第69話 ■「未来への布石」
年が明けて僕達は十歳になった。
そんなある日、家に戻ると綺麗に包装された箱が幾つか置かれていた。
「フレカさん、この箱ってなんですか?」
傍にいたメイドトリオでメイド長のフレカさんに尋ねる。
「本日、ご自宅から届いた品です。
エル様とベル様の御誕生日プレゼントかと」
あぁ、そういえば。と思い出す。
この世界では五の倍数毎に生誕祭として盛大に祝うという事を。
さすがに、二人とも封領を放ってガイエスブルクに来るわけにいかないから誕生日プレゼントを贈る形にしたのだろう。
包装紙には確かに「エル へ」「ベル へ」と書かれたプレゼントカードも貼られている。
僕は自分あてのプレゼントの包装紙を丁寧にはがす。
箱を開けると幾つものプレゼントが入っている。
まずはっと。。。こ!これは!
色紙大の紙には二人分の可愛らしい手形が押されている。
そして拙いながらも
「エルお兄ちゃん。お誕生日おめでとう。お勉強頑張ってね。 クイ」
「エルお兄ちゃん。お誕生日おめでとう。早く会いたいな。 マリー」
と書き込まれたメッセージ……よし、我が家の家宝としよう。
そして次は、アリシャとリリィからのお手紙。
そうか二人とも、もう六歳、大分綺麗な文字で書けるようになっている。
二人とも毎日、僕のように魔法の練習や運動をしているらしい。
二年後に会えることをとても楽しみにしている……か。
やばい、涙が出てきた。これも家宝だね。
そして父さんと母さんからは、僕が愛飲していたアウトリア産の茶葉だ。
王都に来てから二年。流通自体も殆どしていないから持って来ていた茶葉はつい先月に無くなっていた。
僕が今一番欲しいものを送ってくれるなんて流石だな。
これでまた、お茶を楽しむことが出来る。
で、家族皆からのプレゼントを受け取ったところで、
なぜかもう一つ箱が残る。しかもかなり大きい。
人が二・三人位は入れるんじゃないか?
「フレカさん、これ誰からだろう?」
持って来てくれていたフレカさんに尋ねる。
「もうしわけありません。送り主は分かりかねます」
……うーん、大丈夫なんだろうか?開けたら大爆発!!とかしないよね?
いや、さすがにこの世界には火薬がまだ発明されていないから大丈夫か。
かといって放置しておくのも気になる。
僕は慎重に包装紙をはがしていく。
何かがあった時のためにアイスボールを二つ待機状態で詠唱しておく。
「さてと……」
僕はゆっくりと箱のふたに手を掛ける。
それと同時に勢いよくふたが勝手に開く。
(くそっ、やっぱり罠か!)
咄嗟に僕は待機状態にしていたアイスボールを箱に叩き込む。
ガァィィィィィィィィィィィィン!
アイスボールと何かがぶつかり金切り音が響き渡る。
「ま!まてまて、エルよ!ワシじゃ!」
突如箱の中から大声が発せられる。
あれ?この声。どこかで聞いた気が?
残りのアイスボールは一旦、待機状態のままにして箱の中を覗き込む。
そこにいたのは老人。……うん、五年ぶりですね。
「まったく、久しぶりに会うというのにひどい目にあったわ」
「僕の立場を考えてくださいよ。神様。
暗殺の可能性を考えて対処しますよ」
「ふむ、ちょっとしたお茶目なサプライズのつもりじゃったんじゃがな。
大きくなって攻撃的になって。反抗期というやつかの?ワシは悲しいぞ。
今後は、普通に登場する事にしよう」
アイスボールの衝撃で破れた箱から神様は出てくる。
こんなことをブツブツ言っているけれどアイスボールが直撃した筈なのに傷どころか服にすら汚れが一つもない。
うーん、神様を倒すなら最低でも上級魔法が必要か?なんて思ったりする。
「こんなサプライズをするために箱の中にどれくらいいたんですか?」
「たしか三時間ほどかの?危なく寝落ちするところじゃったわ」
「その情熱をもっと他の所に注いでくださいよ」
「ホホホ、さてと、十歳になった事じゃから次の『ギフト』を授けよう。
考えてきたかの?」
「はい、あ、その前に疑問に思っていたことを聞いて良いですか?」
「ふむ、なんじゃ?」
「神様の目的は、転生者をモニタリングして情報収集するって事ですよね?
