチャーをすれば少し微笑んで頷く。

「それじゃ、朔君、お大事に」

「・・・・・・」

頷く朔にも微笑み、鳴海は宝生に続いて部屋を出て行った。





「よく分かったな、鳴海のこと」

「・・・・・・・」

朔は本格的に具合が悪くなってきたのか、苦しげに胸を押さえている。

「おい、横になってろ。顔が真っ青だぞ」

朔はもぞもぞと布団の中に入りながら、

「あの、」

「あ?」

「今の、鳴海?って人は気をつけたほうが良いって、伝えて」

「何だと?」

「異能者は、異能者をひきつける、から」

「いのうしゃ?何だよ、それ、」

だが朔は途中で力尽きたのか、俺の知りたいことを説明せずに意識を落としてしまった。

・・・・・・・・一体なんなんだ。

俺は携帯を手に取ったが、鳴海はまだ宝生と一緒にいるだろうから、もう少し後で連絡を取ろうと決めた。








大学時代の後輩、鳴海には何か秘密があるようです。友人である宝生は蚊帳の外ですね(笑)

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