第21話 そういえば親父も言ってたっけ。物事を多角的に捉え、俯瞰しろって
俺は今、夢の中に居た。
いや、正確には夢などでは無い。ついこの間も訪れたばかりの神達の空間と俺が呼んでいる場所だ。
ハイカキンであるオーガを倒したので、多分来るだろうなとは思ってたが、案の定である。
「僕を解放した人物を見に来ただけなんだけど、この空間で自我を持っていられるなんて凄いね」
なんだろう、この爽やか系イケメンボイスは。初めて聞く声だ。ってしまった!この空間じゃ俺のイメージから姿が形付けられるんだった。
って事はもしかして……。
「初めまして。僕の名前はジェンティリンス。知識を司る神だよ」
俺の目の前に居たのは金髪碧眼の超絶美形男子。ローマ帝国時代っぽい純白の布みたいのを纏っただけの姿で、優雅に紅茶なんて飲んでいる。
「うん。やはりこうして面と向かっている方が話しやすいね。君も1杯どうだい?」
いつの間にか丸いテーブルと椅子が2脚あり、テーブルの上に置かれたカップからは湯気が立ち昇っている。
もうこの空間にも慣れた俺は、イケメンの言葉に甘えて、椅子に腰掛ける。
カップに入った紅茶を一口啜ってから俺は尋ねる。
「んで、あんたも神様の1人らしいけど、俺に何か用か?」
さっき解放したとかどうとか言っていたけど、その意味も分からない。
「そうだね。簡単に説明すると、僕はゴルドーに、いや正確にはゴルドーの信徒の1人に倒されて、オーガの中に封印されてしまっていたんだ」
つまりそのオーガを倒したから封印が解かれて、俺に礼でも言いに来たって所か。
「うん、理解が早くて助かるよ。改めてありがとう」
「いや、封印が解けたのは結果論だし礼なんていらないよ。それとゴルドーに封印されてたって事は、あんたもジジイや猫耳と同じ反ゴルドー派の神って事でいいのか?」
猫耳女神とジジイの顔を思い浮かべながらなので、名前を言わなくても通じるだろう。
だがもしこれで違ったら、俺の存在がゴルドーにバレてしまう。けどなんとなくだが大丈夫な気がするので、こういう尋ね方をしたのだ。
するとイケメン神は優雅に紅茶を啜ってから口を開く。
「元々僕は中立の立場で誰であろうと知識の加護を与えていたんだ。けどわざわざ封印したという事はゴルドーにとっては、僕が人々に与える知識というのが金銭神の信仰を揺るがしかねないものになり得ると思われたんだろうね。再び中立に戻ったとしても、またゴルドーに封印されてしまうのは目に見えている。だから僕もマータイやディティニスに同調して、君に協力する事にするよ」
神殺しとは言われていないハイカキンであの強さだ。味方は1人でも多い方が良い。
「うん、流石、あの偏屈で有名なマータイが認めただけの事はあるね。魂の強さも十分に余裕があるし、ゴブリンやオーガを倒して加護の力もかなり底上げされているから僕の加護も受け入れる事が出来るだろう」
イケメン神は掌に白い光を集めると俺の頭に押し込んで来る。
すると頭の中にイケメン神から授かった加護の名前が浮かび上がってくる。
「君に授けた加護の名は“神格検智”。自分や相手の持っている加護を知る事が出来る」
試しに俺自身に対して使用してみると、持っている加護の名前が表示される。
うん、まぁ、思った通り名前が表示されるだけで、流石に内容までは分からない。
ああ、分かっていたさ。きっと力が増していけば性能も増していくって言うんだろ?
「あはははっ、分かっているようで何より。今の僕の力じゃこれが精一杯」
ただ内容が分からなくても、名称が分かるだけでも随分違う。
先の戦いで作戦を立てる為に多くの人から加護の事を聞いて回った結果、“運命砕断”のように、強力な加護ほど厨二病的な名称になっているので内容は把握出来なくても警戒は出来る。そして“運気吸収”のように一目でどんな内容か分かるものも多かった。
未知の相手に奥の手である加護の存在を知れるアドバンテージは大きい。
目が凄く良いキャロさんに渡したいくらいだ。
「あ、そういえばまだ加護を持ってない人物に加護を授けるって事は出来る?」
俺がこの世界に足を踏み入れた時のような事が出来れば、ユカリさんとミサキさんにも加護を渡せるんじゃないかとふと思う。
「無理だね」
間髪入れず完全に否定されてしまった。
「君がゴルドーに連なる神以外とコンタクト出来たのは、君が複数の加護を同時に操る事が出来るほど特別に魂の輝きが強いからなんだよ。だから力の弱まっている神でも君の存在を見つけることが出来た。けれど普通ならばアスガリアを手中に収めて管理しているゴルドーの許しが無い限り、他の神が君の友人達に加護を授ける事は出来ない」
普通ならば、という事は何か方法があるという事か?
