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第18話 これこそが俺の新たな必殺剣だ

 とうとう先輩達とホブゴブリンの戦いが始まった。

 けど俺にはそれをゆっくり観戦している余裕など無い。オーガと立ち合わなければならないのだから。

 俺達4人は支援系加護を受けられるだけ受けてから、戦場へと足を踏み入れる。

 ちなみに支援加護を受ける際、俺の方も相手や周囲にバレないように小声で“運気吸収ドレインラック”を発動させて、運と加護を吸い取っておいた。

 正確には分からないが、感覚的には運気は通常時の2倍くらいにはなっているようだし、加護の力もそれなりに増えた気がする。

 大森林の王と戦おうとしているのだから、これくらいは許して欲しい。

 けどそれでもオーガとまともにやり合って勝てる気はしない。それだけの実力差が確実にある。

 けどだからって逃げ出すなんて真似はしない。

 最初から逃げる事を考えていたなら、勝てるものも勝てないし、ゴブリン掃討戦なんて立案してないし、実行もしてない。


「ミサキさんとキャロさんは必ず一定の距離を保つ事。2人の運動能力じゃ近付かれたら終わりだ。そしてユカリさんはヒット&アウェイを心掛けて、あいつの攻撃は絶対に避ける事。スピードは普通だけどパワーだけなら指1つで人間を潰せるくらいあるから、いくら防御系の加護で守られていても大怪我じゃ済まない可能性がある」


 俺の注意に3人はほぼ同時に頷く。


「それから攻撃は基本的に通じないだろうから、ミサキさんとキャロさんはあいつの視界を邪魔するように頭を狙って欲しい。ユカリさんは無理に頭を狙わずに足元で撹乱。あいつの動きを止めた所で、俺が射程内に収める事が出来ば勝ちだ」


 正直に言えば、ユカリさんにもオーガには近付いて欲しくない所だが、俺だけでは近付く事すら出来ないだろうから撹乱役を頼むしかない。

 身体能力は俺を遥かに上回っているし、彼女達が俺の事を信じているように、俺の方も彼女なら大丈夫だと信じる事にする。


「さて、行くとしますか」


 下手に緊張しないよう軽く言いながら、俺は一歩前へと出る。それに合わせるかのようにオーガも前へと出る。

 どうやら向こうも俺達を標的として捉えたようだ。

 最悪、ホブゴブリンを含めた乱戦の可能性もあったので、少しは運が向いてきているようだ。もしかするとこれも“運気吸収ドレインラック”の効果なのかもしれないな。

 オーガとの間合いをジリジリと詰める中、戦闘の間合いに入るのに少しだけ時間がありそうなので、チラリと少しだけ他の人達の様子を確認する。

 落とし穴に落ちて這い出せないゴブリン達は徐々にその数を減らしていっている。いくら安全な場所から攻撃しているとはいえ、やはり戦闘系加護を持たない故に攻撃力が低いせいで時間は掛かっているようだ。けど確実に倒してはいるので、これは時間が解決してくれるだろうから問題無い。

 落とし穴に掛からなかったゴブリンの方も手負いな上に数の利も失ったという事で、逆にこちらの方が数的有利な状況を作って優勢を保っている。こちらももうすぐ決着するだろう。

 先輩達とホブゴブリンは一進一退の攻防を繰り広げている。

 1年生と違い経験が豊富なので、しっかりと連携して戦っているのが分かる。

 あっ、1人だけ「ここは俺に任せてお前達は背後から攻めろっ!」とか言ってるフラグ先輩がいる。相変わらずフラグを立ち上げまくってるけど、とりあえず、先制一発退場はしていなかったようだ。というか何気にホブゴブリンと対等に戦っているので、実力は相当高いみたいだ。


「ユウキさん、来ますっ!」


 俺が殺気を感じて意識をオーガの方へ戻した直後、奴が左手に持った巨大な戦斧を振り上げて、こちらに向けて突っ込んで来る。


「各自散開!!打ち合わせ通りに!」


 ミサキさんとキャロさんがそれぞれ左右に分かれ、俺とユカリさんはそのままオーガに向かって突き進む。

 能力的にユカリさんの方が速度も早いので、必然的にユカリさんが先にオーガの間合いに入る。

 振り下ろさせる戦斧。けれど重量がある分、振り下ろしスピードは思っていたよりも遅く、ユカリさんは難無くその一撃を回避する。

 そのまま振り下ろされた腕を駆け登り、オーガの左目に向けて一閃。しかしキンッと甲高い音を発ててユカリさんの刀は弾かれてしまう。

 だがその間に俺もオーガの足元にまで潜り込む。このまま腕を振り上げれば両断出来……うわっと!

