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神様のモニタリング 第一章 ~人類滅亡回避のススメ~  作者: 片津間 友雅
学生 中等部編

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第80話 ■「襲撃 レイーネの森10」

「……知らない天井だ」


 なんか昔も言った事がある台詞を呟きながら僕は目覚める。


 何処かはわからないけれど森の中じゃ無い、感触的にはベッドの上か?

 そして(神様)がいない事で死んだわけではない事を理解させる。


(なんとか、生きて、帰れた……)


 それに安堵する。

 頭が徐々にスッキリして行くに従い、左手に温もりを感じ始める。


 頭を上げ左手に視線を向ける。

 そこには僕の左手を両手で握りしめて眠るベルがいた。


 ベルが僕の手を握っている状況よりも先にベルが無事だった事に安堵する。


「ん……んん」


 僕が動いた事で目が覚めたのか、ベルはゆっくりと(でも両手は僕の左手からは離さない)起き上がる。


「ベル、おはよう」


 そう言いながら僕も上半身を起き上がらせる。うん、少し体が重く感じるけれど問題はなさそうだ。


 ベルは僕の顔を驚いたように眺める。そして……


「べ、ベル?」


 声もなく両目からボロボロ涙を流し出したベルに僕は困惑する。


「……ェ、エリュゥサマァ」


 そしてベルは僕に飛びつくように抱き着きながら嗚咽する。

 異性に抱き着かれ、子供特有の体温の高さを感じながらドギマギする。


「エル様ぁ、ホントにホントに死んだのかと……そうなら……私はぁ」


 その言葉に抱き着かれながら僕は、ベルの頭をそっと撫でる。


「うんゴメン、ベル、心配かけて、僕はこのように大丈夫だから。ベルだけを置いてどっかに行ったりしないから……」

「本当にですよぉ、約束ですよぉ」


 何時もとは違い幼児退行したかのようなベルに少し可笑しくなる。


「あー、取込中のところ申し訳ないんだがぁ」


 突如聞こえた第三者の声にベルは飛び跳ねるように僕から離れる。

 その顔はリンゴのように真っ赤っか。


「すすすすみません、エル様、取り乱しました」

「あー、うん、それくらいベルが僕の事を心配してくれて嬉しいよ」


 そう返す僕に益々顔を赤くして(うつむ)くベル。


「んで、アインツ。何か用?」


 僕はそう声を発した人物、アインツに声を掛ける。

 その声にアインツは周りに張られていたカーテンを掻き分けて入ってくる。

 その姿に怪我や後遺症がなさそうな事に安心する。


「インカ先生からエルが目を覚ましたら連れてきて欲しいと頼まれてな。今回の顛末について話を聞きたいと。まだ、体調が悪いようならまた後でって言ってくるけど?」

「いや、もう大丈夫。行くよ」


 そう言って僕は、ベッドから降り立つ。

 少しふらつくけれど、魔力枯渇の影響で倒れただけだから時間経過とともに魔力が回復すれば問題ないだろう。


 そして僕はアインツと共にインカ先生の所に向かう。

 どうやらここは第二騎士団の駐屯地のようだ。

 まぁ、襲撃を受けた演習場に残ったままは難しいだろうからね。


「シュタリア、目が覚めたばかりですまないが今回の全体像を把握するため、君の話を聞きたくてな」

「大丈夫ですインカ先生。それでは早速……」


 そして僕は今回の顛末(僕の記憶がある所までだけど)を時々されるインカ先生から質問に答えながら1時間ほど話す。


「なるほど、アストロフォンをどうやって? と思ったがそんな方法か。とはいえ、言うほど簡単ではないがな」


 聞き終わったインカ先生は目頭を押さえながらつぶやく。


「インカ先生、一つよろしいでしょうか?」

「ああ、かまわん」

「こちらのバリケードを守った先生や生徒に被害は無かったんですか?」


「守備した教師や生徒は怪我人は出たが、治癒魔法で全治している。

 だが、避難させた生徒の中に行方不明者が二名いてな。

 混乱のどさくさで人数確認できなかった事は失態だった」


 言いながらインカ先生は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「二名共、森深部で見つかったが、残念ながら一名は死亡が確認された。

 パソナ・ヒアルス・ファーナ男爵公子がな……」


 パソナ男爵公子?たしかラズリアの取り巻きにいた記憶が……


「行方不明者のもう一人ってもしかしてラズリア伯爵公子ですか?」

「ああ、その通りだ」


 なるほど、状況としてはラズリアに付き合って森深部に付いて行った

 パソナ男爵公子が巻き込まれたという感じだろうか?