この場合、転生者はかなりの人数がいると思うんですけど。
転生先・時代背景といった要素がそれぞれ異なると情報の精度が下がるんじゃないですか?」
「うむその事か、答えとしては転生者が生まれる環境は全員共通なのじゃ。
つまりは全員がラスリア大陸のエスカリア王国バルクス伯の長子もしくは長女として誕生する。
出来るだけ転生前の性別に合わせておる。その方が都合が好いじゃろ?」
「ということは、スタートから当面は歴史の流れ的に同じなのですか?
赤ん坊の間は、歴史への影響ってほぼ皆無ですよね?」
「いや、転生者が生まれた時点からそれぞれ独自の歴史の流れになる。
そういったランダム性を持たせるようにしておる。
転生者に最初に送るギフトによって既に歴史は変わっておるからな。
お主の場合、第三者への力付与をしている分、全体的な運命を
かなりいじる必要があって大変じゃったぞ」
「なるほど、ありがとうございます」
生まれた時点から転生者の数だけ並行世界が出来ていくイメージか。
ということは、別世界にもベルやリスティがいるんだろうか?
ギフトを持たない彼女たちにも少し興味はあるな。
「さてと、それではエルよ。お主は何を望む?」
「はい、医術、特に免疫学と防疫といった感染症、生物災害への知識を持った人物を望みます」
この世界には医者がほぼいない。治癒魔法が医者代わりになるからだ。
確かに治癒魔法は便利だ、だけれど逆に言えば治癒魔法での治癒が不可能、感染症や生物災害といった目に見えない脅威にはあまりに脆弱と言える。
もしかしたら必要ない能力なのかもしれない。
そうであれば貴重なギフトを使う事になるから確かに躊躇する。
けど、こういった防疫については、経済と同じく膨大な時間が必要だ。
気付いた時にはもう遅い。になりかねない。
……こんな神様だ。次のギフトが貰えるちょうどいいタイミングでバイオハザードが発生するってのが怪しいからね。
ギフトを貰った翌年に……とかやりかねない。
転生者分、並行世界になるとはいえ、人類が滅びる原因と発生タイミングはある程度同じにしてあるだろう。
そして、恐らくかなりの人数のモニタリングをしているだろうと想定すれば、嫌らしい仕掛けをしていると考えたほうが分かりやすい。
「ふむ、また人材か。本当にそれでいいのだな?」
神様はいつものように念押ししてくる。
姿は普通の爺さんだけれど、恐ろしいほどの圧が来る。
自分の思惑は実はズレているんだろうか?と不安を感じるほどに。
でも……
「はい、問題ないです」
僕は強く返す。
すると今まで感じていた圧が霧散する。
「ふ、ふふふふ。面白い。エルよ、やはりお主は面白いの。
今まで何人もおったが、十歳時点でこの布石を置いた者は初めてじゃ。
もちろん、この布石が本当に生きるのかどうかは語らんがの」
神様はそう語る。
その語りが暗に僕が正解(これだけがすべてではないだろうが)の一つに辿り着けたのだと確信する。
「それでは、また五年後に会おうぞエルよ」
「はい、それでは五年後に……」
そして、神様は徐々に薄くなり消えていく。
今日、一つ手を打った。その才を持つものと会えるのは何年後だろう?
その力が十分に発揮できるようにしておかないとな。
まぁ、発揮できないのが本当はいいんだけれどね。
今回で第二部「学生 初等部編」は終わりです。
次回からは第三部「学生 中等部編」になります。