 ボールでも蹴るようにオーガが足を蹴り上げ、俺は横に跳んで寸での所で避ける。やはりそう簡単には終わらせてくれないらしい。


「ユウキ!今の内に体勢を立て直して!!」


 ミサキさんの魔力の弾丸がオーガの顔面に炸裂し、キャロさんの爆弾の付いたクナイが足元で爆発。

 その煙に紛れて俺はオーガの間合いから離れて立ち上がる。


「やっぱ無傷だよなぁ~」


 煙が晴れた向こうに居たオーガは傷1つ付いていない。


「ですが皮膚の下なら傷を負わせられるはずです。そうでなければ私の一撃を目を閉じて防ぐ訳がありません」


 鋼の皮膚というだけあって強固なのは皮膚そのものという訳か。狙うとしたら皮膚に覆われていない目と口の中。


「つまりやる事は変わりないって事だな」


 頭部中心に狙うのは変わりない。

 弱点といえる場所がすんなり分かったのも運が良くなっているおかげだろうが、そうそうピンポイントで狙える箇所でも無い。激しい戦闘の中で狙って攻撃出来るのはユカリさんくらいなものだろう。

 下手に狙おうとして集中すると手数が減ってしまうだろうし、オーガの攻撃に対する反応が遅くなる可能性があるので、ミサキさんとキャロさんには今まで通り、頭部のどこでもいいので狙い撃って、注意を反らせる事に集中して貰い、俺とユカリさんは再びオーガに肉薄する。

 あ、いや、正確にはユカリさんだけが肉薄する。

 どうやらオーガの方も俺の“運命砕断ディスティニーブレイカー”が近接でしか威力を発揮しないと気が付いたのか、俺を近寄らせないように動いてくる。

 そのおかげでユカリさんは自由に動けているが、鋼の皮膚の前には刃は通らず、はっきり言って膠着状態だ。

 魔法弾やクナイ、爆弾に鬱陶しそうな表情を浮かべ、周囲を駆け回るユカリさんを邪魔くさそうにしながらも、俺が近寄ろうとすると戦斧を振り回し、接近を許そうとしない。

 このままでは埒が明かない。

 というか魔力も爆弾も体力も消耗していくので、これが続けば俺達の方が分が悪い。

 元々正攻法で倒せるとは思っていなかったので、早速、秘策の為の準備を実行する。


「ユカリさん!一旦下がって!!」


 俺はオーガを牽制しつつジリジリと後ろに下がり、それに合わせるようにユカリさんもオーガから離れる。

 向こうは俺の“運命砕断ディスティニーブレイカー”以外では傷が付かない事を理解しているのか、俺と一定の間合いを保ちつつ、徐々に間合いを詰めてくる。その表情はどこか余裕のある笑みを浮かべているようにも見える。

 けれどそういう余裕が足元を掬うんだぜ!

 オーガが前へと足を踏み出した途端、地面が陥没して、オーガの体勢が崩れる。

 ここはポイントTの中でも主戦場にはならない場所であり、オーガと戦う事を予期して罠を仕込んでいた場所だ。

 落とし穴は落とし穴でもこちらはゴブリン用に作った時限式ではなく、重量制限式。地面の厚さを調整して200kgくらいなら耐えられるように設計したものだ。

 俺とユカリさんの2人なら装備込みでも150kgも越えない。流石にこの上で激しく戦ったら崩れてしまうだろうが、俺達が上を走った程度では崩れる心配は無い。

 しかし巨体な上にその身体に見合った戦斧まで持っているオーガならば200kgなんて軽く越えるのは当然。

 きっと奴も俺達が通った場所ならば罠は無いと思い込んでいただろう。だからこそ引っ掛ける事が出来た。

 この程度でどうにかできる訳ではないが、これで少しは時間が稼げる。俺にとってこの時間が必要だったのだ。

 さぁ、後は俺の手で決着をつけるとしよう!