「その通り。簡単に言えば、今回のように神が封じられているハイカキンを、まだ加護を持たない人物が倒せばいいんだよ。加護の力を最も多く受け取った者に力を貸すという事さ。まぁ、君のように複数の加護を扱える人間か、加護を持たない人間にしか貸そうと思っても力は貸せないけどね」
簡単に言ってくれるけど、それがどれほど難しい事か。
「でも君の力を駆使すれば不可能な事じゃないはずだよ。“神格検智”が強化されれば、ハイカキンに封印された他の神の存在も知る事が出来るようになるはずだしね」
モンスターを倒した際の加護の吸収は“運気吸収”で効率的に行えるようになったし、実はこの効果は俺以外に2人まで指定する事が出来る。なので当然、ユカリさんとミサキさんを指定している。これで2人の成長速度も増すだろう。
この効果で成長させつつ、“神格検智”で封印された神を探し、ユカリさんかミサキさんに“運命砕断”を付与した武器を与え、止めを刺させる事が出来れば、確かに不可能な事じゃない。
難しい事に変わりは無いけど。
「さて、そろそろ時間のようだね。今後の君の活躍を期待しているよ」
イケメン神はそれだけ言うと、俺の目の前から姿を消す。それと同時にこの空間も消え始める。どうやら俺の方も目覚めが近いみたいだ。
「しっかし、いくら直接的に手を下す事が出来ないからって、この世界の神様は異世界人を頼り過ぎじゃね?」
だがよくよく考えれば、ゴルドーの支配する世界になったのも、元々は人間の欲が原因だ。
神が直接動けないという事は、その信徒である人間が行動した結果が今の世界になっているという事だ。
たまたまゴルドーの信徒が他の信徒より強くなったから支配権を得ただけに過ぎず、ゴルドー自身がそれを望んでいたとは限らない。
イケメン神の封印だって、ゴルドーが直接封印を施した訳ではなく、その信徒であるハイカキンの行いである。俺のように強い魂を持っていなければ神との対話も出来ないらしいので、指示されたとは考えにくいので、あのイケメン神を封印したのはハイカキンの独断と考えるべきだ。
支配されたり封印されたりする側にとっては、ゴルドーに恨みを持ち、反感を持つのも当然と言えるだろうが、一概にゴルドーが悪いと決めつけていいものだろうか?
この世界の共通通貨はGでその単位名が示す通り、ゴルドーによる恩恵だ。これは分け隔てなく誰でも使う事が許されている。
もしゴルドー自身が反感を持つ神やその信徒を根絶やしにする気があるならば、自分に従わない者に対して通貨を使えなくするだけで十分だ。
だがそれを実行していないのは、それが直接的干渉になるからなのか、それともそのつもりが無いからなのか。
「一方の見解だけで決めてしまうのはナンセンスだよな」
オーガの一件だってそうだ。
オーガにとってみれば縄張りを荒らされたから対処しただけの話であり、俺がオーガの1匹を殺し、腕を斬り飛ばしたから、その仕返しに来たに過ぎない。
そういえば親父も言ってたっけ。
物事を多角的に捉え、俯瞰しろって。
そんな言葉を思い出している内に俺は夢の世界から現実の世界へと戻っていくのであった。
* * * * * * * * * * *
入院生活も終わり…というか、3人が毎日のように見舞いに来てたり、今回の件でEクラスのクラスメートがお見舞いついでに謝罪に来たり、他のクラスや先輩達まで来たりで、ほぼ毎日のように俺の病室は大騒ぎで、隣の病室から苦情が来たせいで数日前倒しで退院させられてしまったのだ。
一応、夏休みの間に何回か通院するように言われているが、経過を診るだけなのでどうという事も無い。
そして夏休みも後僅かとなったある日。
俺はパーティーメンバーである3人に、新たな加護を手に入れた事とその入手方法を教えていた。
ちなみにキャロさんにはこれまでの事を掻い摘んで全部話した。
「…なるほどでゴザル。そういう理由でゴザったか。やはりミーが認めた主殿でゴザル!複数の加護を同時に操る事が出来るとは流石でゴザル!!」
「とりあえずキャロさんは信用出来ると判断したから伝えたんであって、決して他言しないように」
「ミーの忠誠心を侮らないで貰いたいでゴザル!!主殿の命ならば、この事実は墓場の中まで持っていくでゴザルよ!!」
