第8話 ■「世界探訪しよう(本の上で)」
こんにちは、もしくは、こんばんは。
エルスティア・バルクス・シュタリアです。
一歳を迎え、エルと呼ばれることに慣れた昨今、歩行できるようになったおかげで世界が広がりました。
なんと、疲れることなく二階に上がれるまでになりました。
でも三階に上がるのはまだ疲れるのでもう少し先のお楽しみとして取っておこうと思っています。
楽しみを一気に消化しない。それが人生を楽しむ秘訣ですから。
二階も自由に散策できるようになったおかげで僕が求めていた場所にたどり着くことが出来るようになりました。
我が家の書庫です。いやぁ、素晴らしい蔵書の数々です。
我が家系はどうやら読書が好きなようで古い歴史書や専門書も数多くあります。
これでこの世界の歴史や制度、地理・風土・技術などの情報を得ることが出来ます。
我が祖先に感謝の言葉もありません。
今日は自分の身長が届くところにある、エスカリア王国の歴史書を読んでいきたいと思います。
どうやら、バルクス伯はこのエスカリア王国の領土の一部のようですね。
エスカリア王国が誕生した年を王国歴1年として、なんと今年で二百九十三年となるようです。
江戸時代より長いなんてすごい王国です。
(ちなみに僕は王国歴二百九十二年生まれになるようです)
現国王は、アウンスト・エスカリア・バレントンと言い第二十四代国王となります。
王都は、ガイエスブルクという名前でエスカリア王国のほぼ中央にあります。
エスカリア王国はラスリア大陸のほぼ中央に存在し周辺をいくつかの国で囲まれている立地になります。
とはいえ、エスカリア王国自体、東西南北の四方が山に囲まれた広大な盆地内に存在するため山間を通る街道を守備すればほとんど問題ない、かなり有利な地形となっています。
北方は、オーベル帝国という国と接していますが、両国の仲としては修好条約が結ばれておりエスカリアからは食糧がオーベルからは鉱石をメイン商品として交易がおこなわれております。
多くのゲームで帝国=悪のイメージを持っていた僕としては、若干肩すかしです。
東方は、大小さまざまな国の集合からなるベルカリア連邦という国と接しており、小規模な衝突が数年に一度程度の頻度で発生しています。
まぁエスカリア王国のほうが国力は上で、エスカリア王国としてもベルカリア連邦の領土には資源的魅力が無いらしく、うるさいハエを追い払う程度の認識の様です。
西方は、グエンサリティスファルンテと名前が長いのでグエン領と称される国があります。
なんと、みんなの憧れ、数多の亜人たちが生息している地域の様です。
我が国とはほとんど交流がないので謎に包まれた領域になっています。
中には変わり者の亜人がエスカリア王国に旅人として流れ込み定着していたりしていますが、絶対数としてみますとかなりの小規模となっています。
南方は、魔陵の大森林と呼ばれる、未知の大森林が広がっています。
そこから陸空問わずにエスカリア王国にモンスターが侵入してきており、王国の騎士の主な仕事は、侵入してきたモンスターを発見次第退治することになっております。
我が麗しのバルクス伯の位置と言いますと、エスカリア王国の南西の領境に位置しています。
お分かりいただけましたか?
バルクス伯は常に全貌が明らかになっていない亜人とモンスターの脅威にさらされているのです。
嬉しくて神様に拳の一つでもプレゼントしたいくらいです。
まぁ、僕の使命としては人類滅亡を回避するというのがありますので、要因最有力である二つの問題に即対応できると好意的に考えておきましょう。
とはいえ、亜人については歴史的に見ると、ここ数十年接触が無いので、モンスターの脅威が当面の問題というところでしょうか?
さて、話を戻してエスカリア王国の体制ですが、王国と言うように国王をトップとした君主制を取りつつ各領土に有力貴族を封じて
管理させる封建制を取っています。
王都の周りを『根元貴族』と呼ばれる公爵十四家が封じられ、その外周を侯爵二十七家、さらに外周を伯爵、子爵家が封じられるという形になっています。
国王は、各領土については原則不介入のようで、同じ王国内で領土を巡ってのいざこざは日常茶飯事で流石に大貴族(公爵や侯爵)に表向きに喧嘩を売る者は少ないようだけど、「どこの子爵領がどこの伯爵領の一部になった」とかは、メイド同士の噂話で聞くことがあります。
過去には大貴族同士の戦争が始まり、それを止めるために国王が介入した。
なんてこともあるらしいですが、それは特例と言えるでしょう。
なので、大概の貴族たちは自衛のため大貴族派閥に属していることが一般常識になっています。
そして大貴族たちは、大概が王位継承権を持っている王子や王女の後見人になって王位を巡って裏で色々と権謀術策をめぐらしているそうです。
まったく、人間関係の面倒臭さはどこに行っても同じらしいですね。
バルクス家は、父親の話を聞くと、特に何処かの派閥に入らず、ほとんどの派閥とある程度の距離感を保ってほぼ中立という立場のようです。
おいおい、それで領土の所有権請求されないのか?
って思っていたけど亜人領や魔陵の大森林に接して面倒事しかないゴミ領土という認識だそうで、まぁ、そんなところ取っても
維持するのがめんどくさいんでしょうね。
一応、とある王女と親交はあるらしいけど末子も末子で継承権も無いに等しいようで、他の大貴族たちにも歯牙にかけられていないそうです。
うむ、うちの父親は思っていたより大物なのかもしれない。
僕自体も派閥争いなんて言う面倒臭いことに巻き込まれるのは、勘弁なのでありがたい事です。
あ、今までの名前を見てもらえば分かるように封領を持つ貴族についてはミドルネームとして封領名がつく事が許されます。
僕の場合は、父親がバルクス領に封じられているのでミドルネームとしてバルクスがついています。
それ以外の名前についてはファーストネームとラストネームという方式だね。
転生前の感覚で言うと「エルスティア=雄一」「シュタリア=藤堂」ってことになる。
家の中では大抵「エル」という愛称で呼ばれるから「シュタリア」ってのにはまだ慣れないんだけどね。
さて、いつの間にやら日も傾いてきました。
本日の読書はここまでにしようと思います。
それではまた、どこかでお会いしましょう。
…………ふぅ、なんか本を読むことが出来るようになってテンションがおかしくなったな。
次はもう少し落ち着いてやる事にしよう。