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第13話 まさしく逸れ者のパーティーか……

「いやぁ~、なんとかなって良かったでゴザルな~♪」

「誰のせいで苦労したと思ってんだよっ!!少しは反省しろよなっ!!」


 ボカボカと犬の後頭部を殴りつける。

 毛の生えた表面はそれなりに柔らかさがあるが、その奥は硬くもなく柔らかくもない何とも言えない感触が跳ね返ってくる。

 殴られている事に気が付いていないのかキャロさんは全然気にした様子が無いので、多分、本来の頭には衝撃さえも届いていないだろう。

 流石、加護によって得られたアイテムだ。防具としても相当に高い性能を誇っているようだ。

 もしもの場合はキャロさんを盾にするか、振り回して武器扱いしてもいいかもしれない。


「けどキャロっちってEクラスでもおかしくないくらいの落ちこぼれっぷりだったよね~」


 ミサキさんの言葉にキャロさんが「げふぅでゴザル」と呻いて、胸を抑える。


「ええ。まさか総合レベルで加護を持たない私達に劣るとは考えてもみませんでした」


 ユカリさんの追い打ちに「ぐはぁでゴザル」とか言って、かなり精神ダメージを受けているようだ。

 俺の物理攻撃より余程ダメージが入っている様子だ。

 普段ならフォローに入る俺も、今ばかりは彼女達の言動を諌めない。

 今回の事で何故キャロさんが他のパーティーに誘われなかったのかのもう1つの理由をよく理解した。

 あの総合レベルならEクラスの方が上の人間は沢山いるし、いくら回復系クラスのCクラスに所属しているといっても、キャロさんの加護は疾病系回復に特化している。毒とか麻痺とかの状態異常系を受けなければ役に立つ場面は殆ど無い。というより状態異常を与えてくるようなモンスターはかなり上位にならないと居ないらしいと授業でも習っているので、街の周辺を探索するにはあまり…というか全く必要の無い加護といえるだろう。

 そしてこの犬頭という色んな意味で注目を浴びる見た目もあれば、キャロさんをパーティーに誘うメリットが全くと言って良い程無い。

 誰からも声が掛からなかったのは当然と言えるだろう。


「まさしく逸れ者のパーティーか……」


 学校の意思とは別の導きで、ゴルドーに対抗する神から加護を得た俺に、加護を授かる事の出来なかったユカリさんとミサキさん。そして加護を得ながらも特異な呪いとも言える装備品と加護持ちとは思えない低い能力のせいでCクラス内でも浮いた存在のキャロさん。

 ある意味、これはこれで纏まるべくして纏まったパーティーなのかもしれない。


「さて、それはそうとこれからどうしようか」


 能力測定を行い、外周探索のガイダンスを受けた翌日の正午前。

 俺達は街の外へと通じる外門の前に集合していた。

 この場にいる事からも分かる通り、俺達は小数点第4位まで計算して、なんとか探索に必要な最低ラインのレベルを確保したのだ。

 ギリギリの最低ラインである為、街の外に出るとはいっても街から300m以内の安全圏と呼ばれる地域以上に離れる事は出来ない。

 それを越えてしまうと携帯端末から警告が鳴り、1分以上それを無視し続けた場合、減点されたり単位を失ってしまったりするという。

 これは探索レベルの低いパーティーが危険地域に立ち入ったり、無謀な探索を行わせない為の措置だった。

 狭い範囲しか探索は出来ないが、出来ないよりはマシだ。

 詳しくは分からないが、噂によると規定のレベルを越える事が出来なかったパーティーは能力の底上げの為に、今日から夏休みの間中ずっと地獄の特訓が続けられるらしい。海兵式訓練カリキュラムに、魔法や加護の力を向上させる訓練等を追加してアスガリア風にアレンジしたものらしく、訓練終了後は飛躍的に能力の向上が見込まれるが、性格がガラリと変わって、職業軍人のようになってしまうらしい。

 ただその名の通りに地獄を味わう事になるらしいので、それに耐え切れずに退学する者も多いらしい。

 一歩間違えれば俺達もその特訓を受けていたかもしれないと考えるだけでゾッとする。

 さて、なんとか免れた特訓の事は置いておくとして、今日の行動指針である。


「基本的に私達は自由に行動していいんですよね?」

「ああ。トータル時間で4時間、街の外に出てればいいだけだから、それだけなら楽なもんさ」


 街のすぐ近くは、安全圏と言われるだけあってモンスターの出現頻度は低く、出たとしても数は1日に1匹か2匹。その力も加護を持たない一般人より少し強い程度だし、頭も良くないのでほぼ単独で行動しているので、総合レベル的に最低ランクの俺達でも問題無く倒せるレベル。

