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26、囚われた朔

暴力表現が後半に入ります。

微々たるものですが、ご注意下さい。



そしてお久しぶりです・・・・。

・・・・・俺がその電話に気付いた時、売店で店員からつり銭を貰っていた。

「ありがとうございましたー」

俺は店員の挨拶を聞きながら、売店を出ると一度正面玄関から外へ出た。携帯を出し、誰からだろうかとディスプレイを見れば、“宝生”の文字。

「もしもし?」

朔に何かあったのだろうかと頭の片隅では思ったものの、そんな大事ではないだろうと高を括っていた。だが、

『しょ、笙汰、大変だっ!!』

聞こえて来たのは、今までにないくらの宝生の切羽詰った声で。

俺は一気に嫌な予感が膨れ上がるのを感じた。

「・・・・何があった」

『朔君・・・朔君がタクシーの運転手に攫われたんだ!』

タクシーの運転手、だと?

俺はてっきり朔の兄貴か、あの春樹とかいういけ好かない優男かと思ったのだが。

何故にタクシーの運転手なのだろう。

『普通にタクシーに乗ってたら、その運転手がいきなり銃を出してきて、朔君を置いて俺だけ外へ出ろって!』

「・・・・・・・」

『朔君、運転手がどんな奴か知ってるような感じだった。自分は良いから、俺だけ逃げろって』

・・・世界を壊す、といった春樹たちの仲間なのだろうか。

それなら朔が知っているのも頷けるが。

「それで、場所は」

宝生が矢継ぎ早に言った地名は、俺がいる病院のすぐ近くだった。

『笙汰どうしたら良い!?』

俺に言われても困る。闇雲に探したところで、そのタクシーを発見できる可能性は限りなく低い。

朔の泣き顔が一瞬脳裏を過ぎる。

「何処のタクシーだ?ナンバーは覚えてないのか?」

『そ、そうだ!ナンバーは覚えてる!』

駄目元で訊いてみたところ、思わぬ返事が来た。

『どうしよう!警察に言うべきだよなっ!?』

宝生の勢いにつられて頷きかけた俺だったが、朔の出自の不明瞭さに気付いてすぐに返答が出来なかった。

『笙汰?』

「・・・警察は、駄目だ」

思わずそう言っていた。宝生が電話の向こうで素っ頓狂な声を上げる。

『それ、どういうことだよ!お前、朔君が心配じゃねえのかよ!?』

「兎に角、警察は駄目だ」

『だから何で!?』

「・・・そのタクシーの会社と、ナンバーを教えてくれ」

警察が駄目なら・・・・

『お前、どうする気だ?』

「良いから教えろ!!」

思わず怒鳴ってしまい、近くにいた通行人の注目を集めてしまった。だが今はそれどころではない。

「宝生!」

『わ、分かったよ』

俺の気迫に呑まれたのか、宝生が不承不承といった感じながらも、タクシー会社とナンバーを教えてくれる。

俺はそれらを頭に叩き込むと、何も言わずに電話を切った。電話をジーンズのポケットにねじ込み、鳴海がいる病院を見上げる。

(鳴海、ごめんな・・・)

もう少し一緒にいると約束したのに、破ることになるのが苦しかった。だが、

(また後で、来るから)

心の中で新たな約束をして、俺は駆け出した。







頭が痛い。

「う、ひぐっ・・・」

宝生には殺されることはないと言ったものの、然したる自信がある訳ではなかった。

だけど、そうとでも思わないと心細さと不安に支配され何も出来なくなってしまいそうだから。

「こうもうまく行くとはな」

宝生を降ろして暫く走った後、運転手は若い男を拾った。

そいつはひょろりとした長身の男で、朔の横に座ってからずっと、細い目の奥の粘着質な視線を、朔に送りつづけている。

朔は蛇に睨まれた蛙よろしく、その視線に絡め取られたまま身動ぎできずにいる。

不意に、男が朔の顎を掴むと、無理矢理顔を上げさせた。

「んっ・・・・」

「おやおや、色っぽい声を出すじゃないか」

男の手は生温く、気持ち悪かった。

「それに可愛い顔をお持ちで。女なら大した上玉だが、」

グッと、顕わになった朔の咽仏を空いている方の親指で押した。

「ぐっ・・・・、」

「これがついているから、男なんだよなぁ。残念」

ひひひ、と不気味な笑い声を上げて、朔から手を離す。

「う、げほ、げほっ・・・、」

身を守るように体を縮こまらせ、朔は必死に息を整える。

「なあ、餓鬼」

男に呼ばれて、朔はビクッと身を竦ませた。

「その眼帯の下にあるもの、“出せ”よ」

(え?)

全く予想もしていなかった事を言われ、朔は一瞬恐怖を忘れた。

「お前の眼帯の下に、穴が開いてるだろ?その中に入れた・・・いや、“入れられた”もんがあるだろ?そいつを出せって言ってんだよ」

男が何を言っているのか、朔には本当に分からなかった。

空っぽの眼窩に、入れられたもの?

「そ、そんなの・・・僕は、知らない、」

掠れた声ながらも、必死に朔は言うが、男と真正面から視線がぶつかってしまうと、蛇に睨まれる蛙に戻ってしまう。

「・・・もう一度チャンスをやる。四の五の言わず、出せ」

朔は首を左右に振ることで男に応えるが、

「っ・・・!!」

思い切り拳で頬を殴られた。ついで腕をグイッと引っ張られ、抵抗する間もなく男の腕の中に体を捕らえられてしまう。

「は、放して・・・・っ、」

どうにかして逃れようとするが、首元に男の腕が巻きついてきて、息をすること自体苦しくなる。

「んっ・・・、」

「俺はな、御覧の通り短気なんだよ・・・あまり怒らせんなよ」

「ほんっ、本当に・・・知らないっ、ひぃっ・・・!」

手と同じように生温い舌で、首筋を一舐めされ、ぞくりと身が震える。

「さっきは女なら上玉とは言ったし、俺はノーマルな人間だ。・・・でもな、」

「・・・・!!」

男の手が、朔の前を掴んだ。

朔が体を硬直させるのをせせら笑いながら、男が言葉を続ける。

「・・・・男でも出来ないことはねぇんだぜ?」

「・・・・・」

「どうだ?それでも、素直に言うことを聞くことは出来ねぇか?」

・・・そんなことを言われても、朔にはどうすることも出来ない。本当に知らないのだから。

だがこのままでは、確実に朔は男の慰み者にされるだろう。

(斗賀野・・・さん、どうしたら・・・どうしたら良いの?)

「どうしても、嫌みたいだな」

男が呆れたような、怒っているような、微妙な溜息を吐き出す。

前を掴む手に更なる力を込められ、朔は痛みに顔を歪めた。

「・・・仕方ねぇな。“あそこ”に着いたら、うんと可愛がってやる・・・体に聞いてやるから、そのつもりで」

首元に巻き付いていた腕と前を掴んでいた手を外され、朔はまた体を縮こまらせた。

涙を浮かべ、ぶるぶると体を震わせながら、ありもしないであろう“助け”を、必死に願った。

(斗賀野さん、助けて、助けて・・・・・・っ!!)








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