「全員、集中攻撃!!5秒だけでいい!奴をあの場に足止めしてくれっ!!」


 返事は無い。けど信頼する俺のパーティーメンバーならやってくれる。

 そう信じて俺は足を止め、深く腰を落とす。ロングソードを持った右手を弓を引くように後ろへと下げ、右手に力を溜めるようにイメージする。

 その間にも、立ち上がろうとするオーガに対して、ミサキさんの無数の魔力弾が四方八方から襲い掛かり、キャロさんによるありったけの爆弾とクナイが豪雨のように降り注ぐ。そしてその間隙を縫って、ユカリさんが峰を返した刀で膝裏を強打し、オーガが立ち上がるのを防ぐ。

 ダメージは無いかもしれないが、足止めには十分だ。


「キャロさん、煙幕!!」


 俺の言葉と共に白い煙が吹き出た筒が地面に転がり、瞬時に周囲が白い煙幕で覆われる。

 視界が完全に遮られてしまうが、今の俺には関係無い。

 “熱源探知サーモグラフ”の支援加護のおかげで、攻撃を防いだ事で熱を発して真っ赤に染まったオーガの姿がはっきりと見て取れる。


「くらえぇっ!“運命砕断裂ディスティニーブレイカー・スラスト”!!」


 俺はオーガに向けて突進を掛けながら、引き絞った右手を突き出して、持っていたロングソードを突き放つ。

 これが俺の秘策であり、“運命砕断ディスティニーブレイカー”の新たな形。

 この3ヶ月の間、自分の加護について俺は色々と検証していた。効率良く使う為には当然の事だ。

 “運気上昇ラック”は相手が必要であり、ユカリさんとミサキさんに相手には使いたくなかったので保留となっていた訳だけど。

 まぁ、おかげで“運気吸収ドレインラック”に進化したので、それに関しては結果オーライだ。

 話を戻すが、“運命砕断ディスティニーブレイカー”を手に入れたばかりの頃は空間を断ち斬るという事、その代償に体力の消耗が激しい事しか分かっておらず、その持続時間や効果範囲も定かでは無かった。

 だからほぼ毎日、放課後に性能や使い方を調べていたのだ。

 それで分かった事は、まず俺の身体の一部か接触している無機物になら力を纏わせる事が出来るという事。

 これにより武器で斬ったように見せ掛ける事も出来るし、手だけじゃなく足でも使う事が出来る。ただ武器の場合、切れ味が良過ぎて不審がられるのは間違いないだろうし、徒手空拳だと完全に加護無しではありえない事象になってしまうので、他人には見せられない。

 次に効果時間だが、これはおおよそ2秒間。おおよそというのは、発動時の消費とは別に時間経過と共に体力がゴリゴリと削られるからだ。意識を保っていられる限界時間が2秒までという訳だ。

 だが効果時間内であれば俺から離しても効果は持続する。例えば、力を付与した武器を他人に貸して使わせる事も出来るし、その辺に落ちている木枝や小石に付与すれば史上最強の投擲武器にもなる。

 まぁ、どちらにしても2秒の間で必中させなければいけないので、結局は近付く必要があるわけだが。

 ここまでで分かった特性の中で最も有用だと思ったのは、時間内であれば俺の手から離れても効果が持続するという事だ。

 そして今、俺の突き出したロングソードの剣先がオーガの胸元に真っ直ぐに突き向かっていく。

 手を離しても剣先は音も無く空間を斬り裂き、まるで無重力の中を突き進むようにオーガへと向かっていく。

 これが俺が検証して分かった最後の特性。

 触れたものを全て斬り裂くという事は、そこにある全てを斬り裂くという事。その全てとは音であり光であり空気であり重力であり世界そのものである。

 だから“運命砕断ディスティニーブレイカー”を剣の先端に発動させれば、空気抵抗も重力も斬り裂いて、あたかも無重力の中を突き進んでいるようになり、音も光も熱も斬り裂いて相手からは全く知覚されなくなる。

 これこそが俺の新たな必殺剣だ。

 ロングソードがオーガの左胸に半ばまで突き刺さった所で効果を切る。

 たった1秒ほどだが、ごっそりと身体の中から力が抜けていくのを感じる。けど以前ほどではないとも感じる。多分、この掃討戦と“運気吸収ドレインラック”でそれなりに力を吸収したおかげだろう。とはいえもう1発使ったら確実に意識は落ちるだろうな。

 なので今の一撃で倒せている事を祈りながら、俺は剣が突き刺さったオーガを見据えた。


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