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20、ナミダ

今回はちょっと短めです(汗)

「・・・くん、」

誰かの声がする。何と言ってるんだ?

「斗賀野君・・・・!!」

「!!」

頬をバシンッと叩かれて、俺はその衝撃で目を覚ました。

「良かった、やっと起きた」

章介さんがホッと安堵の溜息をつく。

「え、俺・・・・・・っ、」

ゆっくりと上体を起こすと、腹に鈍い痛みが走った。体もがちがちに強張っている。

「吃驚したよ。病室に戻ってみたら、君は床で伸びてるし、朔君の姿もないし、」

朔の姿がない?

「あの、馬鹿っ・・・・・・・・!!」

小さく毒づき、俺はベッドから出ようとする。だが章介さんに腕を掴んで止められた。

「斗賀野君、何処に行くんだっ!?」

「・・・・決めない、ですけど、朔を迎えに、」

分かってる。朔は自分の意志で俺の前から姿を消した。

意識を失う前の、朔の様子を思い出す。何度もごめんなさいと謝罪をしながら、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしていた。

「迎えに、って」

戸惑う章介さんの腕を退けようとしたが、

「・・・・い、」

鳴海の声がして、俺は思わず動きを止めた。

・・・そう言えば今何時だ?

「章介さん、今、」

「あ、あぁ、朝の五時だよ」

・・・・・・・・道理で周囲が明るい訳だ。

俺は一体何時間意識を失っていたんだ?朔は、何処に行きやがった?兄貴やあの春樹とかいう男の元に戻ったのか?

「せ・・・ぱい」

鳴海の声がまた聞こえた。病室の外に向かっていた爪先を、

「・・・・・おはよう、鳴海」

鳴海の眠るベッドの方へと、向けた。









その頃、笙汰を気絶させて鳴海の病室を飛び出した朔は体をぶるりと震わせて眼を覚ました。

場所は児童公園にある一つのベンチ。

朔の目覚めとともに、近くの地面を歩いていた雀がちゅん、と鳴き声を上げて飛び立った。

「・・・・・っ、」

微かな眩暈を感じて、朔は俯く。

自分は一体何をやっているんだ、と思う。

何がしたいのか、分からない。

自分には行く場所なんてないのに、どうして笙汰のもとを離れたのか。

彼と居れば当面の衣食住には困らないのに。

(・・・・駄目だ、もう誰も巻き込まないって決めたじゃないか)

鳴海の病室で誓ったことが既に揺らぎ始めている。

朔はギュッと拳を作る。弱い自分が嫌だった。もっと強くなりたい。もっと、もっと。

「・・・・っく、」

もっと強くなりたいと願う程に、何故か泣きたくなって朔の瞳からは涙がぼろぼろと零れ出す。

「どうして、泣きたくなんか、ないのに、」

そして頭に浮かぶのは、自分のせいで重傷を負ってしまった鳴海の寝顔と、陸から自分を救ってくれた笙汰の顔。

「斗賀野さん・・・・・」

酷く自分勝手だと思う。自分から離れたのに、ものの数時間で寂しくなって泣いている。

笙汰が迎えに来てくれないだろうかと願っている。期待、している。

叶うわけのない願いを、願っている。

「おや、何を泣いているのですか?出来そこないが」

不意に背後から聞こえて来た笑みを含んだ声に、朔はビクッと身を震わせた。

「お久しぶり、ではないですね。朔君」

「・・・・・・・」

恐る恐る振り返りかけた朔の首根っこを、ひやりと冷たい手が押し留める。

「振り返る必要はありませんよ。恐いものは見なくて結構です」

「・・・・・はい」

素直に返事をすると、声が小さく笑みを漏らす。

「素直で宜しい。さて・・・何故泣いているのですか?私が折角外の世界に出してあげたというのに、何を悲しむことがあるのです」

「そ、それは、」

・・・・以前から、この声の持ち主の質問には素直に答えることが多かった。

何故か素直になってしまうのだ。

だが今度ばかりは素直に言葉に出すことが出来なかった。

「おや、素直な朔君にしては頑なですね?」

手が首根っこから離れる。

ホッと息をついたのも束の間、背中に何かゴリッと押し当てられる感触がして体を強張らせる。

「此処で殺してあげてもいいのですよ?出来そこない君」

「・・・・・っ、」

「あなたは陸君と違って素直なのが美点なのですから、素直でありなさい。それに私はあなたのいわば恩人です。恩人の問いに応えられないとはどういう所存ですか」

恐い。

陸とは違う意味で恐い。

足元をじわじわとにじり寄り、ゆっくりと体を這い上がってくるような、

「・・・・・・・寂しい、」

「ほう?」

「寂しいんです、」

口にしたら一気だった。

えもいわれぬ感情がこみ上げてきて、朔は声を上げて泣き始めた。

「そうですか、寂しいんですか」

「さび、寂しいっ。・・・・・自分から離れたのに、自分から逃げてきたのに、なのに、なのに僕はっ・・・・・」

「求めてしまう」

朔は何度も頷く。

「僕を探しに来てくれるんじゃないかって、ご飯だって言って僕を呼びに来てくれるんじゃないかって、そんなわけないのに、願ってる。そうであって欲しいと望んでる」

笙汰は来ない。それは朔が嫌いだとか朔が自分の意志で去ったから、という理由ではなく、きっと。

朔が鳴海という笙汰にとって大事な後輩を傷付けたから。

たとえ直截的にではなくても。

「来てくれる、とは思えない?」

「無理、無理です。僕は、あの人の大事な人を傷付けたから、」

溢れる涙は止まることがない。

朔はただただ泣きつづけた。

いつのまにか背後にあった存在がいなくなっていても、ただ一人で泣き続けた。











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