第20話 リストの中に避暑地の別荘とかあるんだけど……
「蓮城くん、入りますよ」
宗村先生が俺の病室に入ってくる。その手にはフルーツの盛り合わせの入った籠を持っているのでお見舞いに来てくれたのだろう。
「はぁ~。男女交際を咎める気はありませんけれど、まだ学生の身分でこういうのはどうかと思いますよ」
「あ、いや、先生。これは彼女達が勝手にやっている事であって、別に俺の趣味じゃ……いや、まぁ、嫌いでは無いですけど」
俺は左右から突き刺さる視線の前に屈し、素直に認めてしまう。
ちなみに俺が今居る場所はバルバラの街にある病院である。
案の定、俺の肋骨は5本ほど折れていて、強い衝撃によって肺や胃にもダメージを受けていたので、入院する事となったのだ。
折れた肋骨が内臓に刺さらなかったのは幸運だというのが主治医の先生の言葉だが、最近はよく幸運という言葉を耳にするので、きっと“運気吸収”のおかげなのだろう。
そしてそんな俺の左右には2人の看護師が寄り添っている。といっても正規の資格を持つ看護師では無く、ただのナースコスプレをしているユカリさんとミサキさんである。
当然の如くミサキさんの仕業である。
そんな格好の美少女2人に、ウサギの形にカットされたリンゴを食べさせて貰っていれば、先生が呆れるのも当然だ。
「え、え~っと、それで何かご用でしょうか?」
「あっ、そうでした。あまりの事に用件を忘れる所でした」
宗村先生は見舞いの品をミサキさんに預けた後、ここに来た用件を話し始める。
「本来なら結城くんの傷が癒えてからと思ったのですが、思ったより元気そうですので、明日の午前10時に校長室までパーティーメンバー全員で来て頂けますか?校長直々にお話があるそうです」
本来なら全治数カ月の大怪我なのだろうが、治癒の加護による応急処置と病院での加護による手厚い治療のおかげで、既に折れた肋骨は繋がり始めているし、内臓の傷や外傷はもう殆ど完治している。
念の為という事で今週末までは入院する事になっているが、一時的な退院くらいなら許してくれるだろう。
それに校長直々にという事は今回の件で街を守った事に対して褒賞でもくれるのかもしれない。別に賞状とか感謝状なんかは要らないが金一封とかあると凄く助かる。
今回のトラップ作製において俺は全財産を材料費に使ってしまった為、無一文なのだ。
病院の治療費は学校持ちなので気にする必要はないが、親父からの仕送りは月末なので、それまでの生活費が無いのは困る。
ユカリさんとミサキさんは俺の事を養ってあげるなんて冗談めかして言っているが、流石にヒモ生活は男としては避けたい所。
「分かりました。明日伺います。それとわざわざお見舞いありがとうございました」
「いえ。担任なのに力になれませんでしたから、このくらいはしないと気が済まなかったものですから」
実戦担当の教師では無いのだから仕方がないと思うのだが、どうも宗村先生は責任感が強過ぎるような気がする。
今回の事も俺が勝手にやった事だし、死者も出ていないのだから、責任なんて感じる必要も無いんだけどなぁ。
「あ、それから夏休みだからといってあまりハメを外さないようにして下さいね。学生なんですからちゃんと避妊するように」
「って、ちょっと待ったぁぁ!!!俺達そういう関係じゃないし、そもそも教師が言う言葉じゃないだろっ!!!!」
俺の叫びを無視して、宗村先生は病室を出ていく。
微妙な空気が流れる中に取り残される俺達。
「えっと、その…そういうのはけけけ結婚してからというのが…あの…その……」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせながらも上目遣いでチラチラと俺の方を見るユカリさん。
「アタシならいつでもOK!うふふっ、それとも今からする?」
小悪魔的な笑みを浮かべ、小さな膨らみかけを俺の腕に押しつけてくるミサキさん。
「流石は主殿。英雄、色を好むとはよくいったものでゴザルな」
いつの間にか窓枠に腰掛けているキャロさんが楽しそうな口調で俺の事をからかってくる。
「ユウキさんなら未来の伴侶として相応しいと思っていますから……」
「ねぇ、ユウキ~。我慢は身体に良くないって言うし~、ほらほら~」
「ミーの事なら空気と思って下されば良いでゴザルぞ。だから遠慮無くどうぞでゴザル」
三者三様の言い分で騒ぎ始める。
「だぁぁぁぁ~~~~!!!!!何を期待しているか知ってるけど知らねぇし、俺にそんな気はねぇ~~~!!!たまには静かに休ませろぉぉぉぉ~~~~!!!!!」
俺の絶叫が病院内にこだまするのであった。
* * * * * * * * * * *
翌日。
俺達は張り詰めた空気が充満する校長室に居た。
