25、狙われた朔
お久しぶりな上に短いです。
でも事態は急展開を迎える・・・・筈です。
「ご馳走様でした」
「あらあらご丁寧にどうもありがとうございます」
宝生家の家政婦さんに挨拶をした後、朔は宝生とともに外へ出た。
「途中まで送る」
という宝生の言葉に甘えることにしたのだ。宝生家の周囲の土地鑑など一切無いからだ。
それに、一人で歩くのは流石にまだ恐かった。いつ陸に見つかるとも知れない。
「ていうか先に笙汰に連絡しとくわ」
「は、はい。お願いします」
笙汰は自分を受け入れてくれるのだろうか。こんな、身勝手な自分を。
「・・・・そんなに不安そうな顔しないでよ。笙汰なら、分かってくれるから」
宝生の気遣いが嬉しくて、また涙腺が緩んで来る。
「頼むから、笑ってろ」
「はい。ありがとうございます」
宝生が携帯を掛ける横で、朔はまんじりともせず立っていた。宝生には励まされても、やっぱり怖い。笙汰に拒絶されるのではないかと、不安で仕方ない。
(やっぱり僕は勝手だ。我が儘だ)
不安になればなるほど自分への嫌悪感も膨れ上がる。
「ダメだ、笙汰の奴出ない」
「え?」
「電波の届かない所にいるのかもな」
「あ………、」
それを聞いて、すぐに笙汰は鳴海の病室にいるのだろうと気付いた。きっと鳴海に付きっきりで居るのだろう。ならば鳴海のもとへ行けば会える。
「タクシーを拾えそうなところに連れて行ってもらえますか?」
「タクシー?それは構わないけど、笙汰の居場所が分かるの?」
朔がコクリ、と頷くと宝生も頷き返して歩き出した。
「・・・また、ユウタに会いに来てやってよ」
不意に発された宝生の言葉に、朔は
「え?」
と思わず問い返した。
「ユウタに?」
「あいつ、大分前からオレ以外の人間に懐かなくてさ。そのユウタが朔君にはあんなに懐いてさ。だから、ね」
「は、はい。僕でよければ」
「サンキュ。よし、じゃあタクシー探そうか」
「はい!」
二人は笑い合った。
「対象を発見。一般男性と一緒のようですが、どうしますか?」
『しばらく様子を見ろ。対象は恐らく先ほど添付した資料にある病院に行く筈だ。それまでに確保しろ』
「・・・・できなかった場合は?」
『お前の明日はないと思ってくれて良い』
「了解。最善を尽くします」
『健闘を祈る』
自分たちのすぐ傍で、そんな不穏な会話が成されていることも知らずに。
・・・・大分眠ってしまったようだ。
「・・・・む、」
俺は眠い目を抉じ開け、上体を起こした。鳴海は穏やかな寝息を立てて眠っている。
もう大丈夫かと、俺は安堵の息をついた。これで明日から心置きなく仕事へ行ける。
そう、行けるはずだ。
・・・・・・・・そう思うのに、何かが気がかりだった。その正体は分かっているのに、俺はそれを正視することが出来ないらしかった。
「斗賀野さん」
「!?」
その“正体”が声を発したような気がして、俺は思わず背後を振り返った。だがそこには誰もおらず、病室と廊下を隔てるドアがあるだけだ。
気のせい・・・だろうな。
俺はそう結論付けて、軋む体を捻りながら椅子から立ち上がった。少し食欲も出てきたし、一階の売店で何か買って来ようと思ったからだ。
俺は知らなかった。
このたった今、朔と朔に付き添っている宝生がどんな目に遭っているのかを。
宝生の父親は刑事だ。それがどれだけ凄いことで、大変なことで、危険が伴うことかは分かっているつもりだ。
だが、幾ら刑事の息子だからと言っても生で拳銃を見たことがあるとは限らない。
「な、」
訳が分からず、間抜けな声を出すことしか出来ない。
・・・・表通りでタクシーを拾い、病院名を告げた。
緊張している朔の横に座ってぼんやりと窓の外を見ていただけだ。
だが、いきなりタクシーは路肩に寄って停車してしまい宝生も朔もどうしたのだろうと怪訝に思った、その、瞬間だった。
運転手が身を捻って顔をこちらに向けたかと思うと、黒光りする拳銃を二人に向けたのだ。
朔がヒッとか細い悲鳴を上げ、宝生のシャツの裾を握った。
「お前」
宝生を顎で差し、運転手は暗くて低い声で彼に命令した。
「その餓鬼を置いて、外へ出ろ・・・死にたくなければな」
朔がぶるぶると震え、その顔は蒼白になっている。
「あんた、」
外を歩く人間は車内の異変には気付かないらしく、誰もこちらには気を配っていない。
「あんた誰だ。朔君の知り合いか?」
「良いから黙って出ろ。血を見たいのか」
それが威しでもなんでもないことは、運転手の血走った目を見れば分かる。宝生が下手な動きをすれば、恐らく発砲するだろう。
「ほしょ・・・さ、逃げ・・・て、」
朔は運転手の素性に検討がついているのか、じっと彼を見詰めたままで宝生に言う。
「でも!」
「僕は・・・平気、きっと、殺されることは・・・・ないから」
その根拠は一体何処から来るのか。
そう問い詰めようとした宝生だったが、ごりっと米神に銃口を突きつけられて体を硬直させた。
「早くしろ」
こうなったら、自分が外へ出るときに朔を無理矢理にでも引っ張って連れ出すしかない。
だがそんな宝生の考えを見抜いたのか、不自由な体勢にも関わらずいきなり運転手が銃の柄で朔の側頭部を殴りつけた。
「あうっ!!」
「朔君っ」
朔が背にしていたドアに後頭部を強打してしまい、ズルッと崩れ落ちた。
「言う通りに、大人しく出ろ。じゃないと・・・・」
その先を聞くのは恐かった。
「分かったから、朔君にそれ以上手を出すなっ!」
宝生は自分でドアを開け、外へ出た。運転手はそれを見届けると、ドアを自動で閉めて車を急発進させた。
ぐったりとした朔を乗せたまま。
「くそ!」
宝生はタクシーのナンバーを必死に頭に叩き込むと、携帯で笙汰にコールした。
(朔君・・・・・っ!)
いかがでしたか?
次回は出来るだけ早く投稿できるよう頑張ります!