 ただしそれは戦いに慣れている場合。

 俺は親父に連れられて世界各地で振り回されている際に、狩りをしたり、熊やライオンとも対峙した経験があるし、ユカリさんも実戦的な剣術を学んでいたという事もあって、それなりにモンスターと戦う気構えは出来ている。

 だがミサキさんとキャロさんはつい数か月前まで普通の一般人であり、命の遣り取りはおろか、殴り合いの喧嘩さえした事が無い。

 ミサキさんは入学式の時に一度、オーガと遭遇しているが、その時は腰が抜けて動けなくなっていたらしいし、キャロさんに至っては背後から一撃でやられたので、何があったのかさえ気が付かずに殺されてしまったらしい。

 そんな2人がいきなりまともに戦えるとは思えない。

 いや、もしかするとユカリさんだって実際にモンスターと対面した際にオーガと出会った際の恐怖が蘇って、動けなくなるかもしれない。

 そんな理由から、もしモンスターと遭遇しても戦わずに逃げるように先生からも指示を受けている。遭遇場所を指示すれば、先生や上級生がすぐに討伐に向かう手筈にもなっている。

 つまり俺達は探索というより安全圏周辺の見回りを任されているという訳だ。

 ちなみに危険度が低いという事で俺達のパーティー…というか安全圏内を探索するパーティーには引率者が誰も付いていない。

 安全圏以上離れた地域を探索するパーティーは危険度が増し、最初の探索という事もあって、この特別講習の期間中は先生や先輩が1人常駐する決まりになっていた。

 外周探索の時間は携帯端末が自動的に記録してくれるし、一応、GPS機能も付いているので、引率者が居ないからといってサボっているとバレてしまうので注意しなければいけない。

 まぁ、そもそもサボるつもりはないけど。

 だが、正直に言って、今の俺達にやれる事は殆ど無い。

 一人前の探索者ならば街にある探索者協会で依頼を受けて、薬草採取や野良モンスターの退治とか出来るのだが、学生という身分では探索者見習いであり、その上初めての外周探索で、実績もないとなれば、依頼を完遂出来るという確証が得られない為に依頼を受けて稼ぐという事も出来ない。


「多分、この訓練って新人に外の雰囲気を体験させる事とサバイバルの知識を実践して貰う事がメインなんだろうけどさ……」


 授業でサバイバル知識や外周に関する知識は習っているが、頭で理解していてもそれを実践出来るとは限らない。その為の訓練だというのは分かる。

 ただ俺は既に入学前にサバイバル経験は済んでるし、街の外へ出た場合に必要になるだろうと思って、この3ヶ月でユカリさんとミサキさんには基礎的な事はしっかりと教え込んでいる。4人中3人いれば困る事はそうそうないだろうし、キャロさんにもパーティーに加わったその日から教え始めているので、わざわざ実践形式でやらなくても大丈夫だろう。

 だからこそやる事が無いのだ。


「けど…なんですか?」

「街の外の雰囲気に慣れるのはともかく、サバイバルに関しては俺達には今更だろ?」

「確かにそうですね」

「キャロっちも昨日、ようやくテントを張る事が出来るようになったしね」

「最初は不安でゴザったが、あんなに簡単に出来るとは思わなかったでゴザルよ。これもそれも主殿の教えの賜物でゴザル」

「え~っと、キャロさん……やっぱりその“あるじさま”って呼び方、止めて貰えないかな?」


 多数決の結果で俺がパーティーリーダーに決まってからというもの、キャロさんは俺の事をそう呼ぶようになったのだが、呼ばれ慣れていないせいもあって、呼ばれると尻がむず痒くなる。


「何を言うでゴザルか!ミーは忍びでゴザル!主に仕えてこその忍びでゴザルよ!!そしてこのパーティーのリーダーとなればミーの主と同義!!それを主様と呼ばねばミーの忠義に反するのでゴザル!!!」


 初めて会った時からゴザル口調だったので、なんとなく気が付いていたが、予想通りキャロさんはやはり忍者になりたかったらしい。

 まぁ、他の身体能力はともかく跳躍力だけなら忍者っぽいのは事実だ。

 ただ状態異常回復がメインで全く忍べていない犬頭を忍者と呼ぶにはかなり無理があるけど。

 一応、紺色の忍者装束と腰の後ろにクナイを差しているので見た目だけなら忍者に見えなくもないが。


「故に主様を主様と呼べなければミーのアイデンティティーが崩壊するのでゴザルよ!!」

「あ、う、うん。理解は出来なけどその熱は伝わってきた……もう好きに呼んでいいよ……」


 俺は折れた。

 キャロさんにとってはどうしても譲れないものなのだろう。もうこればかりは俺が慣れていくしかない。

 さて、ついでなので俺達3人の今の装備も伝えておこう。

 俺は至ってシンプル。

 原々高戦の制服の上から革製の胸当てと籠手を装着し、腰にロングソードを佩び、背中には円形のスモールシールドを担いでいる。いかにも初めて探索に出ますという出で立ちだ。

