第65話 ■「新顔(ニューフェイス)4」
「あー、あれきっついんだよなぁ」
三人の試合を見ていたアインツは呟く。
自分との試合を思い出して苦笑いする。
まったく自分の時と同じような方法だ。同情する。
三人の試合はある程度一方的になりつつあった。
レディアンドもブルスティアも、単純な剣術で言えばエルよりも上だろう。
けれど現状、二人とも見えない恐怖と戦っているのと同じだ。
エルと打ち合いながら、いつ展開されるかわからない魔法の鎖にも意識する必要があるからだ。
しかも魔法の鎖には「直線型」「誘導型」「電撃型」があり、今自分に向かってきているのが何か?を見た目で判断する事が出来ない。
(エルが聞いたら「電撃型」はコンセプトが別物です!と怒るだろうが……)
エル自身は魔法力の消費を考えて「直線型」をほぼ使用しているが、時たま「誘導型」「電撃型」を混ぜてくるから質が悪い。
どの型でもいいように対応する。
それは想像以上に精神力を摩耗させる。
エルの術中に嵌ってしまった以上、ここから挽回するのは難しい。
二人は恐らく、エルの魔力切れを狙う方法に舵を切ったのだろうが、エルの魔力量を考えると、先につぶれるのはどう考えても二人の方だ。
アインツのエルに対する評価は、「貴族らしくない貴族」だ。
貴族、特に『生まれからの貴族』は、剣術にしても戦術にしてもやたらとその綺麗さ、いわゆる『エレガントさ』を気にする。
そんな物が戦場でまったく意味がないにも関わらず。だ。
けれどエルは剣術・魔法・戦術、いや、普段の生活からだ。
全てにおいて効率・効果を重視する。
『より上手に勝つ』
の為であれば、プライドもあっさりと捨てる。
エルにはそもそもプライドなんて無いのでは?と思う事もある。
こんな貴族を見たのはアインツ自体、初めてだった。
だからこそ彼に魅かれたのかもしれない……いや、俺に男色のけは無いよ。
だからエルに最初に家臣にならないか?と誘われたのはまさに天啓だった。
ユスティの事(母親の心配)があったから直にYESとはいかなかったけれど母親の説得については、俺が一番積極的だったかもしれない。
そして、今でもその判断は間違っていなかったな。と思う。
エルの下であればこれからも、もっとすごい事・面白い事が起こりそうな予感は尽きることは無い。
物思いにふけっている内に3人の模擬戦は終局を迎えていく……
――――
「そこまで! 勝者エルスティア!」
バインズ先生の宣言をもって勝負は終了する。
僕の前には四つん這いになりながら肩で息をするレッドとブルーがいた。
負けた事で恐らく不採用になったと思っているのだろう。
悔しそうな顔をしている。
そんな二人に僕は声を掛ける。
「うん、合格!」
一瞬、僕の言葉の意味が分からなかったんだろう。
二人は呆けてお互いの顔を見合う。
それが腑に落ちていくことで次第に笑顔になる。
「ですが、どうしてですか?僕たちは負けたのに?」
ブルーが僕に尋ねてくる。
まぁ、彼らにとっては負け=不合格だと思っていたんだろうからね。
「もともと、勝ち負けは考慮してなかったからね。
僕がやる事にどう反応し、どう対応するか?の方が重要なわけで。
それに、今までの二人の僕に対する対応。
そこに嫌な部分が無かったのが決定的かな」
最初は、他の貴族、特にラズリアからの回し者を疑ったけれど、僕に仕えたいと言ってきた以降も打算的な部分を感じる事が無かった。
なので彼らの力を確認できれば、よほどの事……例えば、貴族のように自分の力量を過信している。が無ければ合格だった。
もともと、僕は平民から部下を探し出すことが目的だったわけだし、彼らは願ったり叶ったりの人材と言える。
……毎日のように模擬戦を懇願されたから折れたってのは少しあるけどね。
とりあえず、これでアインツ、ユスティ、レッド、ブルーが僕の最初の部下になった事になる。
いずれは、リスティとメイリアも仲間になってくれると嬉しいけれど。
けれどこれで軍の方では当初想定のメイン人材は確保できたかな。
父さんの跡を継いだ後に新たに三部隊ほど新設したいと考えている。
もちろん、いま父さんの指揮の下で活躍している騎士団はそのまま残す。
治安と言う部分ではやっぱり現状の騎士団の力は欠かせない。
僕が新設する部隊は、滅亡に対しての対抗手段としてだ。
本当はもっと新設したいところではあるけれど、バルクス伯の人口や予算を考えると三部隊が限界だ。
増設はバルクス伯をもっと富ませる事に成功してからになる。
先ずは、僕としてはこの3部隊を優先して近代化させたい。
現状の剣や弓ではなく重火器だね。
試験部隊の意味合いも強くなるだろう。
近代化に関してはベルにメインで動いてもらう予定だ。
第一部隊は軍馬やミルス(軍馬代わりのダチョウみたいな動物)といった高機動力で要所の早期占拠を目的とした部隊を想定している。
最初は軍馬やミルスを活用するけれどいずれは、自動車に転換していきたいと思っている。
第二部隊は機動力よりも破壊力・打撃力に重きを置き、敵の要所を奪還する事を目的とした部隊を想定している。
要所奪還を考えると砲兵も必要になるだろうね。
第三部隊は第二部隊とは逆に要所の防衛を目的とした部隊を想定している。
相手の武装を考えると魔法への対抗手段の検討が必要だろう。
ま、みんなが大嫌いな鉄が、大活躍する事になるだろう。
鉄の汚名返上だ。
そして部隊編成については下記を予定している。
第一部隊は隊長にアインツ、副隊長にユスティ。
第二部隊は隊長にレッド。
第三部隊は隊長にブルー。
第一部隊については、複数要所への同時攻略の可能性があるので、隊長・副隊長制度にする。双子だし連携の面でも問題ない。
この三軍と既存の騎士団全体を管理する軍令部を設立。
軍令部長にはリスティになってもらいたいと思っている。
ただ、リスティの経験不足を軽視される事が懸念点としてあるから軍令部長にバインズ先生、軍令部参謀にリスティが当面良いのかもしれない。
うん、どんどん夢が広がるねぇ。
……まだ学生の身分だから先の話だけどね。