 そこで一瞬、インカ先生の顔に困惑が走ったことに気付く。


「インカ先生? 何かあったんですか?」

「ん? ああ、我々教師も行方不明の二名が発見されたという現場に

 向かったんだが、騎士団によって立ち入りを禁止されてな。

 二人の状況がどうだったか? が分からないんだ」


「考えられるとしたらパソナ男爵公子の死体の状況が酷かったとか?」

「それであれば、私であれば問題ないと言ったのだが『上からの命令』の一点張りでな」


『上からの命令』


 それは多くの場合、上級貴族―公爵や侯爵が絡んでいる。


「それってもしかして後継者問題が……」

「シュタリア、それ以上は発言を控えるように」

「はい、分かりました」


 その言葉はある意味、肯定を意味する。

 それが分かっただけで、これ以上の詮索は無意味だろう。


「それで、今回の演習はどのようになるんでしょうか?」

「騎士団によって状況確認を行う事になるから中止だ。

 他の生徒については先んじてガイエスブルクに帰還している。

 シュタリア達についてはもう一日、ここで休養後に帰還する。

 以上だ、今日はもう休め」

「はい、分かりました。それでは失礼します」


 僕は、インカ先生に一礼し、部屋を出る。

 そこには僕を連れてきてくれたアインツが待っていてくれていた。


「アインツ、待っててくれたのか?」

「この駐屯地は複雑だから、エルが迷子にならない様にな」


 そしてアインツは歩き出す。それに僕も付いて行く。


「ありがとう、後、ごめん」

「ん? 何がだ」

「僕のせいでアインツに怪我を……」


 そう言いかけた僕の額をアインツが小突く。

 おいおい、伯爵公子に男爵公子がそんなことした現場を見られたら大問題だぞ……僕としては構わないけど。


「ばーか、付いて行く時に言っただろ。

 お前の盾になるってな。それが俺の役目だ。


 それにあの時も言ったけど、あの状況でエルが戦線離脱してたら二人とも今、此処にいれないぞ。今頃墓の下だ」


 そうカラカラ笑う。

 やだっ何? 惚れそう!


 そんなアインツに僕も笑い返す。


「そんな早く埋葬されないよ」


 そう冗談を言いながら――――


 ――――


「しかし、貴族とは言えこんな危険極まりない聖遺物を入手できるのですか?」


 隣にいたベイカー第二騎士団長が困惑の表情で私に尋ねてくる。


「さぁな、だが現場にこれがあった。それが現実だよ」


 私は溜め息交じりに答える。


 目の前にあるのは薄汚れた鏡

 今回の事件で唯一といえる犠牲者の血が生々しく残っている。


 当初、その現場は哀れなる被害者二名がいた。

 一人は既に事切れ、一人は意識を失っていた。

 そう、騎士の一人がこの鏡に気付くまでは……


『湧き上がる悪夢』


 そう呼ばれる禁呪聖遺物。


 生贄の血をもって数千とも言われる魔物を召喚する事が出来る魔具だ。

 数十年前に帝国のリーザント地区を壊滅させたと歴史書には記されている。


 今は力を使い切り魔力の一欠も感じられない。

 これから数十年はその力を行使する事は出来ないだろう。

 即座に王国にて二度と使用できない様に厳重に管理されることになる。


 今回、被害を()()()一名に抑えられたのは奇跡と言っていい。

 その被害者に残る刃物傷、そして現場の状況から使用者は歴然だった。

 それは哀れな被害者が恐るべき加害者に変わった瞬間だった。


 それは王国全土を揺るがすほどの……事件。


 ここにいるベイカーは即座にかん口令を出した。

 その判断は素晴らしいの一言に尽きる。


 何れは漏れるかもしれない。だが今の不安定な状況に比べればマシだろう。


「それでキスリング宰相。加害者のラズリア伯爵公子はどのように?」


 それに私は頭を痛める。


 今回の事件は最悪、ガイエスブルクにも被害を出していた可能性がある。

 それは王国に対する謀反と同等だ。


 法に照らせばルーティント伯爵家は謀反未遂により『爵位剥奪(はくだつ)』『一家処刑』にも該当する可能性が高い。

 十歳の子供がやった事と減刑されたとしても『爵位剥奪』は避けられない。


 だが……


「ラズリア伯爵公子は、心身への影響が大きい為、王立学校を退学。

 フスト医療学校に送る」


 フスト医療学校とは、学校と銘打ってはいるが実際には精神に異常をきたした者や

 特別思想を持つ者を隔離するための場所である。


 貴族がここに送られる。それは即ち落第者の判を押されたに等しい。

 貴族としての栄達の道がほぼ途絶えたと言えるだろう。

 だがそれでも死刑にならないだけまだましであろう。


「……それだけで?」

「……ああ、不服かね?」

「いえ、私に口をはさむ権限はありませんので。」

「それでいい、君も今の地位を失いたくはないだろう。」

「もちろんです。では、私は隊にもどります。」

「うむ、この事は……」

「はて? なにかここでありましたでしょうか?」

「……いや、今回の事件の……被害者が()()()()()()殺されたという

 報告をしに来ただけだよ。」

「はい、その通りです。それでは……」


 そしてベイカーは退席する。

 彼は数少ない信頼に足る人物。漏れる事は無いだろう。


 イグルス殿下派の伯爵公子が事件を起こした。

 それは今の状況ではあってはいけない事。


「くそっ!」


 私は机に(こぶし)を強く叩き付ける。

 その衝撃でコップが倒れ僅かに残った水が零れる。


 王国の為にしたかった事は、こんな不毛な後継者争いの尻拭いではない。


『この国を良くしたい』


 その一心だった。


 侯爵家の次男に生まれた事に感謝した、宰相への道筋が開けていたのだから。

 そして十年前、念願の宰相になった時、今まで隠された現実を見た時、愕然(がくぜん)とした。

 こうもこの国は斜陽していたのかと。


 なのに貴族共は私欲の為、保身の為、後継者問題を起こした。

 自分にできた事は、その事による国の摩耗をいかに抑えるかであった。


 ……そして、私の目に報告書に記載された1人の名前が入ってくる。


「エルスティア・バルクス・シュタリア。番犬の子はやはり番犬であったか」


 今回の事件は教師や現場で対応した学生たちによって大惨事を未然に防ぐことが出来た。

 そしてその中にあった、番犬の子の名前。


 それは希望。

 儚い、だが大化けする可能性を秘めた……


「レインフォードよ、この子は希望。頼むぞ……」


 そしてその可能性を強く願うのであった。

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