俺達4人の隣にはフラグブレイカーことフラブレ先輩もいる。
これは確実に先日のゴブリン襲撃の件についてだと分かる。
奥の扉が開き、1人の壮年だがガタイの良い男性が入ってくると、部屋の中の緊張は最大に膨れ上がり、部屋の気温も数℃下がったように感じられる。
目の前の人物がオーガなんかよりも恐ろしい存在だと魂が理解する。それだけの威厳と貫禄と実力を兼ね揃えている人物。それがこの原々高戦の校長という存在である。
入学式の時に壇上で挨拶していたはずだけど、その時はかなり離れていたし、俺の方もあまり注目もしていなかったの気が付かなかったのかもしれない。
「全員、顔を上げるが良い」
校長の言葉に俺は思わずハッとして顔を上げる。どうやら俺は完全に無意識の内に校長に向けて頭を下げていたらしい。
「君達が今回のゴブリンの襲撃に対し指揮を取り、オーガを足止めしていたという1年生のパーティーの諸君だね?」
「…は……は…………い………」
緊張のあまり喉がカラカラで上手く声が出せず、俺は声を振り絞りながら、ゆっくりと頷く事しか出来ない。というか顔を上げたにもかかわらず、俺の視線は下を向いたままだ。もし校長の顔を真っ直ぐ眺めたら、その視線だけで射殺されそうだったからだ。
きっとこの強者の風格を持つ校長がいると知っていれば、オーガなんてこの街に近付いて来なかったんじゃないだろうか。
「私が出張で不在の間にゴブリン共からこの街と多くの者を救ってくれた事を感謝する。後で褒美を与えよう」
「…あ…ありがとう……ございます………」
校長の威圧感はともかく、やはり褒美が貰えるようだ。それだけでこの場所に来た甲斐はあった。その内容に少しは期待したい所だ。
「そしてそちらの君が最後にオーガを討ち取ったという者だね?」
「は、はい!そうであります!!この3月に卒業したばかりの立旗と申します!!」
しっかりと声が出せる分、俺よりは状態は良いようだが、フラブレ先輩も相当に緊張している様子だ。それにしても名字までフラグを立てている先輩だったとは恐れ入る。
けど卒業して間もないのに引退を考えたのかよ!
うん、まぁ、それもフラグの1つだったんだろうなぁ~。口を開けばフラグを立て、それを次々とぶち壊してるような先輩な訳だし。
「今一度確認するが、本当にオーガを倒したという事で良いんだね?」
「はい、間違いありません!僕の端末にしっかりと討伐数が表示されていますので!」
モンスターの討伐数は倒した際に近くに居た人物の携帯端末に登録される。多分、加護に還元される際の光の粒子の一部を取り込んでいるんだろう。
本来なら最も近くに居て、実際に倒した俺の携帯端末に登録されるのが普通なのだろうが、あの時は俺の携帯端末はオーガによって壊されていて登録出来なかったのだろう。それ故に次点で最も近くに居たフラブレ先輩の端末に記録されたという訳だ。
加護を持っていない一般人のはずの俺が倒したという事になるよりは断然に良い。うん、きっとこれも“運気吸収”のおかげだ。
「そうか。アレを本当に倒してしまうとは……退けるだけで良かったのが、困ったものだな」
本来なら縄張りに入らなければ無害だし、新入生殺しにも利用していた都合の良いモンスターだったから、別のモンスターを探さなければいけないので困ってしまったのだろう。
けど仕方がないじゃないか!
あのオーガの目的は完全に俺だった。つまり俺が殺されない限り、あいつは自身の縄張りに戻る事は無かっただろう。
しかも加護に残量がある限り復活する事を知っていたはずだから、俺の完全な死亡を確認出来るまでは暴れ回り続けたはずである。
手傷だけ負わせて逃がしたら、傷を癒し、更なる力を手に入れて再び侵攻してきたに違いない。
結局のところ、殺らなきゃいけなかったのだ。
だから仕方がなかったのだ。
まぁ、フラブレ先輩のおかげで俺の責任では無くなったのでラッキーラッキー。
「困った事などないでしょう!これまで誰も倒し得なかった大森林の王の討伐に成功したのですよ!これでこの大森林は完全に我ら人間のものになったわけですから、もっと褒められるべき事柄では無いのですか!?」
まぁ、先輩としてはオーガを倒したという栄誉と褒美が貰えると思っていたはずが、全くその逆の反応を示されれば、ついそう言ってしまうのも仕方がない。
「ただの強いモンスターを討伐した、というならば問題は無かったのだが、オーガとなると話が変わってくるのだ。アレはこの大森林を支配するハイカキンの1人であり、守護者だったのだ。アレがこの地に居たからこそ、他の地域のモンスターは近付かず、アレには脅威とはならない弱いモンスターしかこの森には存在しなかったのだ。故にこのバルバラは最も安全な街と言われ、探索者を養成するこの学校が設立されたのだ」
