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第14話 今まで以上に良い事が起きて、ハーレムな展開やラッキースケベな展開ににゃる事間違い無しにゃ!!

「は~、世の中、平和でゴザルな~」


 キャロさんが持参した湯飲みでキンキンに冷えた緑茶を飲みながら、しみじみと呟く。


「まぁ、安全圏って言われてるくらいだしね~」


 その隣ではミサキさんがユカリさんの作ったぼた餅を美味しそうに頬張っている。


「いや、気持ちは分かるけど、一応は授業な訳だし、やる事が無いのは分かるけど、危険が無い訳じゃないんだからもうちょっと緊張感を持とうぜっ!それに……」


 俺はピクニック気分の2人を横目で見つつ、ロングソードを振り下ろす。

 ミサキさんとキャロさんはあんなだが、一応、今はモンスターとの戦闘中だ。まぁ、気持ちは分からないでもないけどさ。

 目の前にいるのは大きな蟻。

 端末内のデータベースによれば、ビッグアントというそのまんまの名前で、地中を掘り進めて来る為に安全圏でもそれなりによく現れるモンスターだ。

 蟻といえば群体というイメージで、データベースにも30匹以上の群れで襲い掛かられたら、逃げるのを優先しろと書かれてあるので、群れれば厄介なモンスターだ。

 ビッグアントの外骨格は鉄より硬く、魔法や遠距離加護も効きにくいという特性があり、範囲攻撃で一気に殲滅させるには相当に強力な攻撃が必要なのだ。

 なのだが、個体でははっきり言って弱い。

 蟻の姿をしている事から分かる通り、攻撃方法は鋭い顎による噛み付き攻撃のみで、動きもそれほど速くなく、ただ真っ直ぐに攻撃してくるだけなので避けるのも容易い。

 しかも蟻の体構造上、首や胴は細く、脚も細い。いくら外骨格が鉄より硬くても細くなっている部分は当然脆い。俺なんかよりも技量が上のユカリさんはいとも簡単に斬り伏せている。

 確かに群れで来られたら部位を狙って攻撃するのは難しくなるので、逃げた方が得策なのは理解出来る。

 そんな訳で、役に立たない後衛陣は手出しせず、俺が攻撃を引き付け、ユカリさんがスパッと斬るという役割が出来上がってしまった。

 外周探索授業も既に3日目に入り、ビッグアントとの戦闘も5回目ともなれば、暇なユカリさんとキャロさんがまったりするのも当然だ。というか正直、俺だっていらない程だ。


「ユウキさん、そのまま抑え込んでいて下さい!!」


 俺がスモールシールドでビッグアントの攻撃を防ぎつつ動きを止めさせると、背後からユカリさんが一閃。

 ビッグアントの胴体が斬り離され、少しの時間が経過した後、キラキラと光の粒子になって俺達の体内に吸い込まれるように消えてなくなる。

 この世界に存在するモンスターは、どうやら加護の力によって創造されたものらしい。

 モンスターを倒せば微量ながらこうして加護の力を吸収する事が出来るのだ。

 神から直接授かった特定の能力を持った加護では無いので、どんなに吸収しても新たな加護を得る事は無いが、この力が増えれば増える程に自身が持っている加護の力は強まり、それに伴って身心能力向上の恩恵も増す。

 ゲームで言えば経験値と言った所だろうか。

 ちなみにこれは一般的には知られていない事らしい。俺が知ったのも昨晩、というか今朝、目覚める直前の夢の中に猫耳女神が現れて、その事を教えてくれたからだ。



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



「頑張っているようで何よりにゃ♪」


 天地不覚の空間で目を覚ました俺に開口一番、猫耳女神のディテニスが声を掛けてくる。3ヶ月ぶりの再会だ。


「再三、俺の言葉を無視し続けてようやくのお出ましかよ」


 色々と聞きたい事があったので、寝る前に毎日のように姿を現せと念じながら眠りについていたのだが、今日の今日までとことん無視されていたのだ。

 一応、貰った加護は助けになっているので神様だと信じる事にしたのだから、さっさと呼び掛けに応えて欲しかったものだ。


「それは悪かったにゃ~。ボクとしてもその呼び掛けにはすぐに応えたかったのにゃけれど、こっちにも神としての制約があったのにゃ」

「制約?」

「にゃう。基本的に神は人間に対して不干渉という制約があるにゃ。にゃからお告げに来るのも色々と条件があったりして大変なのにゃ」


 つまり今こうして姿を現しているのは、諸々の条件をクリアしたから俺の前に出て来れたって訳か。


「そういう事にゃ。今回はキミが手に入れた加護の力が一定量を越えて、ボクの与えた加護が進化たみたいだったので、説明の為にここに来たんだにゃ」

「え?けど俺はハイカキンとかいうゴルドーの信徒とかなんて倒した覚えがないぞ?」


 当初の話では加護を持つゴルドー配下の信徒を倒して加護の力を削がなければいけなかったはずだ。

 学校に通い始めてから分かったが、ゴルドー配下の信徒は基本的に原々高戦の在校生か卒業生、そして一部の先生だ。

 流石にいきなりクラスメイトや先生に斬り付けるなんて真似は目覚めが悪いので出来ない。

 だから信徒は倒していない。


「キミは昨日までにモンスターを何体か倒してるはずにゃ?あのモンスターも元々は世界そのものが加護によって生み出したものなのにゃ」


 つまりは“世界”っていう名前の神による加護だって事でいいのか?


