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プロローグ:俺と少年の出会い

俺がその少年を拾ったのは、外界が雨にけぶる梅雨のある夜だった。大学を卒業後、本屋で社員とアルバイトの間に位置する準社員というものになってから、凡そ一年が経とうとしている頃だ。

「今日もご苦労様。最近変質者が多いみたいだから気をつけて帰れよ?お前ちょっと女っぽい顔してるからな」

そう言って仲の良い男性社員に見送られた帰り道。最初の頃は女顔とからかわれる度に噛み付いていたが、思えばそんなことは小さい頃からあったので、何を熱くなっていたんだと思うようにはなっていた。

「あ?」

俺は昔からある一点が欠落していると言われていた。それは、“異常”に対する警戒心、もとい“死”に対する恐怖感。だがそれは俺だけに限ったことではないだろうと思う。この広い世界では、俺みたいな人間は掃いて捨てるほどいるはずだ。

「あれは、人間・・・?」

俺が仕事を終えて家路につくのは、大抵十二時を過ぎている。仕事に入るのが午後二時半からで、終業が十一時半。それから少し後処理やらなにやらを済ませるから、日付が変わる前に店を出ることは殆どと言って良いほど無い。

「・・・・・・・・」

いつも近道と称して通る道は、公園というのがおこがましいくらいに小ぢんまりとした児童公園と公民館の間にある大した幅の無い土の地面で出来ている。雨でぐっしょりにぬかるんだその道に、恐らくまだ中学生くらいの少年がぐったりと倒れこんでいたのだ。

俺はそっと近付き、

「寝てんのか?」

とまずありえそうに無い言葉を少年に掛ける。少年は一切反応しない。真逆死んでるのか?そうは思ったが、それを恐いとは感じなかった。

ふうん、死んだのか。それはそれは大変だな。そうとしか思えない。

「・・・・・・・・・ん?」

そこで俺はあり得ないことに気付く。

「裸・・・?」

少年はどうやら裸身のようだった。ボロボロの毛布を纏わりつかせてはいるが、下は素肌が覗いている。しかも目に見える範囲だけで、ナイフか何かの刃物で付けられたような切り傷が幾つもあった。

「眼帯、」

少年は右眼に眼帯をしているが、雨に濡れそぼったそれは全く眼帯として機能しているようには見えなかった。何故かその眼帯が気になって、俺はそっと指を伸ばした。早くこの少年を介抱してやらねば、とか、関わったら危険だ早く逃げようとかいった危機感とかも、一切起こらなかった。ただこの少年に並々ならぬ興味があった。

「・・・・・・・へぇ」

何の感嘆の声かは分からないが、俺の口はそう呟いていた。

少年の、眼帯の下。そこには本来あるはずの眼球といったものはなく、真っ赤な眼窩が覗いているだけだった。気持ち悪いといった思いは一切浮かばないまま、俺は眼帯を元に戻した。

俺は少年をどうしようか、と考える。どうやら生きてはいるらしいことは、ほんのりと温かい少年の体が証明している。だがこのまま雨に打たれた状態のまま放置したら、翌朝には生きていないかもしれない。梅雨で蒸し暑いとはいえ、最近は雨の降った翌朝は底冷えすることが多い。少年に体力如何によって生存率は変わってくるだろうが、

「・・・・・なんか楽しそうだな、」

別に今の生活に不満を持っているとか、自分から異常に足を突っ込んでスリルを味わいとか、そういう気持ちが沸き起こったわけでもない。ただ単に、少年に興味があっただけだ。しかも明日は連勤明けの二連休の初日。することがあるわけでもなし、どうやって暇を潰そうか決めあぐねているところだったのだ。

「取って食ったりしないから、安心しろな」

俺は細い少年の体を、自分の服が汚れるのも構わずに背負った。余りの軽さに、面白くて俺は一人笑った。





これが、俺と少年ー来栖朔(くるすさく)の出会いの顛末である。この俺の気まぐれがこの後どういう展開を見せるのか、もしこのとき知っていたら俺は朔を放っておいただろうか。

いや、と思う。それでも俺は朔を拾ったに違いない。

どうやら俺には、“異常”に対する警戒心や“死”に対する恐怖心が欠落しているらしいから。








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