話が読めてきた。
便利に利用出来たモンスターだから困ったという訳ではなかったらしい。いや、それも理由の一つかもしれないが、一番の理由は抑止力だった訳だ。
オーガというハイカキンが支配する地域の支配者がいなくなれば、当然、その支配権を求めて、周囲のモンスターやハイカキンがこの大森林を自身の支配地域にしようとやってくるだろう。
その結果、モンスターの生息分布も変わるだろうし、新しい支配者によっては街の安全も保証出来ない。
俺としては校長が新しい支配者に君臨すれば良い気がするが、多分、そういう訳にはいかない事情があるのだろう。
「だが、もう終わった事を掘り返しても仕方がない。この件はこちらで対処を考えるので、君達は戻って貰って構わない。教頭に褒美を用意させておいたので、好きなものを選ぶといい」
それだけ言うと、校長は入ってきた扉から部屋に出ていく。
部屋から姿を消すと、張り詰めていた空気が一気に弛緩する。
「…はぁ~……なんなんだよ、あの威圧感は……」
思わず漏れた俺の言葉は他の3人も同様の思いだったらしい。
「蛇に睨まれた蛙の気分が初めて分かった気がします……」
「ふぇ~ん、オーガより怖かったよ~」
「あ…危うくチビってしまう所でゴザったよ」
オーガを前にしても怯まなかったのに、校長の前では完全に委縮してしまい、身動き一つ出来なかった。
そういう意味ではフラブレ先輩は尊敬に値する。
「あはははっ、1年生の諸君は校長の前だからって緊張し過ぎだよ。オーガやホブゴブリンのようなモンスターの方が怖いし強そうだったじゃないか」
あ、この人は空気を読めない鈍感な人だ。
まぁ、空気を読まずフラグ立ち上げまくってるような人だからそんな気はしていたけど、まさか、校長の殺気にも似た絶対強者の威圧感さえも読めないとは。
うん、本当に色んな意味で尊敬に値する人だ。
さて、大分気分が楽になった頃、校長とは全く正反対のひょろ長で骨張った典型的なバーコード禿げのおっさんが入ってくる。この人が多分、教頭先生なんだろう。
彼から手渡されたのは1枚の金色のカード。
「これをそれぞれの端末のスロットで読み込みなさい。そこで貰える報酬の一覧が表示されるので、後は各自、自分の好きなものを選びなさい」
なんかカタログギフトみたいだ。
それはいいが、俺にはその為にクリアしなければならない問題が1つある。
「あの…すみません。俺の端末なんですけど……」
「ああ。君ですね?壊れるはずの無い携帯端末を壊したという生徒は」
壊したくて壊した訳じゃないし、そもそも壊したのは俺じゃなくてオーガだ。俺に全く非は無い。
「今回は特別に新しいのに交換しておいた。校内サーバにあるバックアップから君のデータは入力済みだが、指紋認証は再登録しておくように。今後は気を付けるのだぞ!」
いや、だから、俺のせいじゃないし、壊す気があった訳でもない!
まぁ、新しい端末をくれたので、文句は心の中だけに留めておくけど。
教頭は用件が済んだのならさっさと出て行けと言わんばかりの表情をしていたので、俺達はさっさと校長室を出る。
「諸君、またどこかで会う事もあるだろう!英雄は忙しいのさっ!!それではっ!!」
フラブレ先輩が2度と会えないフラグを立てながら、挨拶もそこそこに走り去ってしまう。フラブレ先輩のフラグだから、きっとまたすぐに会う事になるんだろうなぁ。
「んじゃ折角貰った報酬だし早速確認してみるか」
俺は指紋を再登録してから、端末下部にあるスリットにゴールドカードを差し込む。
「え~っと、どんなものが選べ……るうぅぅう?!」
思わず変な声を出してしまったが、他の3人も似たような反応を示している。
特にキャロさんなんてどういう理屈なのかは分からないが、犬の目の中に¥マークが表示されている。
なんだろう。俺の加護みたいに強化されて、感情表現を瞳で表せるようにでもなったのだろうか?
まぁ、キャロさんの件は一旦置いておいて、どうやら他の人の反応を見る限り、ここに表示されているのは間違いが無いらしい。
「ねぇ、ユウキ。リストの中に避暑地の別荘とかあるんだけど……」
「えっとこっちには伝説の鍛冶師による一点モノの魔法刀の作製権というのがありますね」
「ミーの所には魔法忍具一式とか最高級忍術講座1年分などがあるでゴザル」
どうやら俺達の情報から好みにあったおススメをリスト化されているらしい。
ちなみに俺はGそのものだ。だがその桁がかなりおかしい。3の後に0が7つも付いている。つまり3000万Gである。
きっとこれも“運気吸収”の……って最近こればかりだな。
何はともあれ、俺はヒモ生活を送らなくて済んだようだ。
19/3/3 誤字というか主人公の苗字を素で間違えていたので修正