秘密を共有出来たからなのか、それとも命令を受けたからなのか、キャロさんの犬頭の目がキラキラと輝いている。もし尻尾があったら勢い良く振られているに違いない。
「それにしても加護の力の蓄積と神様の解放ですか……。確かにあの戦い以降、身体が軽くなって動きにキレがましたような気もしますし、以前より疲れにくくはなった気もします」
“運気吸収”の効果は正しく吸収の名の通り、俺達が倒していなくてもある程度近場に居ればその恩恵は得られる事が分かっている。
オーガに止めを刺す際に力が僅かに戻ったのは、あのタイミングでホブゴブリンが倒されたからであり、2回目の“運命砕断”で失い掛けていた意識がはっきりと戻ってきたのは、オーガを倒した際の吸収が間に合ったからだ。
「う~ん、アタシはあんまり実感湧かないんだけど、強くなってんのかな?」
いくら力を吸収して身体能力が上昇するといっても、吸収量は微々たるもの。上がっていても雀の涙程度だろう。微妙な差異が分かるのは、自身の全力全開の身体の動かし方を熟知しているユカリさんくらいなものだろう。というか今のままでも加護持ちに匹敵する運動能力を持っているというのに、彼女が加護を手に入れたらと思うと末恐ろしい。
「まっ、そっちに関してはいずれ実感出来るだろ。それで今後の方針なんだけど……」
2学期からは本格的に外周探索授業が組み込まれる。
特別授業では俺達はギリギリの最低ランクで安全圏内しか探索出来ない筈だったのだが、先のゴブリン掃討戦での事が評価され、ランクアップを果たす事が出来た。だがはっきりといってこれにはあまり意味が無かった。
なぜならオーガが倒された事で大森林のモンスター分布に変化が起きたせいだ。
今までオーガに怯えるだけだったゴブリン族はその数を激減はさせたが、その勢力を少しずつではあるが広めている。ジャイアントアントを始めとしたアント族にはジャイアントクイーンアントという最上位種が生まれ、大森林の外からやってきたというモグールドラゴンという見た目が巨大なモグラというモグラなんだかドラゴンなんだが分からない奴と地下の覇権を争っているという。
その他にも二足歩行する犬のコボルド族や、同じく二足歩行の豚であるオーク族なんかの姿も目撃されるようになっていた。
安全圏と言われていた地域にもモンスターの出現率は増えており、もはや安全とは言えなくなってきている。
「まずは着実に力を付けていく事だと思いますね」
「うん。俺もユカリさんと同じ意見だ」
「あれ?でも神様が封印されているかもしれないモンスターを探すんじゃないの?」
「そうしたいのは山々だけど、まず“神格検智”が強化されないと神が封印されているか見つけられないし、見つけたとしてもそのモンスターは多分、封印を簡単には解かれないように、最低でもオーガくらいの力は持っていると思うんだ」
「そうなると現状では主殿以外に太刀打ちする術が無いでゴザルな。オーガは力任せしかしてこなかったでゴザルから、ミー達の援護でもなんとかなったでゴザルが」
オーガがもしもっと速かったり、魔法系の加護を使ってきたり、絡め手で攻めて来ていたなら、結果は変わっていたに違いない。
「って訳で今後の方針はパーティー全体の戦力アップ!どんなに弱いモンスターでも倒せば力になるんだから、なるべく無理しないで安全をモットーに!!」
「アハハハッ、胸を張って言うような事じゃ無い気がするけど~」
「ですがこの間のように酷い怪我を負って辛い気持ちになるよりはマシですね」
「ミ、ミーだってやる時はやるでゴザルよ!でも確かに怪我しない事に越した事は無いでゴザル。何せミーでは怪我は治せないでゴザルからな」
こうして俺達は2学期に向けての方策を夜が更けるまで続けるのだった。
これにて第1部は終了となります。
そして一区切り着いたという事で一旦この物語はここで終了したいと思います。
ご要望があれば再筆したいと考えていますので、ご要望頂ければ幸いです。
次作は1週空けて3/23の0時に投稿予定ですので、もし宜しければそちらもご覧頂ければと思います。
それではここまで読んで頂きありがとうございました。
そして今後も宜しくお願い致します。