「正確に言えば違うのにゃけど、まぁ、そんな感じにゃ」


 結構アバウトだな、おい。


「面倒だからボクはパスにゃ。マータイなら長々と説明してくれると思うにゃ?」


 いや、遠慮しておこう。可愛い女の子ならともかく、ジジイの長ったらしい講釈なんて聞いてられない。


「ボクも遠慮したいにゃ。と、まぁ、そんな訳でモンスターを倒すと微量だけど加護の力が増えるって訳にゃ。あっ、キミだけじゃ無く、キミの側にいた加護を得られなかったあの2人の少女にも影響があるから、能力向上はすると思うにゃ」


 それは朗報だ。ユカリさんとミサキさんにも身心能力向上の恩恵が与えられれば特化した能力が更に強くなり、加護という特殊能力が無くても、平均的な能力の俺なんかよりも活躍する事が出来るだろう。


「んにゃ。それじゃ次は進化するボクの加護について説明するにゃ」


 それは是非お願いしたい。

 以前貰った“運気上昇ラック”は全くと言って良い程に使い道が無かった。というかよくよく考えると1回も使っていない気がする。運というものの概念が分からなかったからだ。


「にゃははははっ、だから加護自体が進化を望んだのかもしれないにゃ」


 なんかそう言われると加護自体が意思を持っていて俺に使われたがっているみたいだ。まぁ、元々加護自体が受け取った人物の意識や願望の影響を強く受けてそれに見合った能力になる。だから本来は不要な加護なんてものは存在しない。

 きっと入学式のあの時は自分の運の無さを嘆いていたから、それに見合った性能の加護になっていたのだろう。

 だけど今は運が悪いと考えていない。それどころか2人の美少女に好意を寄せられて、幸運とさえ思っている。それ故の進化だろう……ってあれ?もしかしてここまで運が良いのはこの加護のおかげだったってことか?あ、いや、でも、使った記憶は無いから、それとこれとは別なのか?


「加護の影響が無いとはいえないにゃ。けど進化は上位互換だからそんな心配しなくても良いにゃ。というか今まで以上に良い事が起きて、ハーレムな展開やラッキースケベな展開ににゃる事間違い無しにゃ!!」


 いや、別に俺はハーレムを目指している訳じゃない。2人でも大変なのにこれ以上増えて貰っても俺の精神衛生上的にキツイ。ラッキースケベな展開も期待は……いや、それはありか?


「にゃはははは。男子高生ならそういう事考えるのも普通にゃから」


 あ、そう言えば、この空間って考えてる事が筒抜けになるんだった。でも自分でも分かるくらい鼻の下が伸びてるので、筒抜けにならなくても分かってしまうだろう。具体的にどんな内容を想像していたのかが丸わかりだったのは、結構、恥ずかしいけど。


「え、えっと、そそそれでパッシブで今より自分の運気がアップする以外の効果は?」

「にゃ、誤魔化したにゃ?ま、いいけどにゃ。えっと、進化した加護は“運気吸収ドレインラック”という名前になったにゃ。モンスターやハイカキンを倒した際の加護吸収量の効率が上がるにゃ。そしてその名の通り直接触れた相手の運と同時に加護の力もほんの少しだけ吸収出来るにゃ♪」


 もう完全に“運気吸収ドレインラック”を使わせようという魂胆が見え見えだ。まぁ、直接触れなければいけないというのは少し使い勝手が悪いが、以前よりは確実に使う頻度は増えるだろう。

 ってかこれって倒さなくても吸収し続ければ、どんどん強くなれるんじゃね?その為にどれくらいの時間吸収し続けなければいけないか分からないけど。

 それにしてもゴルドーの課金能力もえげつないと思ったけど、あれは金銭を代償にしているのに対し、こっちには代償が存在しない。

 吸収量が微々たるものとはいえ、相変わらず加護ってのはチートだよな~。


「一応、言っておくと加護の力がチートって訳じゃないのにゃ!その力をチート級にしてしまう人間の心がチートなのにゃ!!」


 言われてみればそうだ。

 この加護は俺の心が生み出したものであり、俺が望んだ結果がこの能力として現れたんだ。つまりは俺自身がチートを望んでいたという事になる訳だ。

 いや、しょうがないじゃん。

 ゲームだったらやり直しが効くけど現実じゃそうはいかない。出来る事なら楽したいというのが本音だ。


「それじゃそろそろ時間にゃのでお別れなのにゃ」

「ちょっと待ったぁ~!!加護の進化の事で忘れかけてたけど聞きたい事があったからずっと呼び掛けていたんだよ!」


 ここで逃したら次はいつ聞けるか分からない。


「うにゃ。もう時間がないから手短にするにゃ」


 徐々に猫耳女神の身体が薄くなっていく。どうやら時間はそれほど無いらしい。

 聞きたい事は山程あるが、ずっと前から気になっていた重要な事を1つだけ尋ねる事にする。


「加護を持ってると死んでも蘇られるらしいけど、俺はどうなんだ?」


 これは重要な事だ。

 死んでお終いなら安全マージンを取りながら探索し続けて命を大切にしながら行動するべきだし、もし蘇る事が出来ると分かっていれば、ガンガンと攻めたり、無茶な行動も出来るし、最悪、彼女達の盾代わりにもなれる。


「今の総量なら1回は大丈夫にゃ。ただその場合は加護の能力も性能もガタ落ちするからおススメ出来ないにゃ。今後、力の総量が増えていけば、蘇り回数も増えていくはずにゃ。だから今は無理しないで着実に成長していく事をおススメするにゃ。って訳でバイバイニャ~」


 そう言い残して猫耳女神の姿は完全に掻き消え、周囲の空間も崩れていく。

 そして俺は目を覚ました。


「そっか1回は命を張れるんだな」


 小さく呟いてから決意を決める。

 そして新たな力を手に入れた俺は、その使い方を考えながらベットから起き上がり、今日の探索授業の準備を始めるのだった。

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