 まぁ、それも当然で、これは武具屋で売っていた初心者戦士用セットだった。

 セットなので少しだけ安くなっているし、一通り装備が揃うので新米探索者には懐具合的にも人気の商品だ。

 ちなみに制服には防刃防魔素材が使われていて、ある程度なら攻撃を防いでくれるらしいので、胸当ては保険的な意味合いが強い。

 続いてはミサキさんの装備だ。

 彼女も俺と似たような新米探索者という出で立ちだ。違いと言えば、彼女の方は初心者魔道士セットだという事だろうか。

 制服の上にいかにも魔法使いという感じの黒いローブマントを羽織り、頭にはツバの広いトンガリ帽子を被っている。

 けれどミサキさんは魔力量が多く魔法を使える素養を持ってはいても、未だ魔法を使える訳ではないので、見掛けだけだ。

 武器もセットに同梱されていた杖ではなく、遠距離武器。

 腕力が普通の女子高生で重量があるものが持てないので、弓やボウガンではなく、なんと拳銃!いや正確に言えば魔法銃だ。

 自身の魔力を弾丸に変えて撃ち出す代物だが、値段の割りに魔力消費が激しい事と加護と比べたら当然威力が劣るので、探索者にはあまり使われていない。魔法を使えるようになれば火や雷といった属性を持つ魔法弾も使えるようになるらしいが、単純な魔力だけの魔法弾も使えるという事、そして身体能力の都合上で前で戦うのは危険なミサキさんにはうってつけの武器と言えるだろう。

 最後はユカリさんだ。

 彼女は俺と同じく前衛で、武器は実家から入学祝いとして渡された日本刀。

 女子高生への入学祝いに日本刀ってのはどうなのだろうかと思ったのだが、本人は満足そうなので俺がとやかく言うようなもんじゃない。

 それにユカリさんが言うには、なんとか兼定だったか、なんとか国定だったかというそれなりに有名な銘入りの日本刀らしく、時価数十万はするらしい。

 確かに斬れ味は良いかもしれないが、刃毀れや折れた時の事を考えると、そんな高価なものを武器として使うなんて俺には無理だ。俺のロングソードなんて1000Gくらいでしかないし。

 と、とりあえず武器の金額は置いておいて、ユカリさんの防具は制服に俺と同じ胸当て。

 激しく動くだろう前衛でスカートはマズイってと思っていたのだが、しっかりとスパッツを履いていらっしゃいましたよ。

 いや、うん、当然だよね。べ、別にチラリを期待してなんていなかったよ、うん。

 さて、これが俺達が外周探索に出る為に準備した装備品だ。

 けど驚いたのはこの防具だ。

 ゲームでは全く違う体格なのに服や鎧の受け渡しが簡単に出来るが、現実ではサイズが合わなければ当然、装備出来ない。けどアスガリアの服や防具にはサイズがジャストフィットする魔法が組み込まれている。そのおかげでわざわざ調整をしなくてもいいし、自分の体格に合った防具を探さなくても良いのだ。

 制服にもこの魔法は組み込まれていたらしいが、今の今まで全く気が付かなかった。地球でもこの技術が応用出来れば便利なんだけどな~。


「さて、そんじゃそろそろ街の外に出るとしようか」


 外周探索特別授業は今日を含めて後4日間実施される。

 底辺ランクの俺達は1日に4時間は街の外に出なければいけず、あまり出発が遅くなると陽が落ちてからも探索を続けなければならないし、帰りが遅


くなるとその分、明日以降の体調などにも影響が及ぶ可能性もある。

 なんだかんだで朝から装備や探索に必要なものを買ったりして、既に昼になる時間の為、そろそろ出発した方が無難だろう。


「そうですね。時間も時間ですし、お昼ごはんは街の外で食べましょうか。お弁当を用意してありますので」

「あははっ、そだね~♪ピクニックみたいでいいんじゃない?」


 みたいじゃなくて完全にピクニック気分じゃんか、ミサキさんは。

 けれど俺もそういう気分になっている事実は否めない。それにユカリさんの弁当も楽しみだ。なぜなら彼女の作る料理は絶品だからだ。

 和食専門だが、彼女の出汁巻き卵は高級料亭で出しても売れるだろうというレベルだし、それ以外も料理店で出しても遜色ない美味さなのだ。

 ユカリさんは「これも剣術修行の一環で教わったものです」と言っているけど、これって剣術修行じゃなくて花嫁修業なんじゃないだろうか?

 いや、まぁ、刀で器用に大根の桂剥きとか空中に放った玉ねぎをみじん切りにしたりするのは、剣術修行と言えなくもないけど。


「よし、それじゃまずは食事が出来そうな広めで見晴らしのいい場所を探す事を目的としようか」


 俺の意見に全員が賛同し、こうして俺達の初めての外周探索は開始された。

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